見出し画像

secret! 第1話 『秘密は、突然に』

僕、朝比奈 湊(あさひな みなと)
には誰にも話していない"秘密"がある。

物語を書いている。
書くことで自分が何者なのかを、知りたいからなのかもしれない。

『本音は、いちばん奥、隠した場所に出る』

この言葉が僕の心に引っかかるのは、きっと―― 自分自身が、誰かの「本当の場所」を見つけられないでいるからだ。

いつの頃からか、人に感動を与えるような物語を書きたいと思い始めた。
web小説をいくつかSNSで掲載してみたけど、閲覧数も評価も大したことはない。
誰か一人でも、「この言葉で救われた」と言ってくれる物語を書きたかった。
「ふぅ.……」
深いため息をつく。
要するにパッとしない……今の自分には何かが足りないのだ。フックと言うか、心に引っかかる"響く言葉"を探していた。

 窓際1番後の席。
ぼんやりと窓の外の運動場を眺めていると、
予鈴が響き、先生と一緒にひとりの女子生徒が入ってきた。
見慣れない制服。
教室内が、ざわつく。

「さぁ、転校生を紹介する」
先生に促されて、彼女はよく通る澄んだ声で話し始めた。
「はじめまして……天音澪(あまね みお)です。親の仕事の都合で、こっちに引っ越してきました。前の学校はバレー部の名門校でしたから、私も少しバレーをしていました。
私は、この学校でやり直したいと思っています。よろしくお願いします」
皆が拍手する。

なんだろう…この違和感。

「はいじゃあ朝比奈。空いてる隣、案内してやれ」
「え、僕ですか?」
「お前の隣しか空いてない」
クラスの視線が集まる。 
やめてくれ。こういうイベント耐性ないんだけど…。
「よろしく」
澪は軽く会釈した。

その時だった。
彼女の視線が、湊の鞄にぶら下がったキーホルダーで止まる。
アニメキャラのアクリルキーホルダー。 深夜アニメ『リゲイアの海』の限定グッズ。
彼女の長い睫毛が一度だけ震えた。

「……それ、好きなんですか?」
「え? ああ、まあ」
「……そうですか」
温度が消えた声だった。
それ以上、彼女は話さなかった。
休み時間になると、澪の周りには人だかりができる。遠目に見ても、目を引く美少女だった。綺麗な長い髪に、透き通るような白い肌。静かな声なのに、不思議と耳に残る。
周りの反応に反して、彼女は愛想笑いを浮かべるだけで、どこか壁を作っていた。
そして、湊には、明らかに距離を取っていた。
(……なんだ?)
心当たりはない。

放課後の教室。
消し跡だらけのノートのページ。
アイデアを書き貯めたメモの海を泳ぎながら、僕は書き始めの1文を眺めていた。

「ガラガラガラ…」
教室の引き戸が動く音に顔を上げる。

「天音さん…」
「……」
どうやら、彼女もバツが悪そうだ。
「忘れ物したから…」
慌ただしく机からノートを取り出すと、逃げるように出ていこうとする。

こんな時、どう言えば……
「あの……僕、なんかしたかな?」

「!……」
天音さんの瞳が一瞬大きく見開き、こちらを向いた。
視線が僕のアクリルキーホルダーに向く。
悲しそうな歪んだ表情。

「天音さん、どうして"やり直したい"だったの?」

次の瞬間、彼女の頬に静かに雫が流れた。
僕は喉が渇く感覚を覚えて、唾を飲み込んだ。
彼女が震える声で話し始める。
「人の心って、すぐに変わるでしょ」
「え?」
「好きとか、仲良いとか。そんなの一瞬で変わる」
その声は静かだった。
夕暮れの緩やかな西日が、彼女の頬に伝うものを光らせていた。
僕は不謹慎にも綺麗だと思ってしまった。
「だから私は、失敗しないようにしたいんです」「失敗?」
「期待しない。踏み込みすぎない。嫌われないようにする」
まるで、自分に言い聞かせるみたいだった。
湊は言葉を探す。
でも気の利いた台詞なんて出てこない。
 小説ならいくらでも書き直せるのに、現実は一発勝負だ。
 だから結局、口から出たのはそんな綺麗な言葉じゃなかった。

「人の心は、変わらないよ。
変わるのは、心じゃなくて行動だよ」
僕は自分でも、何を言っているのか分からない。
だけど…彼女には何か伝えないといけない。

(本音は、いちばん奥、隠した場所に出るんだ)

「その人は、本当はそんな風に思ってなかったかも知れない。
でも、そう思うような行動を取ることもある。
きっと、仕方ない理由があったのかも知れない。
もしかしたら、本音を知られるのが怖かったのかも…。
人の心は、そんなに簡単には、変わらない。
僕はそう思うんだ」

その言葉が、不思議なくらい静かに、確かに彼女の胸に落ちたようだった。彼女はハッとしたように目を開くと、少し恥ずかしそうに涙を拭った。
「……湊くんは、悪い人じゃなさそうね」
「え?…僕ってそんなに警戒されてた?!」
「あっ!……ごめん、そうじゃなくて」
いつの間にか笑顔になっていた。

僕には"秘密"がある。
でも、彼女にも"秘密"がある。
僕たちは、秘密というべールで隠された生き物だ。
きっと、誰もがそうなんだ。

「さぁ、帰りましょうか」
天音さんは、そう言うと少しだけ笑った。
その笑顔を見た瞬間、
僕はたぶん――
"秘密"がもうひとつ増えてしまったことに気づいた。

secret!第1話 『秘密は、突然に』
終

おまけ画像

天音 澪(あまね みお)
朝比奈 湊(あさひな みなと)

👇️Xで公開したOP曲も良かったら見てください


いいなと思ったら応援しよう!