第46話「挑戦」
3人の休憩室飲み会も進み、夜もかなり更けていた。
空になったビール缶や皿がテーブルの上に並び、どこか心地よい疲労感が漂っている。
そろそろお開きにするような雰囲気が流れ始めたその時、ふと寛美が口を開いた。
寛美「そういえばといってはなんですが、うちのお店って男性店員さんいないですよね」
一呼吸置いて健郎は答えた。
健郎「うん、そうだね。」
寛美「なんかあったりするんですか?」
健郎「いや、全く何も意識してないよ。ただ何も考えずにうちを受けに来た人に対して面接したりして採用していったらこんな感じになっているだけで。」
寛美「そうなんだ。これから農作業をする人とかも雇ったりしなきゃだとおもうし男性の社員さんも採用していった方が良いんじゃない?」
健郎「そうだよねー。。」
香名は少し考えるような表情を浮かべながら口を開いた。
香名「それでも店長は受けに来た男性を落としてるって事ですよね?」
健郎「まあそういうこともあるかなー。」
香名「なんで落としたんですか?」
健郎は少しだけ視線を落とし、静かに言葉を選んだ。
健郎「うーん、一概にこれとは言えないんだけど、一つ言うとすれば、集中力かな。」
香名・寛美「集中力?」
健郎「うん、集中力。これはどんな仕事でもそうだと思うんだけどね、仕事の内容とは全く関係ないことを考えている事が多いと感じるんだよね。」
香名「なるほどね。例えば?」
健郎「例えばね、仕事をしているときに、接客とか対人で仕事をしていたとするよね。その時に、相手に対して、この人はこの感覚がおかしいな、そしたらこうしてやろう。とかって考えたりしてさ、話をしている語尾にごにょごにょっと何かほのめかすような言葉を混ぜてみたりだとかさ。」
寛美はすぐに反応した。
寛美「あーあるある。良くありますよねそういうの。それを聞いたこっちはこっちで嫌な思いするし、それを今度こういう風に言われるんですなんて相談員したものだったら統合失調症なんじゃないかとか疑われたりするんだよね。あれは悪質だわ。」
健郎「うん。そしてそんなことを考えている暇なんて本来であればないはずなんだよね。おれはそういうのはまず認めないからさ。」
香名「なるほどねー。」
健郎「うん。だから仕事とかを見てたりもするし、その人のプライベートな部分でも見てたりもするんだよね。」
香名「たしかに、試用期間の人とは毎日のようになんかかんかしてプライベートでも付き合い持ってましたよね。」
健郎「そうだね、それでもそういうのを見てから雇えませんなんて言うのもかなり大変だったりするよ」
寛美はビールを片手に笑いながら言った。
寛美「その努力の賜物ですな、この一匙は。なんかデザインが沸いてきた」
健郎「よし、そしたら今日はこれにてお開きにしますか」
香名「そうだね。」
寛美「またみんなで飲もうね」
3人は充実した気持ちで休憩室飲み会を終えた。
そして次の日。
朝の静かな一匙。
健郎は店の入り口へ、一枚の求人募集の張り紙を貼っていた。
そこには、丁寧な字でこう書かれていた。
「一匙と一緒に農作業をしませんか?
是非とも皆様のお力をお貸し下さい。」
健郎はその張り紙を少し離れて見つめる。
料理。
農業。
人。
これまで守ってきた「一匙」は、また新しい挑戦へと歩き始めようとしていた。
第47話へつづく