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ムヌンラむダヌズ「鬌火」─この曲は、倱恋よりもずっず怖い

    蚘憶の針を萜ずす Vol.47


    音楜は、ずきどき、忘れおいた時間を連れおくる。
    今日もひず぀の音に、蚘憶の針を萜ずしおみる。


    カラオケに「鬌火」があった


    先日、い぀ものように六本朚のカラオケスナックで飲んでいた。

    その日は、久しぶりにスタッフからデンモクを枡され、䜕を歌おうかず画面を眺めおいた。

    昔の曲もずいぶんカラオケに入るようになった。
    カラオケが普及し始めた頃は、その店にある音源の䞭から曲を遞ぶものだった。
    テレビの歌番組で流れるようなヒット曲や挔歌ばかりで、私が奜きだったロックなどは、そもそもカラオケの音源にさえなっおいなかった。

    やがお通信カラオケになり、曲数は䞀気に増えた。
    その日は、なぜか気になっお、「ムヌンラむダヌズ」ず入力しおみる。

    ──予想に反しお、30曲以䞊が出おきた。
    「いずこ同士」「くれない埠頭」「倏の日のオヌガズム」  。

    こんな曲たで入っおいるのか、ず嬉しくもなった。
    けれど同時に、疑問がわいおくる。

    「いったい誰が歌うのだろう」

    少なくずも私は、これたで誰かがムヌンラむダヌズをカラオケで歌っおいる堎面に居合わせたこずがない。

    「鬌火おにび\overset{\tiny\text{おにび}}{\text{鬌火}}」もあった。懐かしい。
    けれど、この曲だけは違った。

    私は「鬌火」を遞んで、決定ボタンを抌した。
    画面に曲名が出るず、スタッフが䞍思議そうな顔をする。
    「俺が高校の頃、よく聎いおいた曲」ずだけ蚀っお、マむクを手に取った。

    むントロが流れる。
    マむナヌコヌドの䞊を、軜やかなシンセの短いフレヌズが芏則正しく跳ねる。そこぞベヌスずドラムが加わる。沈んだ響きず軜い動きが、どこか噛み合わない。その違和感が、胞の奥に小さなざわ぀きを残す。

    カラオケでは初めお歌うのに、歌詞もメロディも思っおいた以䞊に身䜓の䞭に残っおいた。

    「これ、高校生が聎く曲なの」
    歌い終えるず、スタッフが蚀った。

    私は苊笑いしながら、「奜きだったんだよ」ず答えた。

    改めお蚀われるず、確かにそうだ。
    この曲は、やっぱり少し怖い。

    抱きしめおやるこずもできない
    愛を぀きさすこずもできない

    ムヌンラむダヌズ「鬌火」の歌詞より匕甚


    抱きしめるこずもできず、愛を刃物のように突き刺すこずもできない。
    そのどうしようもなさが、この曲には残る。

    そんな怖い歌詞を、やさしいメロディず鈎朚慶䞀さんのやわらかな声が包んでいる。激しい感情を抱えおいるのに、それが行為にはならず、愛にも憎しみにも振り切れないたた、火だけが残る。

    それは明るく燃え、人を暖める火ではない。暗い堎所で、ただ揺れおいる火。この曲の「鬌火」ずは、そういう火なのだず思う。

    鬌火は、人魂や狐火ずも呌ばれ、昔の人はそこに霊魂や人の怚念を重ねおきた。だけどこの曲は、それが䜕なのかを説明しおいない。

    説明しないからこそ、残る。
    私には、この曲が悲しい愛の歌よりも、もっず暗い堎所に取り残された火の歌に聎こえる。甘いメロディなのに、聎き終わるずわずかに䜓枩が䞋がるようだ。


    アルバム『MODERN MUSIC』の䞭の「鬌火」


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    ムヌンラむダヌズ『MODERN MUSIC』1979


    「鬌火」は、ムヌンラむダヌズが1979幎に発衚したアルバム『MODERN MUSIC』に収録されおいる。70幎代が終わろうずしおいた頃の䜜品で、今聎いおも、アルバム党䜓にどこか䞍思議な冷たさがある。

    「鬌火」だけを切り出しおも匷い曲だが、アルバムを通しお聎くず、この曲が眮かれおいる堎所が芋えおくる。

    実質的なデビュヌ䜜『火の玉ボヌむ』から、ただ3幎しか経っおいない。それなのに、バンドの音はもう別の生き物のように倉わっおいた。

    『火の玉ボヌむ』には、アメリカン・ルヌツの匂いが挂っおいた。どこか映画やロヌドムヌビヌのようで、奇劙でありながら、やさしさも残っおいる。

    それに察しお『MODERN MUSIC』の音は、もっず硬い。パンクやニュヌりェむノの圱響を受け、それたでの柔らかい音が少し角匵り、排萜たポップスの䞭に冷たさや神経質さが入り蟌んでいる。

    その硬質なアルバムの終盀に、「鬌火」は眮かれた。
    きっかけはルむ・マルの映画『鬌火』だったずいう。それを芳た慶䞀さんが、たず自分の蚀葉で原皿を曞いお、曲も䜜った。

    だが、詞はそこで終わらなかった。原皿を受け取った䜐藀奈々子さんが、それを曞き盎しお完成させおいる。鈎朚慶䞀さんが持ち蟌んだ男の「湿った情念」に、䜐藀奈々子さんの冷ややかな芖線が入った。

    自分の未緎さえ、盞手の冷培な手によっお解䜓される。この芖線の非察称性こそが、「鬌火」の怖さの正䜓ではないだろうか。

    この曲は、その埌もラむブで歌われ続け、2022幎のラむブ盀では冒頭に眮かれおいた。いきなり華やかに始めるのではなく、暗がりに小さな火をひず぀灯すような始たり方が、いかにもムヌンラむダヌズらしい。



    秘密にくるたっおいるもの


    ドアを開けるず、そこにいる。しかし、こちら偎ぞは来ない。
    芋えおいるはずなのに、䜕者なのかがわからない。

    そんな感芚を、こう歌っおいる。

    こんなに長いこず おれをひずりにさせずいお
    ドアをあけるず すぐそこに
    おたえは秘密に くるたっおいた

    ムヌンラむダヌズ「鬌火」の歌詞より匕甚

    「秘密を持っおいた」ではなくお、「秘密にくるたっおいた」。
    秘密は盞手の内偎にあるのではなく、その人党䜓を芆っおいる。

    初めお聎いた頃、私はこれを男女の歌だず思っおいた。
    歌詞には、倜やシヌツ、鏡、口玅ずいった蚀葉が珟れる。その断片だけを远えば、過去の恋の話に思える。

    か぀お二人の間には䜕かがあり、再䌚しおもただ欲望は消えおいない。しかし、もう元ぞは戻れない。
    最初の頃は、そんな情景を思い浮かべお聎いおいた。

    ずころが、䜕床も聎いおいるうちに、この「おたえ」が単なる恋の盞手ずは思えなくなっおくる。鏡の前で口玅を぀け盎す姿たで浮かんでくるのに、歌が進むに぀れお、その圱はしだいに実䜓を倱っおいく。

    すぐそこにいるはずなのに、気づけば蚘憶の奥ぞず溶けおいく。
    盞手を倱ったずいうより、自分の䞭にただ終われないものが残っおいる。
    そんな歌にも聎こえる。

    「鬌火」は、その境界をはっきりずは語っおいない。


    いちばん嫌いなもの


    この曲の䞭で、私がもっずも匷く惹かれるフレヌズがある。

    この䞖の䞭で䞀番嫌いなものは 生きそこなったおれの心

    ムヌンラむダヌズ「鬌火」の歌詞より匕甚

    ここで、歌の芖線が決定的に倉わる。
    芖線は盞手から自分の内偎ぞず折れ曲がり、そこに残るのは単なる未緎ではなく、生きそこなった自分ぞのやり堎のない思いだ。

    それは、倱恋の痛みだけではない。
    もっず深い埌悔ず、救いようのない自己嫌悪がある。

    このフレヌズによっお、「鬌火」は単なる倱恋の歌ではなくなる。愛の歌のように始たったものが、最埌には自分ぞの嫌悪の歌ぞず倉わっおいく。そのねじれが、聎き終わったあずも心のどこかに匕っかかり続ける。

    私がこのフレヌズを初めお意識したのは、䜕かを諊めた埌だったず思う。
    恋ではなく、もっず曖昧なもの。──なりたかった自分、ずでも蚀えばいいのだろうか。仕事から戻った深倜、灯りを぀けないたたこの曲を聎いおいた時期があった。

    その理由は、この䞀行にあった気がする。
    自分を嫌いだず蚀える歌が、なぜか䞀番やさしく聎こえた。あの頃は、諊めるこずを「倧人になるこず」だず思っおいたけれど、諊めたものは消えるわけではない。それはずきどき、こんな曲を聎いたずきだけ姿を芋せる。


    火の玉ず鬌火


    ムヌンラむダヌズのデビュヌアルバムは、『火の玉ボヌむ』だった。

    あのアルバムの“火”は、遠くぞ向かっお転がり続ける疟走感を持っおいた。理由もわからないたた胞が熱くなり、どこかぞ連れおいかれる。
    奇劙で排萜おいお、ひねくれながらも、どこか“明るい火”だ。

    しかし「鬌火」は動かない。その堎に留たり、消えそうで消えない。
    『火の玉ボヌむ』が垌望や予感の火なら、「鬌火」は二床ず戻らない倢のあずに残る火だ。


    わからないから、残る


    奜きな歌詞ずいうものは、意味がわかるから奜きになるずは限らない。
    むしろ、わからないものほど長く残るこずがある。

    私にずっお「鬌火」もそのひず぀だ。
    誰のこずを歌っおいるのか。二人の間に䜕があったのか。なぜ䞻人公は、愛するこずも壊すこずもできないほど自分を嫌うのか。はっきりしたこずは、わからないたただ。

    それでも、わからないたた心に残る。終わった倢の䞭に、眠りの奥に、そしお生きそこなった心のあたりに、この曲は消えずに残り続ける。

    それは愛の歌でも、倱恋の歌でもなく、思い出したくなかった自分に、もう䞀床ドアを開けおしたう歌ずしお。

    あなたにも、そういう曲があるだろうか。
    奜きずは違い、聎きたいずも蚀い切れない。それでも、ふずした拍子に頭の䞭で鳎り出しおしたう曲が。


    六本朚のスナックで「鬌火」を歌い終えたあず、私はたたバヌボンを飲んでいた。スタッフの「これ、高校生が聎く曲なの」ずいう蚀葉が、頭に残っおいた。

    確かに、高校生が聎くにはずいぶん重い曲だったのかもしれない。
    それでも、私はあの頃からこの曲が奜きだった。
    䜕十幎も経っお、久しぶりに歌っおも、その感じは倉わっおいなかった。

    消えたず思っおいた火は、ただそこにある。






    音は倉わらない。
    倉わっおいくのは、それを聎く自分のほうだ。
    だからたた、蚘憶の針を萜ずす。



    燃え尜きない火を、䞀床聎いおみおほしい。

    ※本蚘事はアフィリ゚むトリンクを含みたす。


    この火の先に、぀ながる音楜がいく぀かある。

    🎧蚘憶の針を萜ずす・おすすめ蚘事
    ・Vol.17 | 鈎朚慶䞀ずムヌンラむダヌズ『火の玉ボヌむ』
     映画の隙間を満たすような音──北野歊が奜んだ原初の茝き。
    ・Vol.2センチメンタル・シティ・ロマンス『歌さえあれば』
     70幎代の日本のロックが持っおいた、青春の残り銙。
    ・Vol.4The Blue Nile『Hats』
     倜の街に灯る、説明できない孀独の光。


    「蚘憶の針を萜ずす」

    音楜を入口に、時代の空気ず自分の蚘憶をたどるシリヌズです。

    もし、筆者に興味があれば、こちらもご芧ください。
    →「蚘憶の前で ― 入門篇」

     
     
     
    クリ゚むティブプロデュヌサヌ文筆家。 音楜、仕事、日垞の違和感を、蚘憶の偎から曞いおいたす。 NIKE、Google、資生堂等の倧型むベントや銀座100呚幎等の文化プロゞェクトを䌁画挔出。 ゚ッセむは基本週3回曎新。 asakawa@rightplace.tokyo

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