
接客業は、底辺職なのか。――どんなに優れたマーケティングも勝てない「最後の数分間」
私は正社員で接客業をして20年。
別に人とお話するのが好きなわけではないです。プライベートの人間関係もコンパクトで、人付き合いも全然良くありません。でも気が付いたらずっと接客業をしています。
たまたま、適性があったのだと思います。特別楽しいわけでも、めちゃくちゃやりがいを感じるわけでもないのにずっと続けていられるからには、私には接客業が合っている。
今回は、そんな中途半端な気持ちながら接客業に長年従事している私が、接客業について、まじめに考えてみたいと思います。
接客業を考えるきっかけになった出来事について。
とある喫茶店にて。
休みの日を満喫するために私はドライブに出かけました。闘病中の祖母を元気づけるため、その祖母を毎日気遣う母の気分転換のために、ふたりを誘ってのお出かけです。
祖母の体力を考えるとあまり遠くには行けません。まず、近くの喫茶店に入りました。祖母のリクエストのチェーン店です。
店に入ると、杖をつく祖母を気遣って近くの席に案内してくれました。心遣いがとても嬉しかったです。
ただ店内は空調がぬるく、換気がうまくいっていないのか、コーヒーではないむわっとした匂いがしていました。飲食店として、居心地が良いとは思えませんでした。(店員さんは気にならないのかな?)
コーヒーを飲み終わり、お会計を母が済ませている間、私は祖母の手を引いて車で待っていました。すると、少し不機嫌そうな母が来ました。
話を聞くと、お会計をしてくれた店員さんが親切ではなかったとのこと。
不満に思ったのは、1,700円のお会計時。1,700円ちょうどを出しているつもりで、間違えて1,800円を出してしまったらしい母への対応でした。
店「1,700円です」
母「はい。」
店「1,700円です」
母「ええと、はい。これでお願いします」
店「ですから1,700円です」
母「???……あ、100円多かったですね。すみません」
こんなやりとりがあったそう。
母は「もうあのお店には行きたくない」と言っていました。まあ、そうなるよね。
私もあの店は、変な匂いがするから行きたくないなと思っていました。
そして、母の話を聞きながら、私が店員だったらどう対応するかなとも考えました。
「ありがとうございます。100円多いので、お返ししますね」
どう考えても、勘違いで多く出してしまっているのだろうし、その勘違いを相手に気が付いてもらおうとするのは、お互いの労力と時間の無駄です。
空調の管理も、勘違いをフォローするのも、接する側の寄り添う力が必要です。
開発部がどんなに美味しい食事やスイーツを作っても、マーケティング部が店の設計やコンセプト、魅力的なフェアを練ったとしても、お店の印象はそこにいるスタッフさん次第。
その日、店員さんの力不足により、お店はリピーターを失ったのだなあと感じました。
次の日、マクドナルドにて。
こちらはとても良かったので企業名も出しちゃいます。
マクドナルドの株主優待を握りしめ、私は店内で注文をしました。
「ポテトのLをふたつと、コーヒーフロートをふたつ、もものスムージーをひとつください」
「はい。ポテトは今、期間限定で安くなっていますが、優待を使ってよろしいですか?」
「そうですよね……CMで見ました。うーん……」
「あ、もちろんどちらでも大丈夫です。優待も使えますので」
「じゃあ、優待使います。(丁寧に案内してくださり)ありがとうございます」
「承知しました。スムージーは優待が使えないので別でお会計お願いします」
「はい」
私の要望に対して、今、お店でやっているキャンペーンの話をしてくれて選択肢を提示してくれたことで、私はこのお店を信頼できるなと思いました。
ファストフード店はあまり利用しない人からすると、メニューがわかりにくかったり、次々打ち出すキャンペーンについていけなくなったりします。なのでこの店員さんは誠実でしっかりしているなと感じました。
私が注文したメニューを待っていると、先ほど注文をとってくれた女性が近づいてきました。
「すみません。アンケートにご協力いただけますか?お手数ですが、次回から使えるクーポンをお礼に発行できますのでよかったら⋯」
「はい、じゃあお答えします」
「ありがとうございます。スカート、素敵ですね」
「えっ!ありがとうございます!大変満足にしちゃいます」
「ふふ、綺麗で優しくて、お姉さん素敵ですね」
まじで言ってる?
断っておくと私は清潔を心がけてますが綺麗ではありません。スカートも6年前ぐらいに買ったユニクロのスカートです。だから身の程をわきまえているけれど、嬉しかったです。
アンケートは大変満足にしまくりました。
そして、帰宅してテイクアウトの袋を開けて衝撃。 もものスムージーを頼んだはずが、入っていたのはマンゴースムージーでした。
「まあ、いっか」と思ったのは対応してくれたクルーの方が優しかったから。(たまたま問題ないレベルの商品の間違いだったのもありますが)
注文は間違えられたけど、私はまたこのお店に来たいと思いました。私が単純すぎることも否めませんが、気持ちが良かったからです。
接客は企業の顔。
この出来事から、改めて、接客はその会社の顔であると思いました。だって今、めちゃくちゃマクドナルド好きですもん。明日も行きたい。
そして、それは魅力的な商品があるからではなく、価格が安いからでも、行きやすい場所に店舗があるからでもありません。
クルーのお姉さんが、丁寧に接客をしてくれたから。私を肯定してくれたからです。
そして、気がついてしまったのです。多くの企業が商品開発の努力や、広告によるブランディングだけではファンは増えないのではないかということを。
店舗にいて最前線で仕事をする、接客をするスタッフの心遣いや寄り添いのスキルでファンが増える。
会計時の少しのやりとりで、その企業の価値が決まる瞬間が確かにあるのです。
接客業(サービス業)は底辺なのか。
ふと思い出したことがあります。同僚が、友人に言われたといって傷ついていた言葉がありました。
「接客業とか、底辺の仕事じゃん。よくできるね」
接客業、販売職などはよく底辺と言われるのを聞きますよね。世間がそういうイメージを持つ理由は、私にもわかります。
平均年収が低い
激務で休みが不定期
専門スキルとして評価されにくい
学歴不問が多い
あ、書いていて悲しくなってきた。でも思い当たることばかり。
資格がいらず、体力と根性さえあれば誰でもできるイメージから、接客スタッフは替えがきく存在であると思われがちです。
それが、最前線で大切なお客様と接する重要な業務を担う、“ 接客 ”に従事する人たちを軽視してしまう風潮を作っている。
しかし自分がお客様目線に立ってみれば、接客スタッフが作り出せるものは、企業にとってかけがえのないものであると感じます。
お客様の信頼、安心の獲得。
企業に対しての好感度の上昇。
リピーター、ファンという固定客の獲得。
企業が成長していくのに必要なものを、現場の接客スタッフがコツコツと積み上げていけるのです。
接客は口コミになり、良い口コミはお客様を呼ぶ。
東京ディズニーランドや、スターバックスは特に現場スタッフの質が高いことで有名な企業です。
私みたいなコミュ障は、スタバのお姉さんに「今日はおでかけですか?」と聞かれて「あ、そこの西松屋へ行こうかなと⋯これはお出かけですか?」と焦っておかしな返答をしてしまいがちです。でも、「お買い物ですね。楽しんできてください」と笑顔で返してくれるから、またスタバに顔を出せる。
ディズニーランドも、困ったことがあったらキャストの人に聞けば優しく教えてくれるという安心感があります。
そしてどちらの企業も、日本人ならだいたい大好き(偏見)。だって親切なんだもん。
ブランド力がある企業ほど、お客様と直接つながる現場――いわゆる「ラストワンマイル」への投資や教育を、決して疎かにしないものです。
また、昨今はインターネットでの口コミを参考にしてお店を選ぶことも多いですよね。特に飲食店では口コミが客足に直結しています。
私も初めて行く飲食店ではまず口コミを見ます。味が薄い、金額が高い、店内が綺麗、そんな評価も気になりますが、接客について書く人も多いですよね。
・子どもに優しくしてくれて嬉しかったです。また行きたいです。
・元気でハキハキしていて気持ちのいい接客だった。
・無愛想で、声が小さくて、嫌な気持ちになった。もう二度と行きたくない。
などなど。一度の接客がジャッジの対象です。名誉の勲章を貰えるのか、永遠に消えないデジタルタトゥーとして残るのかは、そのとき対応したスタッフにかかっている。
お医者さんまで口コミを気にして患者さんに対応していると聞いたこともあります。世は口コミ戦国時代なのです。
接客はその企業の顔であり、消費者が企業の印象と価値をジャッジする判断材料。接客スタッフひとりひとりが、企業の未来を左右すると言っても過言ではありません。
「やあやあ我こそは〇〇会社のスタッフ!いざ尋常に勝負!」
接客業を底辺とか言ってる場合じゃないんじゃない?
私はなぜ接客業を20年も続けているのか。
給料も低いし、不定休だし、残業も多いし、人から評価されにくい。身だしなみや話し方のマナーも厳しいし、クレーマーもいるし、自分のコンディションに関わらず笑顔でいなければいけないし……。
最悪、全世界に向かって、口コミを書かれるリスクもある。
「もうこんな仕事やめてやる!」
と思うイベントが毎週発生するような接客業を、なぜ私は20年も続けているのでしょうか。人付き合いも好きじゃないのにね。
底辺だから??他にできる仕事がないから?
いいえ、違います。……たぶん、違います。
なぜでしょうね、自分でも不思議です。お店には毎日、違う人が来ます。その人の話を聞いて、その人に合った商品を提案する。どうしたら楽しんでもらえるのか、喜んでもらえるのかを自然と考えています。
「あの人から買った」そう言ってもらえるような接客をしたいし、なにより私が担当になったことでお客様に損をさせたくないし後悔をしてほしくないです。
こうやって案内したら、こんな反応が返ってきた。じゃあ、次はこれも試してみよう。あの人の接客はよく盛り上がっているから真似してみよう。
トライ・アンド・エラーの繰り返し。
飽きないです。
いろんな人がいるので、お客様の言動や態度に傷つくこともあります。でも、もともと人に対してそこまで期待していないです。
傷つきすぎないです。
お客様にありがとうと言われると嬉しいです。差し入れなんか貰ったり、褒めてもらったり。
たまにやり甲斐を感じます。
・毎日変化があって飽きない。
・自分自身が対人関係のストレスに強め。
・人から感謝されるのが好き。
なんとなく合っているのでしょうね。だから続けられる。使命感も、志もなければ、人が好きだから接客したいです!のような前向きさもないです。
なんとなく合ってたから20年続けてる。ただそれだけ。
感情が大きく揺さぶられなくて、気が付いたら長く続いてる。毎日こなすお仕事って実はそれが重要なのでは……。
接客業の適性とは。
さて、特別なスキルがなくてもできるのが接客業ですが、あったほうがいいスキルはあります。
観察力
提案力
クレーム対応
会話力
心理理解
空気を読む力
こうして並べてみると、全部に共通しているものがあります。
思いやりです。
これは接客だけでなく、育児や家族、友人との人間関係づくりにも役に立つスキルです。
では、接客業の適性とはなんでしょうか。私は二つあると思っています。
① 相手に自然に寄り添うことができるタイプ。
先ほどのスキルがある人のことですね。
こちら、特別難しいことではないのですが、実は簡単なことではありません。人はいつも優しくはいられないからです。
なぜなら私たちにだって心があり、感情があるから。
前の日に家族と喧嘩していてそれを引きずっていたら、笑顔も引きつりますし、ちょっとしたことでイライラしやすくなります。
② 優しさを演じられるタイプ。
自分の本当の気持ちをヴェールで覆って、その時間だけ"女優"になれる人も接客業の適性があると思います。
私は前者ではなく、こちらのタイプの人間です。接客中の私は女優。お客様の前では、一度自分の感情を横に置ける。
でも、結局はこれも思いやりなんですよね。相手を大切に思うから、自分の機嫌より、お客様の安心を優先できるのです。
お客様は、私が昨日落ち込んでいたことなんて知りません。私が、本当は他人にあまり興味がない人間だということも知りません。だから私は今日も、笑顔で対応します。女優なんでね。
日々の業務で私が大切にしていること。
接客業について思うことを色々書いてきましたが、ここで私が日々の業務で大切にしていることを4つ書かせてください。20年やってるんで、ちょっと偉そうに書きますよ。
お客様の恥は絶対に作らない。
嫌な思い出を持ち帰って欲しくないのです。恥ずかしいともう二度とそのお店に行きたくなくなっちゃうじゃないですか。私はそんな理由で数年、美容室迷子だったことがあります。今は信頼できる美容師さんに出会えて長く通わせてもらってます。
わからないことを聞ける空気を作る。
「なんかこの人怖いな、おすすめのメニューとか聞いたら舌打ちされそう」なんて思われたくありません。安心して頼って欲しいので話しやすい空気をつくります。親しみやすさを最優先した、あえて崩した言葉遣いだって使います。
「どうぞ、わからないことはなんでも聞いてください。全然大丈夫ですよ!」
売ることより安心して帰ってもらう。
もちろん、売り上げも大切なんですが、頑張って売り上げても給料にしっかり反映されるわけでもないので(当社比)とりあえずお客様に安心して帰ってもらえたらいいなと思います。疑問が解決したな。いい買い物できたなって思ってもらえたら一番嬉しいです。
お客様に興味をもつ。
自然体でお客様に興味を持てることが一番なのですが、私は他人にあまり興味がありません。なので意識して、興味を持つようにしています。お客様の言動や視線を追って、どうかしましたか?と聞く、そうするとお客様は自分の気持ちを話してくれます。提案や解決案につながる!
名前を覚えてもらって、自分あてにまた来てもらえるようになったら完全勝利ですね。だって、その人は商品ではなく、私を選んで来てくれたのですから。
気持ちよく帰ってもらって、帰宅後に今日のできごとを楽しく話してほしい。そう思って接客しています。これってきっと、ディズニーランドやスタバの店員さんが日々やっていることですよね。
これから接客を仕事にしていく人たちへ。
接客スタッフは商品を作ることはできません。価格を決めることも、広告を作ることもできません。でも、「またこの店に来よう」と思ってもらえる理由になることはできます。
企業の価値は、最後の数分間、お客様と向き合う接客スタッフによって決まることがある。
だから私は、接客業は誰にでもできる仕事ではなく、誰かの心を動かす仕事なのだと思っています。
これから接客を仕事にしていく人たちへ。
私がお客様になってあなたに会いに行くかもしれません。どうか優しくしてくださいね。私もあなたが来た時のために、もっともっと腕を磨いておきます。
そのときは、お互い「また来たい」と思ってもらえる接客ができたら嬉しいですね。