
真っ黒だったから、見えた色
幼稚園のころ、
大好きだった遊びがある。
画用紙いっぱいに
赤、青、黄色、緑。
思いつくまま、
クレヨンでぐちゃぐちゃに
色を重ねてく。
「もう塗れない!」
ってくらいカラフルになったら、
その上から黒いクレヨンで
全部塗りつぶす。
せっかく描いた色が、
全部見えなくなって。
自分で塗りつぶしながら、
少し寂しく思えてくる。
でも、
本番はここから。
竹串で線を一本引く。
すると、
真っ黒だったはずの画用紙から、
鮮やかな色が顔を出す。
一本、また一本。
削るたびに
隠れてた色が現れて、
少しずつ一枚の絵になってく。
そんな瞬間が、大好きだった。
大人になった今、
ふと思ったことがある。
人生って、
あのスクラッチアートに
似てるのかもしれない。
生きてると、
嬉しかった日、
大笑いした日、
誰かの優しさに救われた日。
そして同じくらい、
苦しかった日、
思うようにいかなかった日、
心が折れそうになった日。
真っ暗なトンネルの中を
歩いてるような日だってある。
その時間は、
まるで黒のクレヨンみたいで。
「もうだめだ」
「なんでこうなっちゃったんだろう」
そんなふうに思ってた。
だけど、
今なら少しだけわかる。
黒は、
色を消してたわけじゃない。
ちゃんと、
その下に残ってた。
優しくされた記憶も。
誰かを大切に思えた日も。
悔しくて泣いた夜も。
失敗して学んだことも。
全部、
ちゃんとそこにあった。
ほんの少し、
見えなくなってただけ。
新しい出会い。
新しい挑戦。
誰かの言葉。
昨日までは、
気づくことのなかった景色。
そんな日々を重ねるたび、
隠れてた色が
少しずつ姿を見せる。
「この経験があったから……」
そう思える瞬間が、
きっと訪れる。
だからわたしは、
黒い時間も無駄じゃないって
信じたい。
黒があったからこそ、
色はもっと鮮やかに見える。
悲しみを知ったから、
人の優しさが温かく感じる。
苦しさを経験したから、
人の痛みに寄り添える。
遠回りしたから、
自分だけの景色に出会える。
人生って、
最初から完成した絵じゃない。
一本ずつ線を引いて、
少しずつ色を見つけながら
完成していくものなんだと思う。
今もし、
目の前が真っ黒に見える人が
いるなら。
無理に、
前を向こうとしなくてもいい。
その黒の下には、
もうすでに色がある。
まだ見えてないだけ。
いつかあなたが、
人生という画用紙をそっと削ったとき、
きっと思いもよらないくらい
鮮やかな色が顔を出す。
その色は、
ずっとそこにあったんだから。
