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暮らしの森|荷車は戻ってこない

今日は年に一度のカーニバルの日。

昨日はあまり眠れなかった。
市場へ行くからだけじゃない。
誰かと一緒だから。

朝からメイは落ち着かない様子で、
荷車の窓から何度も外を覗いている。

森の木々が後ろへ流れていくたびに、
待ちきれないように身を乗り出した。

「めっちゃ楽しみ!」

隣に座っているカレンも思わず微笑む。

「わたくしも3年ぶりですわ」

「3年ぶり!? そりゃ浮かれちゃうよね!!」

二人を乗せた荷車は、
ゆっくり市場へ向かって進んでいく。

◆

市場へ着くと、二人はあっという間に人混みの中へ溶け込んでいった。

かわいい雑貨に色鮮やかな食器。
焼きたてのパンの香り。通りを歩くだけで次々と気になるものが現れる。

「ねえ!見て見て!これ可愛くない?」

メイが抱えたのは、
小さなクマのぬいぐるみだった。

「まぁ可愛い。あらっ?こちらも素敵ですわ」

カレンは花模様のカップを手に取り、
光にかざしている。

二人は気になる店を見つけるたびに足を止め、
また歩き出す。

「こっちも見たいですわ」

「あ、待って!あっちの行列も気になる〜」

市場の奥へ進むたびに、新しい店が現れる。
手には少しずつ紙袋が増えていく。

やがて広場の時計が鐘を鳴らす。

ゴーン……

「あら、もうお昼ですわ」

「えっ!?なんかあっという間だね!」

ついさっき着いた気がしていたのに、
太陽はもう高く昇っている。

二人は屋台で昼食を買い、
噴水の近くのベンチへ腰掛けた。

「このパン、おいしい!」

「本当ですわね」

「お昼も食べたし、もう少しだけ見よう」

「ええ。もう少しだけ、ですわっ」

二人は再び人混みの中へ戻っていった。

気になる店を見つけるたびに足を止め、
気付けば紙袋がまた一つ増える。

そうしているうちに、
石畳には長い影が伸び、
日はいつの間にか傾き始めていた。

ようやく帰ろうと広場へ戻った時。

「……あら?」

広場にあるはずの荷車が見当たらなかった。

「……え?」

二人は周囲を見回した。

近くの店主がその様子を見て心配そうに言った。

「帰りの荷車かい?それなら、少し前に出たよ」

「うそっ!最終便じゃ……」

「ああ。今日は夜の特別便が出るはずだよ。
調べてごらん」

二人は慌てて案内を見る。
料金を見た瞬間、メイは手の中の財布を見つめたまま固まった。

「え!た……たっか!!」

特別便は普段の何倍もした。

二人はうつむいたまま、
しばらく何も言えなかった。

◆

「……申し訳ありませんわ」

「え?」

「わたくしがあちこち見たいと言ったから……」

その声は、さっきまでの明るさが嘘みたいに小さかった。

「いやいや、私も一緒になって見てたし」

そう言ったものの、メイも少しだけ居心地が悪かった。誰かが悪いわけではない。それは分かっている。

そこへ、聞き慣れた声がした。

「で、誰が悪いざます?」

振り返ると、
マダム・ザマスが腕を組んで立っていた。

「あっ、マダム」

「メイざますか?」

「いや……」

メイはうつむく。

「それともカレンざますか?」

今度はカレンが黙ってうつむいた。

マダム・ザマスは静かに続けた。

「責める相手が決まったら、
荷車は戻ってくるざますか?」

二人は同時に首を横に振る。

「なら次ざます」

夕方の風が広場を吹き抜ける。

「次に同じことが起きないようにするには、どうするざます?」

二人は顔を見合わせた。

しばらくしてメイが口を開く。

「……市場に着いた時点で、
帰りの時間をメモっておけば良かったかも」

「わたくしも、次からはこまめに時計を見ますわ」

マダムは満足そうにうなずいた。

「それで十分ざます」

◆

帰り道。
軽くなった財布を見つめながら、
カレンがぽつりと呟いた。

「高い勉強代でしたわ……」

「まあね……」

荷車は静かに森へ向かって進んでいく。
窓の外では、夕暮れがゆっくり後ろへ流れていた。

「……でもさ、楽しかったよね」

「ええ。それなら、少しは取り返せましたわね」

しばらくしてメイが言う。

「次は帰りの時間、ちゃんとメモしようね」

「ええ。市場へ着いたら最初にですわ」

二人は顔を見合わせて小さく笑った。



#メイ森
#カレン森



(※この話は実話を元にしています。)

コロナ明け、3年ぶりの飛行機旅行。
久しぶりの空港にはしゃぎすぎて、
搭乗時刻を逃しました😨

1人7,000円で取っていた航空券。
その後、1人60,000円の特別便で帰ることに。当時は笑えませんでした😇

森の小話は、割と日常から生まれます。



暮らしの森には、いろんな住人たちの
物語が詰まっています。
(好きな順路で自由に散策してみてください)



キャラ紹介はこちら⬇︎



順番に歩きたい方はこちら⬇︎


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