📚アキラ編①|図書館司書のアキラさん
暮らしの森には、登場人物それぞれの物語を辿れるエリアがあります。

今回、新たに開くエリアは、
『アキラの思考の迷路』。
森の図書館で司書として働くアキラは、
何かを決めるとき、少し時間がかかります。
考えて、調べて、また考える。
本人に言わせれば、慎重なだけなのですが、
周りから見ると、時々考えすぎのよう。

ただ、司書としては真面目で親切。評判のいい司書さんです。
そんなアキラの日常を覗いてみましょう。
図書館司書のアキラさん

森のはずれに、小さな図書館がある。
木造の扉は少し重く、開けると乾いた紙の匂いがする。
午前九時。開館前の静かな時間。
カウンターの奥で、一人の男が本の背を整えていた。
「……曲がってるな」
小さくつぶやき、ほんの数ミリ、指先で揃える。
名札には、
司書 アキラ
と書かれていた。
森のはずれに小さな図書館がある。
木造の扉は少し重く、開けると乾いた紙の匂いがする。
午前九時。開館前の静かな時間。
カウンターの奥で、一人の男が本の背を整えていた。
「……曲がってるな」
小さくつぶやき、ほんの数ミリ指先で揃える。
名札には
司書 アキラ
森では珍しく、声を張らない人だった。
やわらかい光が書架を通り抜けていく。
やがて、扉が静かに開いた。
「あの……」
顔を上げると、少し困ったような様子の女性が立っていた。
「何かお探しですか」
「えっと……料理をちゃんとやってみたくて。でも、沢山あってどの本がいいのか分からなくて。おすすめとか……」
アキラは少しだけうなずいた。
棚の方へ、ゆっくり歩き出す。
数秒だけ何も言わない時間があり、それから静かに口を開く。
「どれくらい、やる予定ですか?」
「え?」
「毎日作る感じか、週に何回か、とか」
女性は少し考える。
「……多分、最初は週末だけだと思います」
「なるほど」
「あと、その……あんまり凝ったものは……」
「じゃあ、簡単な方がいい?」
「はい」
アキラは棚に手を伸ばした。
何冊か本を抜き取って、軽く中をめくる。
一冊、また一冊と戻しながら、手に残ったものを脇に抱える。
全部で三冊。
カウンターに戻って、それを静かに並べた。
「この辺りが合いそうです」
女性は少し驚いたように本を見た。
「えっと……三冊?」
「はい」
アキラは軽くページを開く。
「これは手順がかなりシンプルで、失敗しにくいです」
別の一冊に触れる。
「こっちは、少しだけ幅が広いので、慣れてきたときに使いやすいと思います」
最後の一冊を指で押さえる。
「これは、作る量が少なめで、一人分にちょうどいいと思います」
女性は本を見比べながら、小さくうなずいた。
「……どれが一番いいですかね?」
その問いに、アキラは一瞬だけ止まる。
本の表紙を見たまま、ほんの少し考えてから言う。
「この中なら、どれでも大丈夫だと思いますよ」
女性は少し迷ったあと、一冊を手に取った。
「そっか……じゃあ、これ借ります」
「はい」
手続きを終えて、本を渡す。
「ありがとうございます。
なんだか……選びやすかったです」
「よかったです」
女性は軽く頭を下げて、去っていった。
足音が遠ざかり、また静かな空気が戻る。
アキラは、残った二冊を手に取った。
棚の前に立ち、元の場所を探す。
背表紙を見つめながら、少しだけ止まる。
「……もう少し、絞れたかもな」
小さくつぶやいて、本を戻す。
それから指先で、ほんの少しだけ位置を直した。
アキラの図書館編

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