暮らしの森|選ばれた本
午後の図書館は、少しだけ静かだった。
ハヤトとモコが帰り、子どもたちの声も落ち着き、棚の間を風がゆっくり通り抜けていく。
アキラは手帳を開き、週末の予定を書き込んでいた。
・週末、森の奥。装備確認
・館長にリブロ外出の許可
・パンを買って帰る
「そう言えば、トースターの調子が悪かったな。電気屋、見ていくか」
思い出したように書き足す。
・トースターの市場調査
そこまで書いたところで、カウンターに一組の親子が立っていることに気がついた。
「あのぅ……すみません」
母親が少し困ったような表情で近づいてくる。
「この子、本を読みたがるんですけど……どれがいいのか分からなくて」
隣にいる男の子は、すでに棚の方を見上げている。
アキラは手帳を閉じ、男の子の側へ近づいた。
「どんな本が好きだい?」
「えっと……絵がいっぱいあるやつ」
男の子は少し考えてから、もうひとつ付け加えた。
「あと、かっこいいやつ!」
「かっこいい、か」
アキラは頷き、棚へ目を向けた。
その時だった。
ス……コトン。
奥から、聞き慣れた音がした。
振り向くと、リブロが棚の間を進んでいる。小さなアームを伸ばし、カシャリと一冊の本を取りだしている。
アキラも棚へ手を伸ばす。
森の動物が描かれた本を一冊抜き取った。
イラストが大きく、文字も少ない。
初めて読む子には、こちらのほうがいいだろう。
カウンターへ戻ると、ほとんど同時にリブロも本を運んできた。
コトン。
二冊の本が並んだ。
男の子は二冊を見比べている。
アキラの本。それから、リブロの本。
リブロが選んだ本には、人の体が大きく描かれていて、鮮やかな色が目を引いた。
「こっちがいい!」
男の子は迷うことなくリブロの本を指差した。

母親は少し驚いたように息を止め、それから男の子の手元を見て、ふっと表情を緩めた。
「じゃあ、それにしましょうか」
「うん!」
母親が頭を下げる。
「ありがとうございました」
親子が入口の方へと向かう。
その背中を見送りながら、アキラはカウンターに残ったもう一冊の本へ目を落とした。
アキラはそれを手に取り、ページをめくる。
「……あれで、よかったのかな」
誰に聞かせるでもなく、小さく呟き、
それから元の棚に戻した。
奥で、リブロのランプが淡く点滅している。
任務完了の合図らしかった。
さっきの男の子が嬉しそうに本を抱えていた姿が、なぜか頭から離れなかった。
アキラはもう一度、リブロの方を見る。
「……」
そのまま静かに手帳を閉じた。

