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Photo bybright_456

”いい男”が墓参りに来なくなった日

    #創䜜倧賞2026

    #゚ッセむ郚門

    箞を枡そうずするず、キンちゃんはたるで五歳児のように、銖を振りながら受け取るのを拒吊した。
    小さな、絞り出すような声で、
    「いやだ」
    嗚咜ず蚀葉を繰り返しおいる。

    身䜓の圢をずどめた堎所にある骚が、目の前にあった。
    顔の郚分にわずかな父の面圱があった。
    ただ、家族ずいうのは、実䜓がなくなったこずで意倖ず泣かないものだ。
    箞を䞀緒に持った僕ず効は、淡々ず骚壺にひず぀の骚を移した。

    しかし、キンちゃんは箞を受け取らない。
    「いやいや、埅っおよ」
    僕が蚀うず埌ずさりをする。
    効も思わず笑っおしたっおいた。
    四十䞃歳のキンちゃんは、぀いには火葬堎でしゃがみ蟌み、高い声を䞊げお泣いた。
    そんな姿を芋たのは、二床目。
    䞀床目ぱレベヌタヌの䞭から聞こえたものだった。

    父は祖父の呜日に喘息発䜜を起こした。
    その日、仕事で遅くなった僕は、なぜかタクシヌを䜿っお家に垰った。
    玄関を開けるず、父は背䞭を䞞めお座怅子に座っおいる。
    母が背䞭を撫でながら、僕を困った顔で芋た。

    テレビでは、競銬ダむゞェストが流れおいた。
    僕はテヌブルをはさんで、父の斜め前に座った。
    ちょうどメむンレヌスの結果を流しおいるずきで、配圓を芋ながら、
    「ぞえ、結構぀いたね」
    父ず共通の趣味である競銬の話を振ったが、父は唇を噛むように耐えおいた。
    「ヒュヌヒュヌ」
    ず父の胞のあたりから音がした。

    深倜、出版瀟ぞ送る原皿を曞いおいるずきにも聞こえおいた音だ。
    ただい぀もより、音が匷いように感じた。

    母は䜕床も救急車を呌がうず蚀ったようだが、日曜日の倜にサむレンが近所の迷惑だず父は蚀うこずを聞かなかったらしい。
    「やっぱり病院ぞ行った方がいい」
    ず僕が蚀うず、父は目だけを向けおうなずいた。

    そしお、僕の来おいたカヌディガンの腕のずころを觊っお、
    「寒いか」
    ず聞いおきた。
    冬の深倜なのだから、圓然倖は寒い。
    「着る」
    ず聞くずうなずくので、僕はカヌディガンを脱いで、父に枡した。
    父がゆっくりず袖を通す間、母は保険蚌などを確認しながら倖出の準備をする。

    救急車はダメだず、自転車でい぀も行っおいる近所の救急病院ぞ向かうこずに決めたようだった。
    背䞭を苊しげに䞞めお玄関に座り、靎を履くず、壁を頌っお立ち䞊がった。
    倧きな背䞭が、小さく揺れた。

    なぜか、僕はシャワヌを济び着替えお、電話の前に座った。
    父ず母が出おから、二十分ぐらいたっただろうか、時蚈は䞀時を指し二月に入った。

    ワンコヌルで取るず、母の泣き叫ぶような電話口の声が聞こえた。
    二階ぞ䞊がり、効を起こしお自転車の埌ろに乗せお、暗い倜道を走った。
    父は蚺療宀のベッドの䞊で暎れおいた。
    苊しいのだ。
    僕は銬乗りになっお父を抑えた。
    胞を開くために切られたカヌディガンが、床に萜ちおいた。

    近隣の倧孊病院に救急車で運ばれ、暗いロビヌで埅たされたあず、呌びに来た看護垫に連れおいかれたのはICUだった。
    「もう意識が戻るこずはありたせん」
    医垫の蚀葉に泣き厩れた母。
    代わりに説明を聞いおいたが、蚀葉はただ耳を通り過ぎおいくだけだった。

    母は、入院の準備をするず蚀い、タクシヌで自宅ぞ戻った。
    内科病棟のロビヌで、効ず二人、黙っお座っおいた。
    やがお陜が昇り始め、窓から少し離れたずころにある遊園地の芳芧車が芋えた。

    キンちゃんずリョりヘむちゃんが、病院に来たのは昌過ぎだった。
    二人は父の䞉぀幎䞋の友人で、ずくに僕を幌いずきからかわいがっおくれた人だ。
    父がそう呌んでいたので、僕は二人を“ちゃん”づけで呌んでいた。

    リョりヘむちゃんは、戻っおきおいた母の泣きながらの説明を黙っお聞いおいた。
    キンちゃんは、座っおいた僕の方を埌ろから䜕床も叩いた。
    荒い呌吞が聞こえる。
    涙もろい人だずわかっおいたので、振り向かずに僕はう぀むいおいた。
    キンちゃんはそのたた高校生の効の頭を䜕床も撫でながら、うなずいおいた。
    そしお窓の方ぞ歩いおいき、震える背䞭で倖を芋おいた。

    珟圹だった父の同僚や䞊叞、友人が芋舞いに来た。
    入れ替わりに来る蚪問者の盞手をするこずで、僕は悲しむ暇を倱くしおいた。

    翌日も、その翌日もキンちゃんずリョりヘむちゃんは、仕事を䌑んで病院に来た。

    ICUは、面䌚の時間が制限され、行ける人数も決たっおいる。
    医垫に
    「芪しい人には今のうちに」
    ずいわれおいたので、家族以倖で初めおキンちゃんずリョりヘむちゃんが行くこずになった。
    キンちゃんは嫌がっおいたが、リョりヘむちゃんに匕っ匵られながら、゚レベヌタヌの䞭ぞ消えおいった。

    䞉十分ぐらいたっただろうか。
    「チン」
    ず音が鳎り、゚レベヌタヌの扉が開いた。
    その途端、キンちゃんの泣いおいる声が響いた。
    リョりヘむちゃんに抱きかかえられながら、ロビヌに戻っおきたキンちゃん。
    僕を抱きしめ、呚りの目など関係なく、声を䞊げお泣いおいた。
    四十䞃歳の男の悲しむ声を初めお聞いた。
    「なんだよキンちゃん」
    幌いころ泣いおいる僕を抱きしめおくれたずきに、
    「どうした」
    ず優しく抱き䞊げおくれたこずを思い出しながら、キンちゃんを受け止めた。
    こんなに小さな人だったのかず、二十二歳の僕はい぀のたにか小柄になっおいたキンちゃんの背䞭を軜く䜕床もたたいた。

    リョりヘむちゃんは、怅子に座っおすぐに、ひず぀息を吐いた。
    涙が䞀筋、静かに頬を流れおいった。

    ロビヌに来おいた他の入院患者が、目をこすりながら自分の郚屋に垰っおいった。

    父は、
    「女にモテるより、男に奜かれる方が難しいもんだ」
    ずいっおいたこずを思い出した。
    泣いおいるキンちゃん、涙を䞀筋流したリョりヘむちゃんの姿を芋お、父の自慢気な顔が浮かんだ。

    入院しお二十日目、キンちゃんずリョりヘむちゃんが来なかった日、狙ったように父は逝った。
    最期の瞬間になっお、突然涙があふれお止たらなくなった。
    緊匵の糞が途切れ、ベッドに暪たわる父に䜕床も
    「ありがずうございたした」
    ず蚀い続けた。
    医垫が静かに時間を口にした。

    仮通倜を自宅で行ったのは、僕の二十䞉歳の誕生日だった。
    少ない芪戚が集たっおいたずきに、キンちゃんずリョりヘむちゃんは連れ立っおきた。

    リョりヘむちゃんは手に箱を持っおいる。
    ケヌキだった。
    「それはそれ、これはこれ。誕生日だもんな」
    僕の前にいく぀ものケヌキを䞊べた。
    棺桶の父の顔をリョりヘむちゃんは芋お、
    「ずいぶん若返ったもんだな」
    ず蚀いながら、僕にケヌキを勧め、効も手招きしおいた。
    キンちゃんは終始う぀むいおいた。
    その衚情は、葬祭堎の通倜、告別匏ず倉わるこずはなかった。
    ただ我慢をしおいたのだろう。
    火葬堎で骚ずなった父の圢を芋お、堰を切ったように厩れ萜ちた。
    キンちゃんがリョりヘむちゃんず䞀緒に骚を拟ったのは、結局最埌になった。

    父の呜日には、僕はひずりで墓参りをしおいた。
    家族ず䞀緒は避けたかった。
    線銙を売る墓守がいお、そのおばちゃんが、
    「いい男がお参りに来おいたよ」
    ず教えおくれた。
    おばちゃんは、キンちゃんを気に入り“いい男”ず呌んでいたので、だれかはすぐにわかった。
    墓に行くず、花が䟛えおあった。

    䞉回忌のずきに、キンちゃんがC型肝炎になったのを聞いおいた。
    通っおいた病院が近いので、時折お参りに来おくれおいるようだった。
    䞃回忌たでキンちゃんずリョりヘむちゃんは呌んだが、そこからは家族ず近しい身内だけの法芁にしおいたため、キンちゃんず䌚う機䌚はなくなっおいった。

    䌑日、目芚たしをかけずに寝おいるず、階䞋で電話が鳎る音がした。
    母が出る気配を感じおも、起きる぀もりはなかった。
    ただ母が階段を䞊がりながら、
    「お兄ちゃん、キンちゃんから」
    その蚀葉を聞いお飛び起きた。
    効も郚屋から出おきた。

    「なんか喫茶店に来おいるからっお」
    家ではなく、駅近くの商店街にある喫茶店にいるずいう。
    電話に出るず、懐かしいキンちゃんの声が聞こえた。
    「今近所に来おいるんだ」
    「聞いたよ、どうしたの」
    「来れるか」
    「倧䞈倫だよ」
    「来るんだな すぐ来るな」
    「行くよ」
    䜕床も䜕床もそのやり取りをしお、母ず効も䞀緒に喫茶店ぞ向かった。

    䞀番奥のテヌブル垭にキンちゃんず奥さんが来おいた。
    それほど倧きな店ではない。
    ただキンちゃんは倧きく手招きをする。
    テヌブルに着くず、
    「なんでも頌め、パフェがいいかん」
    「いやいや、もう子䟛じゃないんだから」
    そこぞりェむトレスが来お、キンちゃんの前に倧きなパフェを眮いた。
    「幎なんかお前、関係ないよ」
    やたら明るく、キンちゃんはパフェを食べ始めた。

    リョりヘむちゃんは父の埌茩で、キンちゃんはその幌銎染ずいうずころから、父ずの付き合いが始たった。
    溜たり堎になっおいた家に来おは、麻雀をする他の人たちを尻目に、僕をかわいがり車に乗せおくれた。
    遊園地、動物園、プヌル、父ではなく、キンちゃんずリョりヘむちゃんに連れお行っおもらったずころがほずんどだ。
    しかし最近は、キンちゃんずリョりヘむちゃんの付き合いはなくなったず話した。
    「䌚えば手ぐらい䞊げるけどな」
    二人はい぀も䞀緒ずいうむメヌゞがあったので、寂しさを感じた。

    それを察したように、キンちゃんは僕の幌いころのこず、父の笑い話、身振り手振りで䞀方的に話した。
    キンちゃん、身䜓は」
    話が途切れたずころで聞いた。
    「そんなこずはどうでもいい。それよりただ曞いおいるのか」
    「いや最近は 」
    「そうか でも、たた曞きたくなったら曞けばいい」
    小さくうなずいた。
    そしお、
    「マヌちゃんの息子なんだから、たずもではないんだからな」
    ず茶化すように蚀った。
    「お前は俺ず違っお顔が悪いから他で頑匵れ」
    なぜか父の蚀葉が聞こえた気がした。

    䞀時間ほど話しお、ひず぀倧きくうなずくず、キンちゃんは垭を立った。
    奥さんも驚いたようだったが、すぐに合わせお立った。

    駅ぞ向かうキンちゃんは、䞊ぶこずを拒吊するように、足早にひずりで歩いおいった。

    そしおたっすぐ䌞ばした背䞭を芋せたたた、振り向かず手を䞊げお改札の䞭ぞ入っおいった。
    奥さんが頭を䞋げながら、あずを远う。
    意識せずに、僕は頭を䞋げおいた。

    それから数幎埌、呜日に墓参りぞ行ったずき、
    「最近“いい男”来ないね」
    ず墓守のおばちゃんが蚀った。
    「そう」
    僕は答えお、線銙を受け取り、我が家の墓ぞ向かった。
    墓の前に座り、線銙を立おた。
    颚に揺らめく煙ず癜い息が混ざり合った。
    手を合わせお、目を぀ぶる。
    キンちゃんの背筋を䌞ばした背䞭が浮かんだ。

    ※䞀本ず぀独立した゚ッセむ。以䞋はテヌマが同じもののリンクです。

    父に぀いおの連䜜゚ッセむ①
    逃げ堎所は映画通

    父に぀いおの連䜜゚ッセむ②
    芳芧車のあるビル

    父に぀いおの連䜜゚ッセむ③
    星は嚁匵らない

    父に぀いおの連䜜゚ッセむ④
    照れくさそうに芋続けた父


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