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Photo bymizunouta

受け止める男

    捕手は投手の球を受けるだけではない。
    試合のすべてを背負うもの。
    その姿から伝わるものは大きい。

    『勝ちたい』
    その思いを言葉ではなく、プレーで熱く伝えてくる男だった。
    若き日の賛辞そして栄光、明日を恐れるほどの挫折、乗り越えて掴んだ日本一。
    日陰の脇役がMVPに輝いた。
    WBCでの優勝を決めたスイーパー。
    彼のミットが鳴らした音は、優勝の瞬間を知らせるものだった。

    ただ、そんな実績を持ちながらも、彼への厳しい言葉は続く。
    それでも言い訳をすることはない。
    『もう少し考えれば、結果は変わったかもしれない』
    投手よりも、自分に批判が向くように仕向けているようだ。

    投手がノックアウトされれば、自分のせいだと言い切った。
    打撃での活躍より、投手への気遣い。
    お立ち台へ上がっても、チームの勝利。
    厳しい言葉は、黙って受け止めてくれる彼への甘えだったのかもしれない 。

    才能豊かな若手捕手の台頭にも、チームの為と愚痴をこぼさず、能力を認めた。
    自分が出場しない試合でも、勝利をすればスタンド前を通る帰り道、小さく手を上げて声援に応える。
    多くの荷物を担ぎながら、ゆっくりとだが足取り軽く歩いていく。

    自分が出場して失点をすれば、『代われ』と厳しい言葉が飛んでくる。
    そんな声にも表情は変えず、構えるミットは投手のために動かさない。

    自分の成長の糧となってくれた先輩捕手がそうだった。
    今は彼が壁となり、批判を受け止め。若手の目標であり続けようとしている。

    『捕手はすべてを受け止める』
    今は他球団のユニフォームを着ている先輩捕手から得たものはしっかり受け継いだ姿。

    勝利にも満足せず、明日のために反省をし続けていた。
    ユニフォームで隠れている体には、多くの『ボールの跡』だけでなく、消えることのない『悔い』という名のあざが残っていることだろう。

    チームの成績も、批判もヤジも、『言われるのもプロ』と言葉も投球も弾かないように、ミットをほぐしながら次の勝負を考えている。

    時には言い返したいときもあっただろう。
    それでも沈黙したままマスクを直しながらミットを構える。
    まだ現役。
    今日も彼は、投手の球を受け止めながら、試合の配球を描いている。
    打たれたときに聞こえる責める声。
    ただそこに混ざる声援を支えに、彼は足もとを均したあとまたミットを構える。

    紘野涼のフリーハンド紹介

     
     
     
    観察型コラムニスト/エッセイスト| 試合と日常の「流れ」を書く 「スワローズ観察日記R」 「紘野涼のフリーハンド」

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