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Photo byyukiko160830

二十歳のバカ

    二十歳ぐらいの時だったと思う。
    学校の食堂で、鬼のようなデカイ顔をしたKと言う友人が、ミートソースをフォークで遊びながら、深刻な顔でつぶやいた。
    「手術をしに故郷へ帰らなければならなくなった」
    思いっきりシリアスな表情で言ったようだが、ピラフを食べたり濃い緑のメロンソーダを飲んだりしながら、僕を含めた友人たちは「あんで?」などとのん気に返事をした。
    「少しは心配するということを知らないのか、お前たちは?」
    他人の不幸は、これでもかというほど笑い話にするKに同情するほど僕らは優しくない。
    シリアスに言えば言うほど、胡散臭いということを僕らは知っていたからだ。

    そして病名を聞いて、「?」となった。
    正確にその病気の実態をほとんどが知らなかったからだ。
    そのうちひとりが、
    「ヘルニアって脱腸だろ?脱腸っていったら、腸が金○に落っこってでかくなる奴だ」
    と言い、
    「それはめでたいではないか!」
    という鬼のKにとって思いもよらない話の展開になって行った。
    この後の話は下に徹した話なので、これ以上は書かないほうが良いと思う。

    正確に病気の内容を聞き、Kの希望も聞かされた。
    彼はどうも、よくTVドラマ(それも昔の)であった、駅まで見送りに来た友人たちが、別れを惜しみ電車を追う・・・それを味わってみたいと言うのだ。
    そんなバカな話に、二十歳の僕らは乗る。
    理由はバカなことが好きだから、それ以外ない。

    Kが帰郷する前日、「お別れ徹夜マージャンの会」を開き、餞別を上げるのではなく奪い取ってから、早朝の上野駅へ向かった。
    始発であった。
    ホームには、季節外れの帰郷、僕らのほかはパラパラ。
    電車がホームに乗り、僕らもムードに乗った。
    なにしろ徹夜明け、恥かしいという感情が欠落している。
    「どうしても行くのか?」
    乗りやすいEが、うつむきながら語りかける。
    「ああ・・・」
    Kが繊細さのかけらもない顔で、『北の国から』の純のような台詞を言う。
    「戻って来いよ」
    Kの故郷は茨城である。
    「こんなことで負けんじゃねえぞ」
    脱腸に勝ち負けはない。
    発車のベルが鳴る。
    ついにKの望んでいた、シチュエーションだ。
    ドアが閉まり、Kが窓に手を着く。
    走り出す「特急ひたち」。
    ゆっくりと追いかける僕ら。
    だんだんスピードが上がる「特急ひたち」。
    手を振りながら、「帰って来いよ!」叫ぶ。
    もうこうなると、完全にドラマの中に入っている。
    結局ホームの端まで走ってしまった。
    「なんかいい・・・やってみるもんだ」
    誰か忘れたがつぶやいた。

    やがてKは当たり前のように帰ってきた。
    学校では、いつのまにか病名が「脱腸」から「脱肛(痔)」になっていた。
    下の話の方が伝わったようだ。
    「ようK、痔だったんだって?」
    「え?」
    Kはひとりひとりに「脱腸」の説明をした。
    その中にやはり「脱腸って、金○に・・・」
    という間違った知識を持っているやつがいた。
    そういう知識を持った人間は得てしておしゃべりだ。
    いつのまにか、
    「Kは大きくなった金○を削る手術をしたらしい」
    どんな病気なのかわからない噂が飛び交っていた。
    僕らはピラフや、思いっきり濃い緑のメロンソーダを飲みながら、ヘルニアのことを説明しているKを眺めた。
    その姿はまるで赤鬼だ。

    紘野涼のフリーハンド紹介


     
     
     
    観察型コラムニスト/エッセイスト| 試合と日常の「流れ」を書く 「スワローズ観察日記R」 「紘野涼のフリーハンド」

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