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【掌編小説】穴の中の君に捧ぐ

     八年かかった。たったの八年、と言うべきかもしれない。
     必要な知識を手にするのに三年。そのためだけでも、僕は数多くの禁じられた場所へ足を運び、世人の決して知らぬ類の危険に身を晒さなくてはならなかった。闇の中で密かに噂されるだけのおぞましい書物の数々を読んでなお足りない知識が、僕には必要だった。
     続く五年はさらなる悪夢としか言いようがない。僕は決して人が近寄らぬ場所へ赴き、正気を失わせるものを目にし、名状し難い存在の数々と言葉を交わした。仄めかしただけで正気を失いかねない恐ろしいものを、僕は何度も目にした。そうしないと手に入らないものを、僕は求めた。

     そして今、やっと、僕はここにいる。
     全ては君のためだった。

     邪悪な古き神々に祈りを捧げつつ、今や人のものとは異なる鋭い鉤爪で、自ら抉り出す。
     君を墓穴から呼び覚ます、最後の供物。
     君を心から愛する者、即ち僕の、心臓を。

     薄れゆく意識に、君の哄笑が届く。
     僕は少しだけ、口元を綻ばせる。



    ※『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』



    今週のお題「穴の中の君に贈る」で一本。
    書き出すまでは全然違う話を考えていたはずなんですが。おっかしいなー

     
     
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