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【しばまぁ】 Vo.33 ゴミ拾いブームが来たまぁちゃんと、初のお泊りをするか否か、のたっくん

    「なんでこんなの大量に買ったの?」

    ローテーブルに置かれたそれを手に取り、僕は言った。

    「最近のマイブーム」

    ニヒヒ、と笑ったまぁちゃんは僕の手から軍手の束を奪った。

    「今度は何に目覚めたの?」

    「ん〜」

    まぁちゃんは軍手を背中に隠して、なんだかクネクネと体を揺らしている。

    「…ゴミ拾い」

    「ゴミ拾い?」

    「ゴミの日の朝に、ちょっとね」

    「なんでモジモジしてるの」

    まぁちゃんが何を始めても今更驚かないけれど、言い淀む姿はなんだか新鮮だった。

    「だって、なんか恥ずかしい」

    〝羞恥心〟というものが、まぁちゃんにも存在したことに僕は驚いた。

    「いつからしてるの?」

    「ん〜。一ヶ月前ぐらい。登校とか通勤の時間帯になると人が増えて恥ずかしいから。夜明けとともに」

    一ヶ月も前からしていたなんて、僕はちっとも気が付かなかった。
    これだけ一緒にいても知らないことはたくさんあるものだ。

    「面白い?」

    そう聞くと、まぁちゃんの目が途端に輝いた。

    「それがすっごく面白いの!!人の心理に近づく気がして!!」

    相変わらず喜ぶポイントがさっぱりわからない。

    「心理?ゴミ拾いと関係あるの?」

    「まずね、ゴミがよく落ちてる地域はやっぱりちょっと治安が悪いの。治安のいいエリアにもゴミは落ちてる、もといポイ捨てはされているんだけど、なんていうか慎ましいんだよ。ポイ捨てのされ方が」

    「ポイ捨てに慎ましいなんてことあるの?」

    「目立たないところにそっと捨てられてるの。なんだったら端っこのくぼみとか隙間に隠すように捨てられてるから逆に拾いづらくて大変」

    〝こう、指でほじくるようにしてかきださないと〟と、まぁちゃんは実演付きで説明してくれた。

    「治安の悪いエリアは堂々としてるんだ?」

    「オフコース!」

    この場合〝オフコース〟は適切でないような気もしたけれど、僕は黙っていることにした。

    「でね、捨てられてるもののほとんどはコンビニや自販機で簡単に買えるものなんだよ。個包装されたパンやスナックのゴミやコンビニ弁当、カップ麺。タバコやタバコの箱。ペットボトル飲料に缶ジュース。ぜーんぶ、パッと買えちゃうものなんだよ」

    道端に落ちているペットボトルやタバコの空き箱を思い浮かべ、僕は納得した。全く違和感がない。

    「うん。確かにそういうゴミは多そうだ」

    「捨てられているものは、簡単に手に入るものばかりなんだよ。簡単に欲を満たしてくれるものばかり」

    「簡単に欲を満たしてくれるもの?」

    「高級ブランド品ならパッケージすらコレクションされるでしょ」

    「確かに」

    以前、ハイブランドの財布を買ったときのことを思い出した。財布を包んでいた包装紙でさえ高貴なものに思え、捨てがたかったことを覚えている。

    「捨てられてるものを見るとなんとなく想像がつくんだよ。公園のベンチにカップ麺のゴミが二つ落ちていたら〝ここで夜中に2人でご飯食べたのかなー〟とか、マンションのエントランス前の側溝に同じ銘柄のタバコがたくさん捨てられてたら〝奥さんがタバコ嫌いだからわざわざ外に出て吸ってるのかなー〟とか。そういうことを考えながらゴミを拾ってたらこれが意外と面白くて」

    「なんのゴミが多いの?」

    「ダントツでタバコ」

    まぁちゃんがビシッ!と指を立てて言った。

    「なんだか安心しちゃった」 

    「安心?なんで安心するの?」

    「大人になってもこれだけクソなんだったら、歳を重ねるからって無条件に成長するわけじゃないんだなーって思ったの」

    僕にはよくわからない世界観だった。

    「どういう意味?」

    「40歳になって〝もういい大人なのに大丈夫か?私〟〝子どもたちの模範になれてる気がしないぜ〟って思うこともあるけど、みんなも私もクソなんだなって。大人だってクソなんだから子供だってクソでいいじゃないか、って。クソなりにやっていこーぜ!って開き直れたよね」

    詳しい説明を聞いても僕にはさっぱり意味が分からなかった。
    だけどまぁちゃんの目はキラキラしていて、心なしか肌にも艶が出ている気がした。
    相変わらず、喜ぶポイントがわからなければ開き直るポイントもよくわからない。

    「そもそもなんでゴミ拾いなんて始めたの?」

    「ランニングを始めたんだよ。そしたらびっくりしちゃったよ。ゴミがいっぱい落ちてるんだもん。今で気が付かなかったことがまたクソポイントだよね」

    〝ワンポイントGET!!〟と叫んでいる。

    「もう今やランニングそっちのけでゴミ拾いだよ。明日が楽しみ」

    明日は燃えるゴミの日だ。
    別に僕には興味なんか欠片もないけれど、不思議と声に出していた。

    「僕もやってみようかな」

    まぁちゃんが目を見開いた。

    「朝早いよ?」

    「まぁ、それはなんとか」

    本当は休日は昼まで寝ている僕だけど。

    「面倒でしょ?泊まってく?」

    あっけらかんと放たれたまぁちゃんの言葉が、僕の耳の奥で何度も何度もこだました。






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