
【SS】ミケというマグカップ
Geminiと二人でショートストーリーを書きました。
ミケというマグカップ
ご主人のいちばんだったはずの、猫型マグカップの私。なのに最近、ご主人は新入りのおしゃれな硝子グラスばかり。
カラン、と涼しげな音が響く。ご主人が新入りの北欧風グラスに氷を入れた音だ。
季節が暖かくなって、冷たい飲み物が飲みたいのはわかってる。わかってる、けど……。
「ずるい、あいつばっかり」
棚の隅っこ、暗いところで膝をかかえるみたいにして、私はじっと出番を待っている。
ずっと毎日使ってもらっていたのに。一軍の座を奪われた私の体は、すっかりひんやり。悔しいから、ちょっとだけお腹を突き出して威張ってみる。
インスタだのなんだのって、そんなの知らない。私は一点ものなんだから。
真夜中。棚からの脱走を決意した私の、短い足がうなる。
ポテポテ、ポテポテ。
あしたの朝、ご主人が最初に目に入る場所へ行くんだ。
──そのとき、世界がぐらりと揺れた。小さな地震だ。
おっとっと、と踏ん張ろうとしたけれど、陶器の足はちょっぴり滑りやすかった。
ことん、ゴロン。
派手な音を立てて倒れた私は、そのまま動けなくなってしまった。
朝、カーテンが開く。主人が「あれ?」と声をあげた。
倒れたまま動けない私を見つけたのだ。でも私、落ちてない。
恐る恐る目を開けると、新入りの硝子グラスが、その透明な体で私を優しく支えてくれていた。
「あ、危なかったね。割れなくてよかった」
硝子の向こうから、そんな声が聞こえた気がした。……ふ、ふん。助けてなんて頼んでないんだからねっ。
「危なかった。ミケに何かあったら、眠れない夜のホットミルクが飲めなくなっちゃう」
主人の言葉に、私の胸がキュンと跳ねた。
一軍を奪われたんじゃなかった。主人は私にミケと名付けてくれて、私はご主人の「とっておき」だったんだ。
その夜。ご主人の手の中で、私は誇らしげに温かいミルクを蓄えていた。
ほらね、やっぱり主人には、私、ミケが一番お似合いなんだから!
【完】