忘れられない食事。
母が私の家に来た。
せっかくだから、家の近くでランチをしようと入ったのは小さなイタリア料理店。
前菜をひと口食べた瞬間、涙があふれた。
「これ、絶対夫が好きな味だ。」
そう思った途端、胸がいっぱいになった。
食べさせてあげたかったな。
「うま」って笑いながら食べる姿が目に浮かぶ。
顔を上げると、母も泣いていた。
言葉にはしなかったけれど、同じ気持ちだったことが私にはすごくよく分かった。
私たちは同じ人を愛し、同じ人を失った家族なんだと、そのとき改めて感じた。
「おいしいね。」
「うん、おいしいね。」
泣きながら笑って食べた。
あの日、何を食べたのかは実はもう思い出せない。
でも、あの料理が亡き夫を連れてきてくれたことは忘れない。
食事はお腹を満たすだけじゃない。
誰かを思い出させ、会えない人を心の隣に座らせてくれる。