「助けて」が言えなかった夜~同じ月を見ている~
私は昔から、人に頼ることが苦手だった。
どれだけしんどくても、「助けて」と言うより先に「大丈夫」と笑ってしまう。
そんな私が、人生で初めて、誰かに助けてほしいと思った。
ちょうどその頃、娘の出産や孫達の緊急事態、息子夫婦からのSOSなど、子ども達の力になりたいことが重なっていた。
けれど、思うように身体が動かず、ろくに行ってやることができなかった。
脊柱管狭窄症で腰の状態はかなり悪く、少しの衝撃でも下半身麻痺になる危険があると言われていた。
それでも私は、子ども達が大変な時に役に立てない自分が悔しくて、罪悪感に苛まれていた。
生活も、追い詰められていた。
仕事はできず、お金は底を尽き、電気も携帯も止まった。食べる物にも困り、真夏なのにエアコンまで壊れていた。
正直、心も身体も限界だった。
娘のところへ行く途中に、大きな橋がある。
橋の下には川が流れ、その向こうには緑と山が広がっている。
空はどこまでも広く、太陽が輝き、澄んだ空気と心地いい風が流れていた。
私はその場所が大好きだった。

いつもバイクを止めて、ほんの数分、ゆっくりと深呼吸をした。
その景色の中にいると、心が少しだけ軽くなった。
「よし。今日も頑張れ。大丈夫」
そう自分に言い聞かせて、写真を撮り、一樹に送った。
頑張る私を、見てほしかったのかもしれない。
当時、私達はまだ一度も会ったことがなかった。
私が一方的に、一樹を好きだった頃だ。
それでも一樹は、毎日のようにDMで私の話を聞いてくれた。
良いことも、辛いことも。
私は辛い話まで、いつものように笑いながら話していた。
だからきっと、私がそこまで追い詰められているとは、一樹も知らなかったと思う。
それでも、いつも励ましてくれた。
私がリクエストした応援ソングも歌ってくれた。
一樹の歌が大好きだった私は、毎日何時間も聴いた。
眠る時も、耳元にスマホを置いて、一樹の歌を何度も繰り返し聴いた。
そして、一樹は月や星が好きだった。
「今日は皆既月食やで」
「今日は満月や」
「星が綺麗に見えるで」
そんなDMがよく届いた。
「見てるか?俺も見に行く」
離れた場所にいる一樹と、同じ空を見上げる。
それだけで、少し嬉しかった。
一日をなんとか終えた帰り道も、また同じ橋を通る。
私はそこで、もう一度バイクを止めた。

昼間とは違う静かな空に、月や星が浮かんでいる。
行きの橋では、「今日も頑張ろう」と思えた。
でも帰り道は違った。
一樹の歌声を聴きながら月を見ていると、それまで堪えていたものが溢れ出して、涙が止まらなくなることがあった。
今までの人生にも、いろんな苦難があった。
それでも私は、そのたびに「なんとかなる」と乗り越えてきた。
でも、あの時だけは違った。
初めて本気で思った。
もう無理や。
死にたい。
消えてしまいたい。
そして私は、月を見上げながら、心の中で何度も叫んだ。
「一樹……助けて」
時には、声に出してしまうこともあった。
誰でもよかったわけじゃない。
誰かに助けてほしかったんじゃない。
一樹に、助けてほしかった。
昔から人に頼ることができなかった私が、心の底からそう願っていた。
一樹はきっと、自分が私を支えていることなんて知らなかったと思う。
何気なく送ってくれたDMも、励ましてくれた言葉も、歌ってくれた歌も、一樹にとってはいつものやり取りだったのかもしれない。
でも私にとっては、その一つひとつが、明日まで踏ん張るための力になっていた。
「ことりちゃーん🥰」
そう呼んでもらえるだけで、もう一日頑張れる気がした。
橋の上で空を見上げながら、
一樹も今、どこかでこの月を見ているかな。
そう思うだけで、一人じゃないような気がした。
「もう少しだけ、踏ん張ってみよう」
「まだいける」
「頑張れ、私」
そうやって私は、何度も自分を奮い立たせた。
あの時、「助けて」と心から願った人が、今はもっと近くで私を支えてくれている。
今でも一樹は、
「今日は月が綺麗やで」
と教えてくれる。
一緒にいる夜も、離れている夜も、空を見上げれば月がある。
私達は、今日も同じ月を見ている。
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からの~🤣👇
このあと、思いもよらない「バトン」が届きました。
