絶対音頭
A組の佐藤がいつまで経っても踊りを辞めない、彼は何かと苦労人だったからついに気でも狂ったんじゃないかって誰かが噂してた。
ずっと盆踊りみたいにくるくる回ってるから昨日の理科の授業で絶対温度を学んだA組の奴らは佐藤のことを絶対音頭って呼んでるらしい。
あまりにも気になったぼくは昼休みの終わるほんの少し前にA組を覗いてみることにした。案の定扉の前にはゴミに群がるハエみたいにセーラ服と学ランが群がっている。彼らの隙間からぼくは少しだけその、教室の中を覗き込む。女子更衣室を覗くみたいにぼくの胸は高鳴っていた。机のまわりをひとりでに盆踊りしている佐藤が居た、噂通り。くるくる。くるくる。普段周りに世話を焼く彼の姿からは思い浮かばないその姿。くるくる。くるくる。なにか引き込まれる、そんな何かをぼくは感じた。数秒、数秒だけだった。それなのに長く感じる。
きーんこーんかーんこーん。
授業を告げるチャイムが鳴った、一気に現実に引き返される。ぼくはそそくさとその場を立ち去った。そのとき何人かと目が合った、みんな虚ろで何も考えないで虚空を見つめてるようで、誰一人と佐藤を見ていなかった気がした。もしかしたら気のせいかな、ってぼくは数学の教科書を机に広げた。
「授業始めるぞー」
先生の合図で授業はいつも通り始まった、だけど空席が目立つ、不登校の南くんとインフルエンザにかかった桜さんを除いて居ないメンツはA組の扉の前で見かけた気がする。
そのとき外から声が聞こえた。
ざわざわ。「おい、お前ら聞こえて───」ざわざわ。「ねぇ、○○聞こえてる?お願い返事してよ。ねえ、──」ざわざわ。ざわざわ。
でも何秒か経ったらその声も聞こえなくなった、恐らく彼らも虚ろな目をしているのかもしれない。
そしてその日は5限目が終わると同時に強制的に帰らされた。A組の前は通るなって。鞄を背負ってふとぼくは隣のA組の方に目を向けた。廊下にはバリケードが置かれていて隙間を塞ぐようにブルーシートとガムテープが貼られていた。その奥から何か足音が聞こえた、なんだろう、まるで盆踊りを踊るみたいなリズムを刻んでいる。
「おい、何してるんだ早く帰れ。」
焦ったような先生の声でふと我に返った。
ときに好奇心は猫をも殺す、これ以上深追いしたらぼくまでああなりかねない。そう思ったから足早に階段を駆け下りて帰ることにした。
その後何ヶ月か休校措置を取られたあとにぼくたちは隣の第2中学校に転校させられることになった。A組を調査しようとした人みんな佐藤みたいになっちゃったんだって。それからあの土地には誰も足を踏み込んでないらしいとお兄ちゃんが言っていた。解体工事をするにも中に人が居るから出来ずに偉い人達は頭を抱えてることだろう。そしていつしかぼくの耳に噂が流れてきた。