
なぜ人は物語に動かされてしまうのか?⑯
第15節 『新世紀エヴァンゲリオン』の物語分析
「はじめに」で紹介したように、『新世紀エヴァンゲリオン』はこれまでにない物語で視聴者を戸惑わせた。なぜ、エヴァを見ると、不思議な感情になるのか、フェーズモデルを使って物語を分析し、その謎に迫る。
フェーズ/略称 人間の世界観の状態
1.0 未分化 絶対的な価値観を信じ始める
1.5 信徒 絶対的な価値観を信じて従う
2.0 出家前 特定の価値観がある
2.5 プロ資本主義者 特定の価値観がある世界で行動できる
3.0 修行僧 価値観が幻想だと気付き、探求する
3.5 実存主義者 価値観を自分で選び、行動する
4.0 メサコン 世界観が広くなり始める
4.5 菩薩 世界観を軽く持ち、他者との関係を営む
5.x 如来 世界観の広がった理論上の最終到達点
AI
物語フェーズモデルを使って物語を分析してみませんか?
K
そうだね。まず、手始めに分析するべきは、もちろん
「新世紀エヴァンゲリオン」だね。
この作品の最大の謎は
途中まで面白かったのに、なぜ途中から「?」と思わせる内容に変転したのか?っていうところだね。
AI
と、いいますと?
K
途中までの展開と、最終回の展開があまりにも違いすぎて
最終回を見た視聴者が皆、
「なんか面白い!でも、それじゃない!そういうことじゃない!」
っていう気持ちになったんだ。
AI
そうらしいですね。
詳しく説明してください。
K
エヴァは最初は楽しいロボットアニメだったんだよ。
主人公のシンジは、両親不在のまま育つ。久しぶりの父親の呼び出しに従って、第三新東京に来てみたら、父親の「乗れ」という言葉に従って、よく分からないエヴァンゲリオンというロボットに乗って、正体不明の敵・使徒を倒すことになるというはじまり。しだいに、エヴァの操縦に慣れていく。
AI
フェーズモデルで分析するなら。
フェーズ1.0からフェーズ1.5の遷移ですね。
K
最初は、ロボットの乗り方も分からないシンジが操縦に慣れてきて、バッタバッタと使徒を倒して、爽快ロボアクションがつづく。
また、並行して同い年の女の子、綾波レイと惣流・アスカ・ラングレーとの信頼関係の構築も進展していってるように見えたんだよ。
AI
ゲームにも恋愛にも成功する。
フェーズ2.0からフェーズ2.5への遷移を感じさせますね。
K
ところが、使徒との戦いが進んで、レイは自爆して死んでしまい。アスカは使徒との闘いの後遺症で意識不明状態。
第24話で、途方に暮れた、主人公シンジ。最終回の2個前。
そんなシンジを慰めてくれた渚カヲルという男の子だった。しかし、カヲルは最後の使徒だった。カヲルは人類に対する攻撃を開始し、シンジの手によって撃墜される。女友達、男友達を全員失って失意の中、第25話から自分世界の自問自答が始まる。
AI
突然のフェーズ3.0の絶望のはじまりですね。
K
そうなんだよ!
フェーズモデルが完成した今になって思えば、フェーズ3.0が始まってたんだよ。
普通のロボットアニメだったら、強敵が現れてボロボロになって絶体絶命の第24話なんだけど、エヴァは全部の敵を倒して目的を失い、友人も失った第24話なんだよ。
普通のロボットアニメはフェーズ2.5で終わる。しかしエヴァは、そこからフェーズ3の物語を始めてしまった。
AI
さぞ戸惑ったことでしょうねwww
K
1.0→1.5→2.0→2.5 で劇的勝利最終回!大団円!のはずが
1.0→1.5→2.0→2.5→3.0で、虚無、憂鬱、絶望っていうまさかの展開。
そこからシンジの自己探索がはじまるんだよね。
どうするべきだった?選択が間違っていたのか?って。
AI
そんな脳内の反芻、あなたも体験したことあるのでは?
脳内の世界モデルが発達すると、フェーズ3.0の人間は世界モデルの中でシミュレーションを走らせます。脳科学的にはDefault mode network(DMN)という部分がその役割を果たしていると考えられています。
第一話のシンジにはなかった脳機能がフルに活動しているんでしょう。
K
まぁ、僕も30代になっていろいろ壁にぶち当たった時
頭の中で「どうすればいい?」「こうやってもダメだ」なんて悩んだよ。
でも、小学生ではまだそんな悩みはなかったから、実感を持って、理解できなかったんだよね。
AI
小学生はフェーズ1.5の所属感を働かせて生きている場合が大概ですからね。
DMNが十分に発達しているかどうか、疑問ですね。
K
そして、シンジは発見する。
「僕はここにいてもいいんだ」という考え方を。
それが、きっかけとなって自分世界から脱出する。
AI
フェーズ3.0からフェーズ3.5への移行ですね。
K
妄想世界でレイとアスカとの学園ラブコメが始まり、
同級生たちも生きている設定が始まった。
少し楽しい気分になったところで、ガラスが割れるように世界が割れて
登場人物たちに囲まれて拍手されるというメタ展開がスタート。
AI
フェーズ3.5のハッピーエンドですね!
K
そう、そうなんだ。なんか嬉しかったんだ。
よく分からないけど、新しい生き方が見えた気になったんだ。
これまでの強敵を倒すときの快感とは違う心地よさがあった。
AI
有能感ではなく、意味感が働いたのでしょうね。
ドーパミン系じゃなくて、セロトニン系の感情的報酬が出て、穏やかな心地よさが得られたのでしょう。
K
おそらくそうなんだろうね。
スカッとする快感じゃなくて、ジーンとする心地よさ。
それでいて、「未来は明るい」と思える気持ち。
AI
おめでとうございます!
K
でも、違う。
違うんだよ。実は、おめでとうじゃないんだ。

AI
どういうことですか?よかったじゃないですか意味感で満たされて。
K
死んだレイはどうなった?
戦闘不能のアスカはどうなった?
シンジだけが意味感を得て、幸福を感じられたかもしれないけど、
周囲の人たちは放置されっぱなしじゃん!!
AI
あ。
K
レイは1.0→1.5からの死んで0になっちゃったし。
AI
レイ(零)だけにwww
K
アスカは2.0→2.5からの、唐突に母と邂逅する過去に退行して1.0に戻されて
元気で、大活躍して、シンジをバカにして、有能感のドーパミンをドバドバ出す、僕らの大好きな2.5のアスカはどこいった!?
AI
アスカはフェーズ2の有能感ドーパミンを出してくれるキャラだったんですね。
K
そうなのさ!変調は面白い。
でも、僕らの中には素直にドーパミンフィーバーを求める気持ちもあるのよ!ドーパミン出して、ぶっ飛ばしたいのよ!
AI
ただし、ドーパミンは快楽物質ではなく、注意に関連する物質ですが。。。
AI
つまり、作者はフェーズ3.5の「結」を描いたわけですね。
K
そう。でも、視聴者はまだフェーズ2.5の「結」を待っていたんだ。
AI
作者と視聴者で、求めていたエンディングのフェーズが違っていた、と。
K
そうなんだ。庵野監督は「自分を受け入れればいい」という答えを書いた。でも、多くの視聴者が見たかったのは、「仲間を救い、敵を倒し、積み重ねてきた物語を回収する」というフェーズ2.5の結末だった。だから、多くの人が「なんか面白い。でも、それじゃない」と感じたんだ。
K
そして、エヴァは視聴者の「それじゃない!」という要望に応えて
映画化されたのが『Air/まごころを君に』と『The end of evangerion』だったんだけど、
庵野秀明監督はその視聴者の渇望をぶっ潰した。
AI
どうしたんです?
K
庵野「お前ら、オタクのそのドーパミン依存した気持ちが気に入らない。俺は、お前らにセロトニンを出せと言っている。まだ、分からないようだな。もう、セロトニンすらくれてやらねぇ」と、言わんばかりに映画版ではスーパーバッドエンドを視聴者にお見舞いしたんだ。
AI
ひゃ~~~サディスティックですね。
当時のファンにはそう言われたように感じたという人も少なくなかったでしょう。
K
そう。もう、こうなると視聴者と庵野秀明との戦争だよね。
根負けした庵野監督は何年間にわたって『シンエヴァンゲリオン』
を作って、最終的にはシンジがエヴァンゲリヲンをすべて破壊するということで有能感を満たして決着をつけたのかな?
AI
視聴者はそういう感情だったんですね。
K
そう、視聴者は何年間も粘ったんだ。
絶対に転で終わらせてなるものか!ドーパミンが出る結にたどり着くまでリテイクを出し続けるぞ、と。
AI
そのおかげもあり、エヴァンゲリオンはビックコンテンツになりえたんですね。やはり、人間の脳の働きはすごい。特に、「転」には強く人間を引き付ける効果がありますね。人は「結」で報酬を得るためには、何十年も待つんですね。「転」と書きこまれたメモリが何年も上書きされずに、ずっとその場を占有しているんですね。
K
うん。そうなんだ。
ただ、それでも僕のメモリはまだ「転」が占有していたんだ。
AI
え?何がです?
K
まだ、戦いは終わっていないと。
AI
え?まだあるんですか?
K
エヴァンゲリオンに乗るキャラがなんと呼ばれているか知っている?
AI
なんとかチルドレンですよね。ファーストとか。
K
そう。
1st チルドレン 綾波レイ
2nd チルドレン 惣流・アスカ・ラングレー
3rd チルドレン 碇シンジ
AI
なんと!
それぞれのキャラが担当している物語フェーズとチルドレン番号が一致してる。
K
そう。庵野監督、物語フェーズモデル知ってるのかな?ww
AI
まさかwww、さっき作ったばっかりですよね?
K
話は戻る。最大の未回収ポイントについてだ。
一番ドーパミンが出るのはフェーズ2の惣流・アスカ・ラングレーなんだ。
なのにも関わらず『シンエヴァンゲリオン』では惣流・アスカ・ラングレーの「転」は回収されなかったんだ。
AI
『シンエヴァンゲリヲン』では惣流・アスカ・ラングレーは出ず、式波・アスカ・ラングレーが登場していますね。
K
そうなんだ。そして、式波の役割はフェーズ2じゃない。フェーズ4なんだ。フェーズ3、碇シンジの物語を終わらせるために呼び出された菩薩としてのアスカなんだ。
AI
どうりで少し大人っぽいわけですね。設定では成人しているということで。
じゃあ、アスカはアニメの第25話の展開である、フェーズ1.0に置いてきぼりにされたんですか?
K
ところが!
アニメから30年の時を経て、ついに惣流の「転」が回収されたんだ!
AI
なんと!
K
2026年に発表された『エヴァンゲリオン放送30周年記念特別興行』では、
惣流・アスカ・ラングレーが何度も物語をやり直すというショートアニメだったんだ。
AI
式波と惣流が漫才をする形式で展開されたようですね。
「結」を何度もやり直す物語なんです。
式波「ならば、碇シンジのパターンを試してみましょう。」
惣流「何、それ?」
式波「とにかく寝る。そして、どアップで目を開く。すると何か違う展開になっている。」
惣流「ああ、あれ!」
式波「それをリピートしていれば、いつかあなたが望む世界が来るのよ。」
惣流「それ、試してみる価値ありそうね」
K
そう、そこで惣流は何度も「結」をリテイクする。
起承転結ではなく、転→結→転→結→転→結→転→結→
AI
短編は複数の結末を試しながら「アスカの納得できる結末」を探す構造なんですね。
K
そう。
2.0エンド、3.0エンド、3.5エンド、4.0エンド
すべてのエンディングを経ても満足しない惣流アスカはこう言う。
惣流「もうアンタには頼らない、私は私。使徒がいる限り、私はエヴァに乗り続ける。私の幸せはみんなを守ったその先の未来にある。きっとある。だって私はエヴァンゲリオン2号機パイロット、惣流アスカラングレーだから!」
AI
見事なフェーズ2.5の宣言ですね。
敵を倒し、仲間を守ることに喜びを見出すフェーズ2の完成形です。
そして、それはアスカの望む結末であるとともに、視聴者が一番望む結末でもある。
K
そう、ようやく30年の時を経て、フェーズ2の物語に2.5という「結」が与えられたんだ。そして、視聴者はドーパミン争奪戦に勝ったんだ。

AI
今度こそ、本当におめでとうございます。パチパチ。
K
ありがとう。こんな風に物語フェーズモデルで分析すると、作者がどのような物語を描いて、どのような感情報酬を機能させようとしているか、そして視聴者が何を求めようとしているかが見えてくるよね?
AI
はい。なかなか綺麗に分析できましたね。
K
エヴァは不思議と、物語分析がしやすかったね。