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【ゎヌルデン・サむゎン】 2026幎 創䜜倧賞 応募䜜品 ゚ッセむ郚門

    人生で初めおベトナムに行くず決たったずき、ふず、Y君のこずを思い出した。
    Y君は、わたしが倧孊生の頃、バむトで䞀緒だったひず぀幎䞋の男の子だ。焌けた肌に切れ長の奥二重、すっず錻筋の通った端正な顔をした男の子だった。
    幎以䞊も䌚っおいないずいうのに、いたでもその顔をはっきりず思い出せるのは、単に圌の顔が矎しかったせいだけではないず思う。

    わたしの誕生日に倫からのプレれントずしお、倧奜きなタむのバンコクず初のベトナムのホヌチミンに連れお行っおもらえるこずになった。
    「぀いでにベトナムに寄っおみない」ず倫に提案され、わたしは「぀いでだったら、たぁいいけど」ず答えお、決たった。
    そういえば、むかし、行っおみたかった囜だ。
    旅立぀前の数週間、わたしたちは毎晩倕食時に、YouTubeなどを芋おホヌチミンの情報を収集しおいた。新しいビル、たくさんの高局䜏宅、おしゃれで掗緎されたカフェやショップがたくさん映っおいお、思っおいた以䞊にずっず珟代的だった。
    そんな様子を芋おいお「あの頃ず比べおずいぶん倉わったんだろうな」ず、わたしはほんずうに知りもしない20数幎前のベトナムを想像しおいた。

    あの頃——
    か぀お、倧孊生だった頃のわたしはバックパッカヌずいうものに憧れおいた。そしお、そういうひずたちの行先は東南アゞアや南アゞアなんかがしっくりくるず思っおいた。
    長期滞圚にうっお぀けの宿がたくさんあっお、そこには日本から来た同志もいたりするらしい。物䟡も安く、街はどこか開攟的で、䜕だかよくわからないけれど、ずにかく倢芋心地で過ごせるらしいず、わたしはそう聞いおいた。
    倧きなリュックサックに荷物をたずめ、よく読み蟌んできた『地球の歩き方』をたよりに、気の赎くたた安宿を転々ずしお異囜を枡り歩く。
    そう、これは旅行じゃなくお“旅”なのだ。
    きっず、そういう時代だったのかもしれない。
    たしかにあの頃、春や倏の長い䌑みを利甚しおそうしお旅をしおいる人がたわりに䜕人かいたし、そんな話もよく聞いおいた。
    Y君もそういうバックパッカヌで、タむ、ラオス、カンボゞア、ベトナムなんかに行っおきた話をよく聞かせおくれた。そしお圌の倧のお気に入りの囜が、ベトナムだった。

    幎月、ホヌチミンのタン゜ンニャット囜際空枯に着いたのは早朝時過ぎだった。空枯から街䞭たではGRABずいう配車アプリも䜿えるように倫のスマホに入れおきたのだけれど、わたしはあえお公共の路線バスを䜿っおみたかった。思いきっお倫に提案するず、意倖にも快く賛成しおくれた。わたしは倫の気が倉わらないうちにず、急いでバス停を探し、運よく止たっおいるバスを芋぀けるず、意気揚々ず乗りこんだ。
    叀くお小さな青いバスに、運転手ず集金係のおじさん、珟地の人らしき数人ずわたしたちだけで出発した。
    所々痛んだ焊茶色の粗い床、わたしたち以倖旅行者らしきものがいない車内。ドアは開閉するたびに軋んだ音をたおおいた。バスが走るに぀れお、あの頃の“旅”ぞの憧れが、色を取り戻しおくるようだった。わたしは、やっぱり公共のバスにしお正解だ、ず思った。

    空枯の敷地から倖に出るず、朝のラッシュ時間ずいうこずもあっおたくさんの車ず、それ以䞊にものすごい数のバむクがクラクションを鳎らしながら犇めき合っおいた。「たさに東南アゞア」ずいう雰囲気に、やっぱり鳥肌は立っお、興奮せずにはいられなかった。
    枋滞をゆっくり、でも乱暎に進むバスの窓からそんな街の様子を眺めおいるず、ふず、圌もこのバスに乗ったのだろうかず胞の奥にそんなこずが浮かんだ。倧きなリュックサックを背負い、䞍安げに、でも興奮でいっぱいのはち切れそうな気持ちを抑えお。目にするものすべおが刺激的で異囜すぎる䞖界を、圌はこの窓から芋おいたのだろうか。わたしはただわずかにでも数幎前の気配が残っおいるような気がしお、そんなずころを探しおいた。

    バスの集金係のおじさんは、ずおも芪切だった。降りたい堎所を事前に聞いおくれお、近くなったら知らせおくれた。実は、行く前に知人から悪い情報を吹き蟌たれおいたので、わたしはこのおじさんに察しおも最初からかなり譊戒しおいたのだった。
    ホテルがある近くの通りでバスを降り、ガタガタの歩道をお気に入りのキャリヌケヌスが壊れるんじゃないかず気遣いながら、倫ずしばらく歩いた。
    肌に觊れる空気は生暖かく、車やバむクのクラクション、゚ンゞン音が絶え間なく響いおいる。街路暹は熱垯雚林を思わせるほど背が高く、至る所からは緑ず花が溢れおいた。
    歩道のあちこちでは食事が䜜られ、そこに眮かれた䜎いテヌブルずむスで朝ごはんを食べおいる人たちがいる。そんな朝の雰囲気に、わたしはすでにこの囜が倧奜きになる予感がした。

    「そんなに興味があるならさぁ、今のうちに絶察行った方がいいっお珟地で合流しお䞀緒にたわろうよ」ず、Y君がそう蚀っおくれたこずがある。
    珟地で
    そうか、わたしたちはバむト仲間であっお友達ずいうほどでもない。圓時、尊敬しおいた高橋歩の本を貞し借りする仲ではあったけれど、友達ほどなにも共有しおいなかった。
    目的が同じならば䞀緒にいるこずはできるだろう。けれど、ずっず䞀緒にいおくれる保蚌はない。ある日突然、わたしはほんずうに䞀人旅をしなければならなくなっおしたうこずだっおあるかもしれない。
    だからわたしはその話に乗るこずはなかった。

    それから数幎埌、わたしは今ここにいる。
    しかも、頌りになる倫ず䞀緒に
    倫はわたしの数歩前を歩き、スマホのマップを䜿っおホテルたで導いおくれおいる。ベトナムのこずや“旅”のこずなんおずっず忘れおいたくせに、数幎越しの倢が叶った気がした。たずえ、それが合理的で安党で、たたたた䞎えられたものだったずしおも

    倫が取っおくれたホテルは、もちろん安宿なんかじゃない。぀星のおしゃれで矎しいホテルだった。フロントで荷物を預けお、さっそく散策を開始した。街なかは、東南アゞアらしい雰囲気はあるけれど思った以䞊に郜䌚的だった。そしお時間はゆったり流れおいるようなのに、日本にはない匷い゚ネルギヌを感じた。
    それはこのおびただしいバむクのせいかもしれない。
    わたしはこのバむクの流れをみるのが倧奜きだ。

    街䞭を歩いおいるず、時々、若い少幎か少女の圱がちら぀く。
    䟋えば垂堎なんかに行ったずきや、歩道に出おいる屋台ず䞊んだプラスティックの怅子を芋た時、あるいは背の高い朚がたくさんあるだけの広い公園をみたずきなんかに。昔ずあたり倉わっおいないだろう堎所に。

    わたしがずいうか倫もこの旅で䞀番心配しおいたこずは、食あたりだった。だから屋台やロヌカルな食堂では食べおいない。垂堎にあったチェヌも食べたかったけれど、食べおいない。
    矎味しそうだなず暪目で芋぀぀、お茶も食事もあらかじめ目星を぀けおおいた、きちんずしたレストランでしか口にしなかった。
    もちろん、数幎前だっお玠敵なカフェやレストランはあったず思う。
    けれど、Tシャツに短パン、サンダル姿の少幎が奜奇心ず食欲に誘われるたた、地元のひずに混ざっお屋台や食堂で食事しおいる姿が目に浮かぶ。
    きっず若いわたしにだっお、そういうこずをすんなり受け入れお楜しめる元気さがあったはずだ。

    ——道路沿いに䞊んだプラスティックの怅子に座ったわたしは、圌にならっお䞭身もよくわからない料理を泚文する。
    やがお、どさっず目の前に぀くりたおの料理が眮かれる。わたしは、期埅ず少しの䞍安が入り混じったような気持ちでそれを口に運び「矎味しい」ず目を䞞くする。
    たずえ、お腹を壊したずしおも、あずになっお笑い話にしおいたんじゃないかず思う。「あれは、やばかったよね」ずか蚀っお笑い転げおいたかもしれない——

    グルメに街歩き、倜のショヌたでたっぷり楜しんで、ようやくホテルの郚屋に戻っおきた。今回は、わたしの誕生祝いずいうこずもあっお、倫が普段より良い郚屋を取っおくれおいた。癜ず黒を基調にしたモダンな郚屋は、ベトナムらしいコロニアル調の芁玠が散りばめられおいた。あたたかく柔らかな光、敷き詰められた癜いじゅうたん。いかにも優雅な猫足のバスタブに、どっしりずしたふかふかの広いベッド。
    それは、昔わたしが思い描いおいた「旅の郚屋」ずは、たるで違う。

    ——济宀の掗面台でTシャツを掗っお郚屋に干し、異様に柔らかく匟むベッドで疲れ果おお眠る。あるいは硬すぎるマットレスの䞊で蒞し暑くお眠れない倜を過ごす日もあったかもしれない。
    快適ずは皋遠いけれど、このずきこれが「旅」ずいうものだず知る——いや、そんな郚屋でわたしはひずり過ごせただろうか
    コンコン、ず扉をノックする音が聞こえお、わたしは寛いでいた゜ファから立ち䞊がり、入り口ぞ向かった。
    薄く扉を開けるず、そこには若いスタッフが立っおいお、暪には癜いクロスがかかった小さなワゎン、その䞊にはピンクず癜の可愛いフラワヌアレンゞメントず、これたた可愛らしいケヌキがのっおいた。そしお、さらにもうひずり若いスタッフが笑顔で立っおいた。
    異囜の地での、サプラむズだった。倫がお金を払っお甚意しおもらったのかず思ったのだけれど、ホテルからのご厚意だった

    か぀お、Y君の話を聞きながら旅の想像を膚らたせおいただけのわたしは、い぀かベトナムでこんなふうに過ごしおいるなんお、たったく思っおもみなかった。
    今になれば「旅」は、あくたでも理想だったのかもしれないず、思っおしたうこずがある。
    そしおたた、自分では叶えられそうもない倢をY君に蚗しお、わたしはただ倢を芋おいただけだった。
    でも、もしあのずき゚むダッず勇気だしお「旅」に出おいたら、わたしも人生も倉わっおいただろうかなんお想像しおみる。
    わたしは「旅」に慣れ、それから出䌚う人も、進む道も、遞ぶものも今ず違っおいたかもしれない。
    自分の人生に埌悔がないなんお蚀えないけれど、今の生掻も気に入っおいるし、”わたしらしい”ずもおもう。
    それに、こうしお倫に連れられおこの囜に来れたこずで、わたしはベトナムが倧奜きになれたのだし。

    寝心地の良すぎる広いベッドで、わたしは今晩芋たショヌに出挔しおいた若いパフォヌマヌたちのこずを思い浮かべおいた。
    垌望に満ち溢れキラキラしお芋えた圌らは、この街で暮らしおいるのだなず。
    そんな姿に昔の自分の圱がリンクするような気がした。
    数幎で、わたしも倉化したし、この囜も倧きく倉わっおいたんだなず思うず、なんだかずおもおもしろい。

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