
海の声が聞きたくて
海の色って何色?
インドの少年にこんな質問をした。
「僕の街のは薄茶色だよ。でもとてもきれいなんだ」
少年に出会ったのはインドのとある街の公園。
この地域では、貧しくて学校に行けない小学生を公園に集めて勉強を教えている。
いわゆる青空教室だ。
先生はみんなボランティアで、
そのうちの1人に誘われて行った時に、
少年は生徒として来ていた。
青空教室は週に3日、科目は数学と英語のみだ。理由はこの2教科ができたら「新しい職業」に就きやすくなるからだそうだ。
インドではカースト制は
とっくに廃止されているものの,
やはり職業選択においてそれは根強い。
基本は世襲制なので、産まれた時から
何になるかがもう決まっている。
親がチャイ屋さんならその子供も、
そしてその子供もチャイ屋さん、
という風にもう決まっているものなのだという。
世の中にはいろんな職業があるのに。
そういったしがらみから脱却できるのは、
IT関係とか国際関係といった
「昔はなかった新しい職業」につく事なのだそうだ。
少年は10歳。
日本でいうと小学3年生か4年生だ。
アニメが大好きで、私が日本人だと分かると「ゴクウ!カメハメハ!ワンピース!」と
マシンガンのように話しかけてくれた。
英語の授業で、
「あなたの街のことを教えて」というお題で会話をした時に彼は言った。
「そんなに遠くに行ったことがないけど、僕はこの街が好きだよ。雨も多くないし、遊べる場所も友達も沢山いる。それにね、海が好き!!」
「へぇ。海が好きなんだ。なんで好きなの?」
「綺麗じゃん!海見たことないの? 連れて行ってあげるよ」
もちろん海は見たことあるが、
私はこの街に滞在している間、
海が綺麗だと思ったことは一度もなかった。
どの海岸もゴミだらけだし、
海も茶色くていつも荒れているからだ。
その日の授業が終わった後、
少年の母親が迎えに来たので
「綺麗な海が見える場所」に
数人で行くことになった。
歩いて2分だと言っていたが,
インド人の言う2分を当てにしてはいけない。
15分かけて歩き、商店街のような場所を抜けてようやく海岸に出る。
「着いた!これが海だよ!きれいでしょ」
少年はどこか誇らしげだ。
しかしそんな少年には申し訳ないがやっぱりそんなにきれいだと思えない。
いや、もうね、正直
めっちゃくちゃ汚い!!
日本で見たことがないくらいに
海岸はゴミだらけ。
これは流れ着いたものではなく
大半がポイ捨てなので臭い。
右側にはそれが積もったもの、
左側には鳩の大群、海の音が聞こえないほどのクラクション、泡だった茶色い海。
今まで見た海でぶっちぎりワースト1位だった。
それでも少年にとってはこの海は綺麗なのだ。
「この海のどこが好きなの?」
「キラキラしてるところ!あと見えないけど、下にたくさん魚がいるところ。
あとね、たまに遠くに船が見えて、お兄ちゃんとどこから来たか、どこに行くのかよく話して遊ぶんだ。あれは宇宙人の船だとか。そうそう、昨日も大きな船が通ったけど、お兄ちゃんが『あれはルフィが乗ってる』って言ってたよ!」
なんだか私は一瞬、泣きそうになった。
何にかはわからないけどツンときた。
この茶色い海を見て、見えない魚や遠くの船に目をキラキラさせることができる、その想像力フィルターを羨ましく思った。
私も子供の頃は
泥のたまった水たまりでも
「ミルクティーみたいだ」とか、
雷が鳴る降る真っ暗な空も
「あの上に鬼がいておへそを狙ってる」とか
想像してワクワクできていたのに。
そんなことを思い出しながら海を眺めても、
やっぱり汚ったねーなぁとしか思えなかった。
確かに、30歳にもなって「あの船にはルフィが!!」と言っているやつもヤバい奴なのだけど。
私がもう見ることのできない景色を彼は見ている。エメラルドグリーンに透き通る海なんて必要ない、そんな彼が少し羨ましかった。
少年の夢は、パイロットになっていつか日本に行くことだそうだ。
サクラが見てみたいと言っていた。
彼が青空教室を卒業して、いつかパイロットとしてこの茶色い海を渡れますように。
いろんな色の海を見たとしても、
変わらずあのキラキラした目のままで、
日本のサクラが眺められますように。