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若手が辞めるのは、上司のせいじゃなかった――営業の「2年目」だけに起きていたこと

    「若手がすぐに辞めてしまう。やはり、今の世代は忍耐力がないのではないか」

    現場の管理職や人事担当者から、こうした嘆きを耳にすることがあります。しかし、本当にそうなのでしょうか。

    ある企業の人事部でも、若手社員の離職をめぐって、同じような議論が始まりました。ホワイトボードには、給与、研修、上司との相性、本人の意識といった原因が次々に並びます。

    ところが、一枚のデータが映し出された瞬間、彼らが考えるべき問いは大きく変わりました。ここから、人事部の三人が、答えを探すだけではなく、問いそのものを見直していく過程をたどります。


    「今日は、若手社員が辞める原因を、徹底的に洗い出したい」

    中川部長の言葉を合図に、人事部のメンバーが付箋へ書き始めた。

    給与が低い。

    研修が足りない。

    会社の将来性が見えない。

    上司との相性が悪い。

    希望する仕事を任せてもらえない。

    若手の忍耐力が落ちている。

    ほどなく、会議室のホワイトボードは、原因らしき言葉で埋まった。

    出席者の誰もが、若手社員の離職を深刻に捉えていた。現場へのヒアリングや退職者の声を思い返し、それぞれが真剣に意見を出している。

    人事企画を担当する宮本さんは、机の上に離職率の資料を広げながら、出てくる意見を黙って書き留めていた。その隣では、若手社員との面談や退職者インタビューを担当している木村さんが、付箋に書かれた言葉を一枚ずつ目で追っていた。

    ところが、議論は前へ進まなかった。どの原因も、それなりに正しそうだったからである。

    給与に問題があるなら、処遇を見直す必要がある。研修が足りないなら、研修を増やせばよい。上司との関係が悪いなら、管理職教育やメンター制度が必要になる。原因を一つ選ぶたびに、別の誰かが、違う原因の重要性を指摘する。

    会議を始めて一時間が過ぎた頃には、原因だけでなく、対策まで入り交じっていた。

    「新入社員研修を見直しましょう」

    「若手向けのキャリア研修も必要ではないですか」

    「管理職の意識を変えないと、何をやっても同じですよ」

    「離職防止の面談を増やすべきです」

    ホワイトボードに並んだ付箋は増えた。しかし、何を基準に選べばよいのかは、ますます分からなくなっていた。

    木村さんは、手元のノートを開いた。そこには、前月に退職した営業部門の2年目社員との面談記録が残っていた。

    「仕事が嫌だったわけではないんです」

    退職を決めた彼は、そう話していた。

    「でも、この会社で何ができるようになっていくのか、分からなくなりました。数字が足りないことは毎月言われるけれど、自分が成長しているのかを話す機会は、一度もなかった気がします」

    木村さんは、その言葉を会議で口に出そうとして、いったん止めた。ホワイトボードには「最近の若手は我慢が足りない」という付箋が貼られていた。

    そのとき、宮本さんが口を開いた。

    「少し、原因を考えるのを止めませんか」

    中川部長が、意外そうな顔を向けた。

    「原因を洗い出すための会議だろう」

    「はい。ただ、私たちは今、誰の離職について原因を考えているのでしょうか」

    「誰のって、若手社員だよ」

    「若手社員の離職は、どの部門でも、どの年次でも、同じように起きているのでしょうか」

    会議室が静かになった。誰も、すぐには答えられなかった。

    原因が多すぎるとき、問いが広すぎる

    人事部では、これまで若手社員の離職率を一つの数字として見ていた。

    採用した社員のうち、入社後数年以内に何人が退職したか。その全体値が前年より悪化したため、「若手が定着しない」という問題が経営会議で取り上げられていた。

    宮本さんは、離職データを部門別、年次別に切り分けた表をスクリーンへ映した。

    新入社員が一様に辞めているわけではなかった。管理部門や技術部門では、前年と比べて大きな変化はない。営業部門でも、1年目と3年目以降の離職率は、他部門と著しく違うわけではなかった。異常が集中していたのは、一か所だけだった。

    営業部門に配属された2年目社員。その層だけが、他の部門や年次と比べて突出して多く辞めていた。先ほどまでホワイトボードを埋めていた原因が、急に違って見え始めた。

    給与が低いことが全社共通の問題なら、なぜ営業部門の2年目だけが辞めるのか。若手の忍耐力が落ちているのなら、なぜ1年目や他部門では同じ現象が起きていないのか。研修が足りないことが原因なら、研修を終えた直後ではなく、なぜ2年目に離職が集中するのか。

    宮本さんは、ホワイトボードに書かれていた問いを消した。そして、新しい問いを書いた。

    なぜ、営業部門の2年目社員だけが、突出して多く辞めるのか。

    会議の質は、この一行で大きく変わった。
    調べるべき対象が定まったからである。原因が多すぎて議論が進まないとき、問題が複雑すぎるとは限らない。原因を探す場所が、広すぎることがある。

    問題全体を切り分け、異常が集中している場所を特定する。ここで明らかになった、原因を探るべき焦点が「問題点」である。焦点が変われば、その後に立てる仮説も変わる。

    「若手社員全般」の離職を説明しようとすれば、給与、福利厚生、採用、研修、上司、企業文化など、考えられる原因は際限なく広がる。しかし、「営業部門の2年目」に絞れば、確認すべき事実が具体的になる。

    1年目から2年目に移るとき、仕事の内容はどう変わるのか。研修期間が終わった後、誰が育成を担っているのか。営業部門では、他部門と異なる評価やマネジメントが行われていないか。原因分析は、「なぜ」を何度繰り返したかだけでは決まらない。何に対して「なぜ」と問うたかによって決まる。

    「管理職の意識」で思考を止めない

    問いを絞ったことで、新しい仮説が出始めた。

    「1年目は研修やOJTがあるけれど、2年目になると急に一人前として扱われるのではないでしょうか」

    「営業の2年目は、目標数字が大きく上がります。仕事の難易度に対して、支援が減っているのかもしれません」

    「先輩社員も数字を追うことで精いっぱいです。ロールモデルになる人が身近にいないのでは」

    「会社は挑戦を奨励すると言いながら、現場では失敗すると評価を下げられる。そのギャップもありそうです」

    先ほどまでの一般論とは違い、「営業部門の2年目」という条件を説明できる仮説が並び始めた。

    木村さんは、退職者や在職中の2年目社員へのヒアリング内容を整理し、宮本さんは、管理職への聞き取りと並行して、評価制度や業務配分に関するデータを確認した。

    すると、いくつかの事実が見えてきた。

    営業部門では、1年目までは先輩社員が育成担当としてつく。しかし、2年目になると担当顧客と売上目標が増え、育成担当は外れる。

    上司との面談は行われているものの、話題の大半は目標数字の進捗だった。本人が何を身につけたいのか、どのような経験を積む必要があるのかを話す機会はほとんどない。若手を指導すべき先輩社員も、自分の数字を達成することで精いっぱいだった。

    ここまで来れば、「営業部門の管理職や先輩社員に、若手を育てる意識が足りない。」と結論づけたくなる。実際、この結論を置けば、対策もすぐに考えられる。

    • 管理職向けの意識改革研修を行う。

    • 育成力を高める研修を追加する。

    • 若手との面談回数を増やす。

    しかし、宮本さんは、そこで立ち止まった。

    「なぜ、管理職は短期の数字ばかりを優先するのでしょうか」

    「営業なのだから、数字を追うのは当然だろう」

    中川部長が答えた。

    「もちろんです。では、若手を育てることと、今期の数字を達成することが衝突したとき、管理職はどちらを選ぶでしょうか」

    「数字だろうな。達成できなければ、自分の評価が下がる」

    「若手を育成した場合は、どの程度評価されますか」

    中川部長は黙った。

    営業畑が長かった中川部長にも、身に覚えがあった。かつて営業課長だった頃、将来性のある若手に大口顧客を任せようとして、直前で経験者へ差し替えたことがある。失敗させたくないという気持ちもあった。だが、本音を言えば、自分の課の数字を落とすのが怖かった。

    「若手に任せろと言われてもな……」

    中川部長は、独り言のように言った。

    「数字を落としたら、結局、課長の責任になる。私も同じことをしていたかもしれない」

    木村さんが静かに尋ねた。

    「中川部長が課長だったとき、部下を育てたことは評価されていましたか」

    「された記憶はないな。少なくとも、売上ほど明確には」

    人事評価制度を確認すると、営業管理職の評価の大半は、担当部署の短期業績によって決まっていた。部下の育成は、評価シートのなかに言葉としては入っている。
    しかし、具体的な達成基準はなく、評価全体への影響も小さい。若手へ難しい仕事を任せて失敗すれば、部署の数字が悪化する可能性がある。

    一方、経験豊富な社員へ仕事を集中させれば、短期的な業績は安定する。管理職が短期業績を優先するのは、意識が低いからではなかった。
    現在の仕組みのなかでは、その行動が合理的だったのである。先輩社員が育成に時間を使えないことも、理念よりノルマを優先することも、別々の原因に見えていた。しかし、深くたどると、いずれも同じ構造へ行き着いた。

    短期業績を達成した管理職は評価される。
一方で、若手を育ててもそれだけではほとんど評価されない。個人の意識に見える問題の背後に、その行動を選ばせる仕組みがあった。

    人の意識を変えようとする前に、その人がなぜ今の行動を選ぶのかを見なければならない。本人にとって合理的な行動を残したまま、「意識だけ変えてください」と求めても、行動は長くは続かないからだ。

    離職率を下げれば、問題は解決するのか

    原因が評価制度にあるなら、評価項目へ「部下の育成」を加えればよい。
    議論は、そこへ向かいかけた。木村さんは、先ほどの退職者面談の記録を見つめていた。

    「育成の評価を加えて、離職率が下がれば、この問題は解決したといえるのでしょうか」

    「若手が辞めなくなれば、目的は達成したことになるだろう」

    中川部長が答えた。

    木村さんは少し言いよどんだ。

    「面談した社員のなかに、『辞めずに残ることと、ここで成長できることは違う』と言った人がいました」

    言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。

    「会社に残っていても、成長できず、言われた仕事だけを続けているとしたら、それを定着と呼んでよいのでしょうか」

    中川部長は、しばらく考えた。

    若手の離職率を下げることは重要である。
    しかし、辞めさせないこと自体が、人材育成の目的ではない。
    本来目指しているのは、若手が仕事を通じて成長し、将来の事業や組織を担う人材になること。
    そして、育った人が、次の若手を育てる側へ回ることだった。

    離職率は、その状態へ近づいているかを測る指標の一つにすぎない。
    原因を裏返しただけなら、課題は、「管理職の評価項目に、若手育成を加える。」となる。
    しかし、それはすでに一つの手段である。人事部が本当に取り組むべきことは、もう少し上位にあった。

    短期的な業績を担保しながら、若手が成長し、育った人が次の人を育てる評価と育成の仕組みを構築する。

    この一文が置かれたことで、対策を選ぶ基準が生まれた。
    評価項目を増やすことが、この課題の実現に最も有効なのか。
    面談を増やすべきなのか。仕事の任せ方を変えるべきなのか。
    育成を担う役割そのものを見直すべきなのか。
    真因が分かっても、すぐに対策へ進んではいけない場合がある。
    原因を解消し、どの状態へ近づきたいのかを定めなければ、対策を比較するための物差しが持てないからである。

    「全部、何かを足していますね」

    課題が定まると、対策会議が始まった。

    「評価項目に、部下の育成への貢献を追加しましょう」

    「管理職向けの育成研修も必要ですね」

    「2年目社員には、メンターをつけてはどうでしょう」

    「面談を年1回から年2回へ増やす案もあります」

    もっともらしい対策が次々と並んだ。宮本さんが、ホワイトボードを眺めながら言った。

    「いま出ている案は、全部、何かを足していますね」

    会議室が静かになった。

    中川部長は苦笑した。

    「確かに、人事の対策は、研修か面談を増やす話になりがちだな」

    「現場からすれば、また仕事が増える、という話です」

    木村さんは、面談相手から何度も聞いた言葉を思い出していた。問題が起きると、組織は対策を追加しやすい。

    事故が起きれば、チェック項目を増やす。

    情報共有が不足すれば、会議を増やす。

    若手が辞めれば、研修や面談を増やす。

    追加する対策は、実行したことが目に見えやすい。説明もしやすい。
    しかし、仕事や制度を足すだけでは、既存の仕組みが抱えている矛盾を残したまま、現場の負担だけを増やすことがある。

    三人は、「何を加えるか」以外の方向からも考え始めた。

    短期業績だけで管理職候補を決める運用を廃止できないか。

    短期業績の評価比重を下げ、育成への貢献を高められないか。

    上司一人の印象に依存した評価を、本人の成長記録や複数者のフィードバックへ置き換えられないか。

    業績評価と育成面談を、同じ場で行う必要はあるのか。

    数字の結果を伝えた直後に、長期的な成長の話をしても、管理職も若手も頭を切り替えにくい。
    面談を分け、実施する時期も変えた方がよいのではないか。

    さらに、

    若手へ仕事を任せた後に成長を評価するのではなく、先に本人の成長目標を定め、その目標に合う仕事を任せる。

    という案も出た。

    評価項目を一つ加えるだけの話から、評価、面談、仕事の割り振りを含む仕組み全体の話へ変わっていった。

    答えは、同じ業界のなかにあるとは限らない

    それでも、一つの疑問は残った。

    目先の売上に責任を持つ営業管理職へ、長期的な人材育成も同時に求める役割設計そのものに、無理があるのではないか。
    評価比重を変えても、業績責任がなくなるわけではない。管理職の仕事を増やせば、育成面談が形式化する可能性もある。

    自社の評価制度だけを見ていても、新しい案は出てきそうになかった。
    宮本さんは、目の前の問題から「営業」「評価制度」「2年目社員」という固有の条件をいったん外してみた。

    同じ構造を持つ問題は、別の世界ではどのように解かれているのだろうか。

    問いを、次のように置き換えた。

    目先の成果を求められる組織に、将来の成果につながる育成行動を継続させるには、どのような役割と評価の仕組みが必要か。

    営業部門、評価制度、2年目社員という固有の言葉を外すと、似た構造を持つ領域が見えてくる。研究開発では、現在の利益を生む事業と、将来の技術への投資を両立させなければならない。投資の世界にも、短期的な成果を見る案件と、時間をかけて育てる案件がある。

    そこで木村さんが言った。

    「プロスポーツはどうでしょう」

    中川部長が、少し身を乗り出した。営業時代から野球が好きで、若手選手が一軍に定着するまでの過程をよく見ていた。「一軍の監督に、今シーズンの優勝と、5年後の選手育成を、同じ基準で同時に求めるのは無理があるかもしれないな」

    多くのプロスポーツでは、目の前の試合に勝つことと、将来の選手を育てることを、まったく同じ役割だけに背負わせてはいない。
    一軍の監督やコーチは、現在の戦力で結果を出す責任を負う。一方、育成組織では、数年後に活躍する選手を育てるため、短期の勝敗とは異なる基準で成長を見ている。
    もちろん、スポーツの仕組みを、そのまま企業へ持ち込むことはできない。

    それでも、

    短期的な成果を担う役割と、長期的な育成を設計する役割を分ける

    という原理は借りられる。
    三人は、営業管理職から育成責任をすべて取り上げるのではなく、管理職の業績責任は残したうえで、若手の成長目標と経験設計を支援する「育成責任者」を置く案を考えた。

    最終的に、試す対策を三つに絞った。

    • 業績評価と育成面談を分離する

    • 仕事を任せる前に、本人の成長目標を設定する

    • 若手育成を支援する責任者を置く

    対策の新しさは、奇抜なアイデアから生まれたのではない。自分たちの課題を、別の領域にも存在する構造として捉え直したことで生まれた。

    いきなり全社制度を変えない

    「それでは制度改定の案をまとめて、来年度から全営業部へ導入しよう」

    中川部長が言った。

    木村さんが、資料から顔を上げた。

    「少し待ってください。この仕組みが、本当に若手の成長につながるかは、まだ分かっていません」

    「しかし、いつまでも検討していても始まらないだろう」

    「ですから、始めましょう。ただし、最初から全部ではなく」

    木村さんの口調は穏やかだったが、退職者面談で聞いた言葉を、また別の社員から聞くことだけは避けたかった。

    話し合いの結果、まずは営業第1課だけで、3か月間試すことにした。対象は、管理職2名と2年目社員8名。新しいシステムは導入せず、既存の面談シートを修正し、人事担当者が運用を支援する。

    「3か月で、離職率が変わるのか」

    「離職率だけでは判断できません」

    木村さんが答えた。

    「この対策が機能しているのであれば、離職率が変わる前に、管理職の行動や、若手が経験する仕事の内容に変化が起きるはずです」

    確認することも、事前に決めた。育成面談が予定どおり実施されたか。本人の成長目標に沿った仕事が任されたか。若手本人の成長実感に変化があったか。

    3か月後、人事部の三人は、再び会議室に集まった。

    育成面談は、ほぼ予定どおり実施されていた。本人の成長目標に沿った仕事を任された社員も増え、若手の成長実感は、試行前より高くなっていた。

    自由記述欄には、ある2年目社員の言葉があった。

    数字の話だけではなく、次に何をできるようになりたいかを、初めて上司と話せました。

    木村さんは、その一文を読み上げた。退職者面談で聞いた「自分が成長しているのかを話す機会がなかった」という言葉に、わずかではあるが、別の答えを返せたような気がした。

    中川部長が言った。

    「では、成功と考えていいのか」

    「方向は悪くないと思います。ただ、管理職によって面談の質にかなり差があります」

    宮本さんは、別の資料を開いた。

    「面談時間が増えたことで、管理職の負担も大きくなっています。このまま全体へ広げると、形だけの面談が増えるかもしれません」

    対策は、成功か失敗かの二択ではなかった。残すべき部分と、修正すべき部分が見えたのである。
    三人は、仕組みの骨格は残すことにした。その一方で、面談の進め方を簡略化し、管理職への支援を加えたうえで、もう一度試すことにした。
    全社へ導入してから問題に気づくより、小さく試した段階で分かった方がよい。実行とは、決めた対策をやり切ることではない。対策を現実にぶつけ、何を残し、何を変えるかを判断することである。

    人事部の三人が見つけたもの

    このケースで、人事部の三人は、最初から正しい答えを知っていたわけではありません。むしろ、事実を確かめるたびに、何度も問いを変えていきました。

    「なぜ、若手社員は辞めるのか」という問いは、
    「なぜ、営業部門の2年目社員だけが辞めるのか」へ変わりました。

    「なぜ、管理職は若手を育てないのか」という問いは、
    「なぜ、管理職は短期業績を優先せざるを得ないのか」へ変わりました。

    さらに、問いは原因の特定だけにとどまりません。

    「どうすれば離職率を下げられるのか」から、
    「どうすれば、短期業績を担保しながら、若手が成長し、次の人を育てる組織をつくれるのか」へ。

    「何を追加すればよいか」から、
    「既存の役割や評価、面談の構造をどう変えればよいか」へ。

    「この対策は成功したか」という問いは、
    「何を残し、何を修正し、次にどこまで広げるか」へ変わりました。

    よい問題解決とは、最初に立てた問いへの答えを、一直線に探すことではありません。事実を得るたびに問いを具体化し、原因の見方を変え、取り組むべき課題を引き上げ、対策の選択肢を広げる。そして、実行によって得た新たな事実から、もう一度考え直すことです。

    私は、この一連の道筋を「思考のOS」と呼んでいます。
    思考のOSは、項目を順番に埋めるためのチェックリストではありません。

    何を問題として捉え、どこに原因を見いだし、何に取り組み、どの対策を選ぶのか。その判断を、前後の論理によってつなぐための、共通の思考基盤です。

    組織には、アイデアが足りないとは限りません。むしろ、会議では多くの場合、対策案が次々と出てきます。足りていないのは、その対策が、どの問題を解き、どの原因に働きかけ、どの状態を実現するためのものなのかを、組織で確かめる道筋です。

    問題が起きたとき、私たちはすぐに、「では、どうするか」と問いたくなります。しかし、その前に、一度だけ立ち止まる必要があります。

    私たちは今、何を問題としているのか。

    この問いを飛ばさないことが、遠回りに見えて、最も早く本質へ近づく方法なのだと思います。

     
     
    組織変革、新規事業開発、コンサルティングの経験をもとに、問題解決から価値創出までをつなぐ「思考のOS」を提唱。個の思考を組織の成果へ変える組織開発のための経営セッション、研修・伴走支援を行っています。

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