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『名医を探せ!』 〈あなただけの名医を探すための医師鑑定法 14のヒント〉  【AIは名医に勝てるのか?】


    医師で医療ライターの大村です。
    『名医を探せ!』 〈あなただけの名医を探すための医師鑑定法 14のヒント〉 という記事をnote上に公開しています。

    今回のコラムは、その有料記事に追加する予定の記事になります。
    暫くの間、このコラムは無料でお読みいただけます。ご意見、ご感想をいただければ幸いです。

    【コラム】AIは名医を超えるか? 診察室で出会った、恐ろしくも頼もしい「相棒」

    10年以上前、私は「良いドクターに出会うためのコツ」といった内容の本を出版したことがあります。当時はまだ、AIがこれほど社会に浸透するとは想像もしておらず、あくまで研究室の中の存在でした。
    ところが、どうでしょう。近年のAIの進化は凄まじく、医療の世界でも、医師の診断を助けるAIが次々と実用化されています。論文作成や研究の分野でも、AIはすでに欠かせないパートナーです。
    そこで、かつての本の著者として、ふと大きな疑問が湧きました。

    「もはや、AIは医師の代わりを務められるのではないか?」

    医師の頭の中をのぞいてみると医師が病気の診断に至るプロセスは、大きく二つの段階に分けられます。
    一つ目は「データの収集」です。患者さんの話を聞く「問診」に始まり、目で見て、聴診器を当て、体に触れるといった古典的な診察。そして、血液検査や心電図などの臨床検査。これらは今のところ、人間の医師が担う仕事です。

    そして二つ目が、集めたデータをもとに考える「鑑別診断」。これは、可能性のある病名をリストアップし、パズルのピースをはめるように、最も可能性の高い答えを絞り込んでいく作業です。必要であれば検査を追加し、薬を投与してその反応を見ることもあります。

    この「鑑別診断」の段階で、医師の能力、つまり知識と経験の差が大きく表れます。「名医」と呼ばれる医師は、引き出しが多く、幅広い知識の網を広げられるため、珍しい病気や見落としがちなサインに気づきやすいのです。
    しかし、その知識量と記憶力において、人間はAIに勝てるのでしょうか。考えれば考えるほど、「名医でもAIに勝てないのかもしれない」という結論に行き着きます。認めたくはありませんが、これは残酷な事実かもしれません。

    AIに一本取られた私の経験


    先日、まさにこの現実を突きつけられる出来事がありました。
    「ものが二重に見える」と訴える患者さんの診察を頼まれた時のことです。眼球の動きを観察すると、確かに片方の目が内側に動きづらくなっています。横を見ようとすると視線がずれ、ものが二重に見えてしまうのです。
    これは目を内側に向ける筋肉の麻痺であり、「動眼神経麻痺」が最も疑われます。しかし、動眼神経麻痺の場合、まぶたが下がってくる「眼瞼下垂(がんけんかすい)」という症状を伴うことが多いのですが、この患者さんにはそれがありません。診断を決定するには、どうにも違和感が残ります。
    「何か見落としているかもしれない…」
    そう思った私は、試しにAIを使ってみることにしました。診察で得られた所見を文字にしてGeminiに入力し、考えられる病名をリストアップさせたのです。
    すると、AIは「MLF症候群」という可能性を提示してきました。
    これは脳の中心部(脳幹)の障害で起こる病気で、症状としてはまさにピッタリです。ただ、血栓などが原因で急に発症することが多く、この患者さんの経過とは少しだけ合いませんでした。
    しかし、AIに示唆され、改めてこの病気を念頭に置いて考えてみると、すべてのつじつまが合いました。おそらく、教科書をじっくり復習すれば、私自身もたどり着けたはずの診断です。ですが、遭遇する頻度が少ないため、私の頭の中のリストからは抜け落ちていました。
    もしAIに尋ねていなければ、見逃してしまったかもしれません。そう思うと、AIに心から感謝しました。
    もちろん、AIの答えを100%鵜呑みにするのは危険です。最終的な判断は、患者さんを目の前にした医師が下すべきでしょう。しかし、AIは私たちの知識の抜けや漏れを補い、診断の精度を格段に上げてくれる、非常に頼もしい「相棒」なのだと確信した出来事でした。

    これからの「名医」の条件には、「適切にAIを使いこなす能力」が追加されるべきなのかもしれません。


     
     
    人生後半、まだ物語の途中 医師を辞し、馬に乗り、文章を書く 遅咲きのライダーにしてライター 名前はペンネームです 人生の終盤という未踏地を、実録とエッセイで歩く 人間の弱さと可笑しさを、少しだけ解剖してみる

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