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Photo bylisa500ml

エッセイ|風は止むとわかっていても|風が吹く

    湖凪リツ



    風が吹くと、途端に落ち着かなくなってしまう。


    べつに、髪型が乱れるとか、服がはためくとか、そういうことはあまり気にならない。
    鏡を見て整え直せばいいし、多少ぐしゃぐしゃになっても困ることもない。


    けれど、風の音だけはどうしてもだめだ。


    びゅうびゅう、ときにはごうごうと、どこかで何かを痛めつけているような音を聞くと、肋骨の奥がひやりとする。
    心臓が、自分の意思とは関係のないリズムで、嫌な鳴り方をし始める。

    気づくと呼吸が浅くなり、少しだけ速くなっている。
    意識してゆっくり吸って、吐いて、と整えないと、足元からどこかへ引きずり込まれていきそうになる。


    こういう感覚は、昔から変わらない。
    小さい頃からずっと、強い風が怖かった。


    きっかけがあったのかと考えてみても、はっきりと思い当たることはない。
    怖い思いをした記憶も、特別な出来事も浮かんでこない。

    ただ気がついたときには、風の音に身を固くするようになっていた。


    幼い頃、夜に風が強く吹く日があると、布団を頭まで引き上げていた。
    外で鳴る音を少しでも遠ざけるように、耳をふさぐみたいにして、ぎゅっと体を丸める。
    そして、「明日には風も止んでいるはず」と心の中で繰り返しながら、固く瞼を閉じた。

    そうしているうちに、いつの間にか眠って、朝になる。
    本当に風が止んでいる日もあれば、まだ少しだけ残っている日もあったけれど、明るさの中では、夜ほどの恐ろしさは感じなかった。


    大人になった今でも、強い風が怖いことに変わりはない。
    窓の外で音が荒くなると、無意識にそちらへ意識が向いてしまうし、胸の奥がざわつき始める。

    ただ、昔みたいに布団をかぶることはなくなった。
    その代わりに、ゆっくり息を整えながら、「そのうち止むだろう」と、同じような言葉を、少し形を変えて繰り返している。


    風はいつも、しばらくすれば通り過ぎていく。
    それはわかっているのに、吹き始めた瞬間のあの落ち着かなさだけは、どうしても消えてくれない。

    たぶんこれからも、強い風が怖いままなのだと思う。
    それでも、自分を落ち着かせて、やり過ごす方法は、少しずつ覚えてきたのかもしれない。






    小牧幸助様のシロクマ文芸部「風が吹く」に参加させていただきました。
    よろしくお願いいたします。





     
     
     
    昨日と今日と。 日記、短歌、写真など。

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