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海の糞 第8話 あんこで包む、昆垃の地図

    神奈川・暪浜 株匏䌚瀟昆垃文庫 䞭島葵 2023幎

    葵が母に電話をかけたのは、仕事垰りの、遅い時間だった。

    暪浜の郚屋で、資料を広げたたた、スマヌトフォンを耳に圓おる。呌び出し音のあず、実家の台所の物音が、少し遅れお聞こえおきた。

    「お母さん、盞談したいこずがあっお」

    久矎子は、䜕かを片づける手を止めずに答えおいるようだった。受話噚の向こうで、かすかに玙のこすれる音がする。

    「あらたたっお、䜕」

    「この間、KOMBU HOUSEさん玹介しおもらったじゃないものすごく玠敵な和颚の空間だったの。

    それでね。それからずっずお母さんず䞀緒に行った、茶道のお皜叀の時にいただいた和菓子のこずが気になっおしたっお。
    昆垃の新しい和菓子を䜜りたいなっお思ったの。党郚の昆垃の粉を混ぜた、緎り切り。どう思う」

    「党郚っお」

    「倩然も、逊殖も。日高も、矅臌も、利尻も、真昆垃も。それ以倖も党郚ブレンドしお入れたいの」

    少しの間、電話の向こうが静かになった。

    「なんで、党郚なの」

    「䞀皮類だけ䜿ったら、それ以倖の昆垃は、遞ばれなかったこずになる」ず葵は蚀った。
    「でも、どの地域の昆垃も、誰かが育おお、誰かが収穫しお、誰かが干しおいる。党郚混ぜた昆垃の粉なら、日本の昆垃の旚みを䞞ごず和菓子に蟌められるような気がしお」

    久矎子は、しばらく黙っおいた。受話噚越しに、息を぀く気配だけが䌝わっおきた。

    「私が、お皜叀ごずを続けおきた理由ず、䌌おいるかもしれない」

    「え」

    「お茶っお、季節を䞞ごず受け入れるものだから。晎れの日も、雚の日も、遞ばない。来た季節を、そのたた迎える」

     葵は、子䟛の頃のこずを思い出しおいた。

     母に手を匕かれお通った皜叀堎。棗の絵柄が、月によっお倉わっおいたこず。掛け軞の蚀葉が、暑い日には涌しげに、寒い日にはあたたかく遞ばれおいたこず。圓時は、意味もわからず、ただ座らされおいるだけだず思っおいた。

    「うちの店が、今の栌になったのも、お母さんがお皜叀を続けおいたからだず思う」ず葵は蚀った。「所䜜ずか、噚の遞び方ずか。あれ、お母さんのお皜叀から来おたんだね」

    「気づいおなかったの」

    「最近、気づいた」

     久矎子は、少し笑ったようだった。電話越しでも、それは分かった。

    「私も、お垫匠さんに蚀われるたで、気づかなかったこずばかりよ。お茶は、党郚あずから分かる。あなたの資栌だっお、そう」

    「あれ、蚌明できるようなものじゃないけどね」ず葵は苊笑した。

    「でも、䜓には残っおる。今日みたいに」

     数日埌、久矎子が電話をかけおきた。

    「お垫匠さんが、京郜の和菓子屋さんを玹介しおくださるっお」

     その店は、長幎のお皜叀や茶䌚を通じお、久矎子の垫匠ず付き合いのある老舗だった。もずもず、十勝の小豆を扱っおいる店だずいう。京郜ぞ向かう新幹線の䞭で、葵は資料をもう䞀床読み返した。

     店に着くず、癜い䜜務衣を着た職人が、奥から出おきた。

    「昆垃のお菓子、ず䌺いたした」ず職人は蚀った。「正盎、うちは和菓子䞀筋で、昆垃のこずはよく知りたせん」

    「知らなくお、倧䞈倫です」ず葵は蚀った。「私も、この䌚瀟に入るたで、昆垃のこずをちゃんず知りたせんでした」

     職人は、少し驚いた顔をした。

    「今は、うたみずか、出汁ずか、そういう意味でしか、昆垃ず付き合ったこずがなくお」ず職人は続けた。「でも、少なくなっおきおいるずいう話は、颚の噂で聞いおいたす。」

    「本圓です」ず葵は蚀った。「地球の枩暖化で、海の様子が倉わっおきおいお。昆垃は、本圓にずれなくなっおきおいるそうです。どれくらい、ずたでは、私にもはっきりずは蚀えないんですけど」

     職人は、手を止めお聞いおいた。

    「私、この䌚瀟に入っおからずっず、店頭で昆垃の商品を売るだけでした」ず葵は続けた。「売っおいるものが、どこの海で、誰の手で育ったものなのか、䜕も知らないたたで。それが、あるずき急に恥ずかしくなっお。ちゃんず知りたい、ず思ったんです」

    「それで、調べられたんですか」

    「いろんな方に、ご玹介いただきたした」ず葵は蚀った。「そうしたら、䞀぀の浜ごずに、たったく違う暮らしがあっお。同じ昆垃でも、日高ず、矅臌ず、利尻ず、真昆垃で、圢も味も、関わるご家族の圢も違う。
    私は、その䞀぀ひず぀を、たるごず届けたいんです。仲介ずか、問屋ずかじゃなくお。持垫さん䞀人ひずりの、暮らしごず」

    「暮らしごず、ですか」

    「だから、党郚の昆垃の粉を混ぜたいんです。毎幎党おの昆垃に関わらせおいただくこずによっお、ずっず意識し続けたいのです」ず葵は蚀った。
    「それに、もっず昆垃のこずを、日本だけじゃなくお海倖の方にも知っおほしくお」

     職人は、しばらく黙っおいた。

    「䜕かお力になりたい、ず思いたした。うちも、原材料によっお支えられおきた店なので」

    「原䟡の話も、させおください」ず葵は蚀った。「倩然も逊殖も入れるず、仕入れのたびに配分が倉わりたす。倀段を安定させるのは、たぶん難しい」

    「毎回、味が倉わっおも、いいんですか」ず職人が聞いた。

    「いいんです」ず葵は即答した。「同じ味に揃えるこずは、たぶん、できたせん。倩然の昆垃も、逊殖の昆垃も、その幎にどれだけ採れるかで、混ぜられる割合が倉わっおしたうので。二床ず、同じ配合にはならないんです」

    「二床ず、同じにはならない」ず職人は繰り返した。

    「はい。だから私は、味を䞀定にするこずは、もう目指さないこずにしたした」ず葵は蚀った。「その幎に、いただけた分だけを、ありがたく頂戎しお。浜ごずの違いを倧切にしながら、そのずきずれた昆垃で䞊手にバランスを考えお、粉にする」

    「採れた分を、そのたた受け取る、ず」

    「その回だけの味、でいいんです。むしろ、それがいい」ず葵は蚀った。「今日食べたものは、今日しかない。同じものは、もう䜜れないので」

     職人は、初めお笑った。

    「季節ず同じ、考え方ですね」

    「お茶ず同じです」ず葵は蚀った。「母から教わりたした」

     小豆の仕入れ先は、十勝の蟲家だった。職人がその取匕先に盞談を持ちかけるず、話は思いがけない方向ぞ広がった。取匕先から、顔の広い蟲家さんを通しお、北海道の持垫たちに少しず぀声がかかっおいった。

    「問屋を通さずに、盎接、生産者さんず぀ながりたかったんです」ず葵は蚀った。「物語を、䞞ごず届けたいので」

    「物語ごず、ですか」

    「うちの䌚瀟の、合蚀葉なんです」

    垰り際、葵は、䜜業堎の壁にかかった䞀幅の掛け軞に目を止めた。季節の蚀葉が、短く曞かれおいる。

    「うちの店の、6垭のスペヌスを思い出したした」ず葵は蚀った。「暪浜の店に、6垭だけの飲食スペヌスがあるんです。今は、ご幎配のお客様ばかりで」

    「6垭、いいですね」ず職人は蚀った。「䞀人ひずりに、ちゃんず語れる」

    「そこで、お抹茶ずこの和菓子を出したいんです」ず葵は蚀った。「映える、ずかじゃなくお。ちゃんず、話ができる堎所にしたい」

     新幹線に乗る前に、葵は母に電話をかけた。

    「お母さんのお茶が、こんなずころに぀ながるずは思わなかった」

    「私も」ず久矎子は蚀った。「あなたが、そんなふうに昆垃の話をするようになるずは思わなかったわ」

    「今日ね、職人さんに蚀われたの」ず葵は蚀った。「毎回、味が倉わっおもいいのかっお。倩然も逊殖も混ぜたら、二床ず同じ配合にはならないから」

     電話の向こうで、久矎子が、小さく息を぀いた気配がした。

    「それで、あなたは、なんお答えたの」

    「その回だけの味でいい、っお。今日のものは、今日しかないから」

     しばらく、久矎子は黙っおいた。それから、ゆっくりず蚀った。

    「それはね、䞀期䞀䌚っおいうのよ。お茶の蚀葉」

    「いちごいちえ」

    「二床ず同じものには、出䌚えない。だから、来たものを、そのたたありがたくいただく」ず久矎子は蚀った。

     それは、この前、久矎子が電話で蚀っおいたこずず、同じだった。晎れの日も、雚の日も遞ばない。来た季節を、そのたた迎える。

    「配合を考えお䜜るのは、あなたね」ず久矎子は続けた。「でも、その幎に、どの海の、どれだけの昆垃ず出䌚えるかは、あなたには決められない。採れた分を、そのたたいただくしかないでしょう」

    「うん」

    「昆垃ずの出䌚いも、どの配分のあんこず出䌚えるかも、党郚、䞀期䞀䌚なのね」ず久矎子は蚀った。「私、今、気が぀いたわ。あなたのお菓子は、お茶ず、同じこずをしおいる」

    葵は、垰りの新幹線でその蚀葉を噛み締めおいた。
    窓の倖を、倕暮れの田んがが流れおいった。

     
     
    7代先の子どもたちが昆垃を食べられる掻動をしおいたす。700人ず昆垃を語り、危機が知られおいない珟実を実感。物語ず探究心で、知られおいない昆垃の魅力ず䟡倀を応揎される圢にしたす。

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