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木の子どもたち 第23話「森と川と海と、昆布」

    その日、ユイは1日じゅう、考えこんでいた。

    大木の根の上に座って、白い鳥の羽をなでながら、ときどき、ひとりごとを言っている。カントとノカが下から見上げても、いつものように旅の話をしてくれない。

    「ユイ、どうしたの?」とノカが聞いた。

    ユイは、はっとして、ふたりを見た。

    「あのね。さっきから、頭の中で、何かがつながりそうなんだ」

    ──────────

    ユイは、根の上から飛び降りて、カントの手のひらに乗った。

    「わたしね、ずっと旅をして、いろんな森と、川と、海を見てきた。森が元気だと、川が澄んで、海が豊かになる。それは、どこへ行っても同じだった」

    「うん」とカントはうなずいた。

    「でも、ここに帰ってきたら、みんなが昆布で大さわぎしてた。昆布で糸が作れる。昆布で色が染められる。昆布を、人が食べてる」

    ユイは、指を折りながら数えた。

    「昆布は、海でとれる。海は、川がつくる。川は、森から流れる。……ねえ、わかる?」

    ユイの目が、ぱっと開いた。

    「森と、川と、海と——昆布だ! ぜんぶ、一本の糸でつながってる!」

    ──────────

    その声に、工房じゅうの小人たちが、穴から顔を出した。

    「どういうこと?」とニナが下りてきた。

    ユイは、息を切らして話した。

    「いい? 森を守ると、川がきれいになる。川がきれいだと、海が豊かになる。海が豊かだと、昆布が育つ。その昆布が、糸になって、色になって、人の食べ物になる。——わたしたちが森でやってきたことと、海の恵みは、ぜんぶつながってるんだよ」

    ノアが、根の上で腕を組んだ。

    「俺たちは、ずっと森の中だけで仕事をしてきた。でも、その糸が向かう先は、海までつながってたってことか」

    「そう」とユイは大きくうなずいた。「だからね、わたし、決めた」

    ──────────

    ユイは、白い鳥の背に手をかけて、みんなを見回した。

    「昆布はね、海から船に乗って、遠くの町まで運ばれていくの。北の海から、南の都まで。長い長い、昆布の道があるんだよ」

    「昆布の道……」とカントがつぶやいた。

    「その道を、たどってみたいの」とユイは言った。「みんなを連れて。昆布が運ばれていく道に沿って、いろんな土地へ行く。そこにも、森があって、川があって、海がある。そこにも、森を守る人がいる」

    ユイの声が、だんだん熱をおびていった。

    「行った先で、その土地の木から糸を作るの。その土地の草や実で、色を染めるの。土地ごとに、ちがう色、ちがう糸ができる。それを、その土地の人に、分けてあげる。——森と川と海はひとつだよって、糸と布で、伝えていくの」

    ──────────

    しばらく、だれも何も言わなかった。

    やがて、レンが静かに口を開いた。

    「……おもしろい。土地がちがえば、木もちがう。紙のすき方も、変えなきゃいけない」

    「染めも、その土地の草を一から試すことになる」とラムが言った。袖の染みを見て、少し笑った。「やりがいがありそうだ」

    「裂き方も、土地の紙に合わせて変える」とサラがうなずいた。

    ルツが、リディアが、ベンが、ニナが、それぞれの顔を見合わせて、うなずいていく。

    ノアが、最後に言った。

    「全員で行くわけにはいかない。ここの森も、守らなきゃならないからな。だが——行きたい者を、選んで送り出そう。それぞれの仕事を、よその土地にも根づかせるために」

    ──────────

    カントは、手のひらのユイを見つめた。

    「ぼくも、行けるの?」

    ユイは、首をかしげた。

    「カントは、まだここの森の子だよ。お父さんと、お母さんと、この森で覚えることが、たくさんある」

    それから、にっこり笑った。

    「でも、いつか。カントが大きくなって、それでも森を守る心を忘れていなかったら——そのときは、いっしょに行こう。昆布の道の、ずっと先まで」

    カントは、ぎゅっとうなずいた。

    ノカが、自分の茜色の帽子を押さえて言った。

    「お土産話、いっぱい持って帰ってきてね」

    「もちろん」とユイは言った。

    ──────────

    その夜、大木のいちばん高い穴で、小さな灯りがいつまでも揺れていた。

    旅の支度の灯りだ。

    森と、川と、海と、昆布。一本につながったその糸を、こんどは遠くの土地へ。

    カントは家の窓から、大木の灯りを見ていた。

    明日から、また何かが始まる。

    自分の住むこの森が、もっと大きな何かの、はじまりの場所なのだと、カントは思った。

    (第一部・完 ── 「全国編」へつづく)

     
     
    7代先の子どもたちが昆布を食べられる活動をしています。700人と昆布を語り、危機が知られていない現実を実感。物語と探究心で、知られていない昆布の魅力と価値を応援される形にします。

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