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短編小説|死神が彼女を待つ理由

     待ち合わせ場所に彼女が来た。僕に殺されるためだった。
    「もういいんですね?」と僕は問う。
    「ええ、最後の子も引き取り手が決まったの」と彼女は答える。
     海が見える公園のベンチに僕らは座った。
     老齢の彼女は保護猫の里親を探す小さな非営利団体を営んでいた。僕と初めて出会ったとき、彼女は言った。
    「いま保護してる子たちの里親が見つかるまで待って」
     僕も鬼ではない。人道的な死神だから、待つことにした。

     最後に引き取られたソラは、目が見えなかった。
    「でもね、ふつうの猫と何も変わりないの」と彼女は言った。
     見えないぶん、音や香りに敏感だけれど、やんちゃに遊んで、よく食べる。それでも、なかなか里親は見つからなかった。
     本来、彼女の寿命は九か月前に尽きるはずだった。死期を延ばせるのは十か月までだ。過ぎれば天国へは行けない規則だ。
    「このままじゃ地獄行きになっちゃいますよ」と僕は言った。
    「構わない。ソラのためなら」と彼女は言った。

     顔が隠れる黒いローブを着ていても、二月の海風は冷たい。
     僕は一錠の透明な薬を彼女の手のひらに置く。
    「眠るように終わります」と僕は言う。
    「てっきり鎌でズバンとやられるのかと思ってた」
    「令和ですからね」
     僕はミネラルウォーターを渡す。
    「ソラの里親、良い人そうだった」
     この期に及んで、彼女は自分より猫を想っている。
     彼女は薬を飲む。
     潮風が香る。
     僕の肩へ寄りかかるように倒れた彼女の体を、そっと抱きしめた。
     ソラにも、このきれいな魂は見えていただろう。
     十か月を過ぎなくてよかった。

     家に帰る。六畳一間の古いアパートだ。
     鎌でズバンとやっていた頃は、人間界に住むなどけしからんとされていたが、いまは令和である。
     黒いローブをハンガーにかける。
     洗面所の鏡を見る。
     人の姿だが、お世辞にも人相が良いとは言えない。
     居間へ戻り、僕は食器棚からキャットフードを取り出す。
     すぐに小さな影が近寄ってくる。
     たしかに、音と香りに敏感だ。



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