
砂の世界で
「……もう、朝か」
そう思って目を開けた。
最近、眠りが浅い。そんなことをぼんやり考えながら、体を起こそうとして――違和感に気づいた。
背中にあるはずのベッドの感触がない。
代わりに、ざらりとしたものが触れている。
ゆっくりと身を起こす。
私は、砂の上に寝ていた。
「……え?」
声が少しだけ遅れて出る。
手をついた砂は、思っていたより柔らかくて、少し温かい。
顔を上げる。
空には、星がいくつも浮かんでいた。
丸じゃない。どれも、いびつな星の形をしている。
手に付いた砂を払おうとして――止まる。
手の色が違う。
紫色の皮膚に、無数の棘が生えている。
「……っ」
指先が棘に触れて、小さく痛みが走った。
そこでようやく、完全に目が覚める。
静かな不安が、遅れて広がっていく。
周りを見渡した。
淡いピンク色の砂の上を、何かが走っている。
犬に見えた。
けれど、違う。
よく見ると、それは無数の細い帯――リボンのようなものでできていた。
走るたびにほどけ、風に散りかけては、また犬の形に戻る。
音は、ほとんどしない。
ただ、形だけがそこにある。
立ち上がろうとした、そのとき。
手のひらに、軽い感触が落ちてきた。
白い花だった。
そう思った瞬間、花はゆっくりとほどけ、鳥の形になる。
薄い花弁が羽のように広がる。
まるで妖精のような美しさ。
息をのむ間もなく、色が抜けていく。
枯れる、というより――消えていく。
指先に残った重さも、温度も、すぐにほどけて、砂の上へ落ちた。
それは、風に触れた途端、細かく崩れて消えた。
一瞬の出来事だった。
「……なにこれ、夢?」
小さく呟く。
心臓の音だけが、やけに大きい。
どく、どく、と、体の内側で響いている。
もう一度、周りを見る。
「やあ」
背後から、声がした。
振り返る。
そこにいたのは――やはり、見たことのない存在だった。
けれど、なぜか少しだけ、懐かしい気がした。