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芋出し画像

゚ミリヌのパレット

    クヌルビュヌティ

    わたしの職堎には、゚ミリヌずいう女性がいる。
    圌女ずの出䌚いは、五幎前。
    わたしが今の職堎ぞ移ったずきのこず。

    圌女は、すっきりずした现身でロングの黒髪ストレヌト。
    わたしは女性のた぀毛にうるさいが、髪の色艶にもうるさい。

    ゚ミリヌの髪は、手入れの行き届いた艶のある矎髪だった。
    圌女が動くたびに揺れる髪は、たるでシャンプヌのCMのようだった。

    “クヌルビュヌティ”

    それが、゚ミリヌの第䞀印象だった。

    新しく倉わっおきたこの職堎は、実に緊匵感に満ちおいた。
    以前いた職堎ずは、雰囲気が党く違っおいた。

    着任初日、早々にあるポゞションを任された。

    ・・・噓でしょ
    内心そう思いながらも、できないずは蚀えない。
    前にいた職堎ずは、勝手が違う。それでもやるしかなかった。

    䜕だろう。この異様なたでの緊匵感。
    たるで、実技詊隓を受けおいるようだった。

    ゚ミリヌは、わたしの心の動揺を芋抜いたのだろう。

    圌女は、わたしの隣からそっず枩かくお柔らかい蚀葉をかけおくれた。
    匵り詰めた雰囲気ず鋭い県差しの間を朜り抜けお。
    圌女の説明は、簡朔明瞭でわかりやすかった。

    そしお、ちょこちょこず手を差し䌞べおくれた。
    匵り詰めたこの空気の䞭で、゚ミリヌだけは違う色を纏っおいた。

    数日埌、圌女は半幎前からこの緊匵感の䞭を生きおいるこずを知り、わたしは思った。

    い぀も隣に居おくれるこの人に぀いおいこう、ず。


    暫くしお、わたしもなんずなくその堎に受け入れられたような気がし始めた。

    緊匵感は残っおいたものの、少しず぀空気が倉わっおいった。

    背埌から飛んでくるトゲトゲずした蚀葉も、ほんの少し䞞みを垯びおきたように感じ始めた。
    業務倖の䌚話も増えたし、笑顔も垣間芋れるようになった。
    話しおみれば、決しお悪い人たちではないこずはわかったけれど、それでもただ入ったばかりのわたしは怯えおいた。
    この歳になっおも、なかなか怯えおいた。

    ゚ミリヌは、そんなわたしの様子をきっずわかっおいたのだろう。

    時折、緊匵をほどくような優しいトヌンで声を掛けおくれた。

    ほんの䞀蚀だったり、
    䜕気ない䌚話だったり。

    けれど、その存圚は倧きかった。

    わたしの呚りには必ず人の孀独に気づける人が珟れる。
    ゚ミリヌもたた、そんな色を持぀人だった。

    もし、あの時゚ミリヌがいなかったら。
    わたしは、いたこの職堎にはいない。


    わたしが着任しお半幎皋経った頃、
    新しい方が入るず、再びあの緊匵感が戻っおきた。

    新しく来た"ちいかわさん"は、わたしよりも小柄で物腰も柔らか、そしお芋るからに繊现そうだった。

    この緊匵感に耐えられるだろうか・・・
    わたしは、この時の圌女の気持ちが痛いほどわかった。

    時折、目に涙を浮かばせたあの日々の蚘憶が鮮明に蘇える。
    そしお、゚ミリヌが差し出しおくれた優しい手ず蚀葉を思い出すこずずなる。

    わたしは、圌女の姿勢に倣う。
    それが正しいあり方だず思うから。


    䌚話を重ねおいくうちに、゚ミリヌのプラむベヌトが少し芋え隠れするようになった。

    ゚ミリヌの幎霢は、わたしの䞀歳幎䞋。
    ふたりの嚘さんがいるママ。
    わたしの子どもず同じぐらい。
    食べ物の奜みもどこか䌌おいる。
    そしお、Googleナビで迷子になる

    芪近感が䞀気に増した。
    偶然だが、わたしの地元のこずもよく知っおいたし、
    地元の方蚀なんかの話もしおくれたり、
    ゚ミリヌは、あの堎の空気を倉えられるスゎ腕の持ち䞻だった。

    そしお、日に日にうっすらず芋え隠れする新たな色。
    わたしは、芋぀けおしたったかもしれない。

    わたしの呚りには、なぜか䞍思議な魅力を持぀人が珟れる。
    ゚ミリヌもたた、そんな色を持぀人のような気がした。

    わたしはただ知らない、この埌に、決定的な出来事が埅っおいるなんお。


    倩然発芚

    ある日、職堎のお食事䌚が開かれるこずになり、
    わたしたちは、矎味しいカニ料理のお店ぞ連れお行っお頂いた。
    この職堎でも、コロナ犍の圱響で数幎ぶりずなったお食事䌚だった暡様。

    案内された個宀には、テヌブル垭が二぀に分かれおいた。
    わたしは、゚ミリヌず同じテヌブルに座った。
    もちろん、ちいかわさんも䞀緒に。

    向こう偎のテヌブル垭は、慣れ芪しんだメンバヌが集たったのだろう。
    既に䌚話が盛り䞊がっおいた。

    こちらのテヌブルは、皆が少しず぀緊匵しおいる。
    皆の緊匵が重なり合っお、ぎこちなさが挂っおいた。
    誰か䜕か話題をください。ず心の䞭で思いながら。
    皆がそこに笑顔を装い静かに座っおいた。

    䌚食が始たり、わたしはひずり探偵ごっこを始めた。
    ゚ミリヌのクヌルビュヌティの奥に隠されたあの色の蚌拠を掎みたい。
    わたしは密かに、゚ミリヌに"ある疑惑"を抱いおいた。

    そしお、この埌わたしは、確かな蚌拠を掎むこずになる。

    しばらくしお、職堎の責任者の方が䜕気なく尋ねた。

    「゚ミリヌさんは、どんな食べ物が奜きなんですか」

    するず、゚ミリヌは䜕の迷いも躊躇いもなく即答した。

    「氎分です」

    ・・・

    氎分

    䞀瞬、時が止たった。
    こちら偎のテヌブルだけに起こったタむムストップ

    焌肉でもない。
    お寿叞でもない。
    ラヌメンでもない。

    氎分だった。

    ゚ミリヌは、いたっお真剣だった。
    どうやら冗談ではないらしい。

    わたしは、掎んだ。決定的蚌拠を。しかも、蚌人は耇数いる。
    やはり、゚ミリヌは倩然だった。

    だが、埌になっお思う。
    これはただ序章だったのだず。



    それは、゚ミリヌが雑談の䞭で、ある出来事を話しおくれた日のこず。

    ゚ミリヌは家でお湯を沞かそうず、電気ケトルに氎を入れた。
    そしお、電気ケトルのスむッチを抌した。

    完璧だった。
    あずは、お湯が沞くのを埅぀だけだった。

    ・・・

    「あれなんだか遅いなぁ  」
    い぀たで経っおも、あの「カシッ」ずいう終了音が聞こえない。

    䞍思議に思った゚ミリヌは、キッチンぞ戻った。

    ない。
    ケトルがない。
    電気ケトルが消えた。

    ここたで聞いた時点で、わたしの期埅倀はすでに最高朮だった。


    そしお、぀いに真実が明かされた。

    ゚ミリヌは、電気ケトルに氎を入れた。
    次に、電気ケトルをIHコンロの䞊に眮いた。
    そしお、電気ケトルのスむッチを入れた。

    ぀たり圌女は、
    電気ケトルをIHコンロの䞊に眮き、電気ケトル自身に頑匵っおもらおうずしおいたのである。

    可愛すぎる。これは反則だ。
    もう胞キュン案件じゃないか。

    わたしは確信した。
    ゚ミリヌは、やはり倩然だった。
    しかも、かなりの倧物だった。

    クヌルビュヌティの奥に隠されおいた色は、倩然ずいう色だった。

    ずりわけ、わたしの呚りには倩然さんが倚い。
    そしお、䞍思議なこずに、倩然さんはい぀も幞せを運んでくる。
    ゚ミリヌもたた、その特別な色を持぀人だった。


    こさるの衝撃

    ゚ミリヌのパレットは、どうやら単色ではない。
    わたしは、たたひず぀新しい色を芋぀けおしたった。

    ある日の雑談で、圌女は䌑日の過ごし方に぀いお話しおくれた。
    その時、わたしは初めお耳にする蚀葉に出䌚った。

    「こさる」

    こさる

    コサル

    子サル

    おさる🐒

    わたしの頭の䞭では、すでに子猿が螊り始めおいた。
    しかも、かなり楜しそうに。

    しかし、違った。
    ゚ミリヌの蚀う「こさる」は、おさるではなかった。
    スポヌツずは無瞁に生きおきたわたしの蟞曞に、その蚀葉が茉っおいないのも無理はない。

    どうやら「こさる」ずは、個人参加型フットサルのこずだった。


    ワヌプする人

    わたしは、「こさる」の衝撃ずずもに、゚ミリヌが本栌的なスポヌツ女子だずいうこずを知った。
    孊生時代は、ずっずハンドボヌルを続けおいたそうだ。

    ハンドボヌルっお、あれだ。
    球技なのに、時々栌闘技にも芋えるや぀。

    ・・・・なるほど。

    この話を聞いお、わたしの頭の䞭で新たに繋がったこずがあった。

    ゚ミリヌの、あの異垞なたでのフットワヌクの軜さだ。
    圌女のフットワヌクは、もう空を飛べるレベルで軜い。
    反射神経、瞬発力、そしお行動力。

    同䞖代ずは思えない。
    ずにかく、立ち䞊がりが早い。

    わたしが、「あ。行かなきゃ。」ず思った時には、もう゚ミリヌはそこにいる。

    ワヌプだ。

    あれは、もう瞬間移動である。
    もしかしたら゚ミリヌは、ドラえもんの四次元ポケットずどこでもドアたで持っおいるのかもしれない。



    それから時は流れ、職堎の空気は少しず぀゚ミリヌの色に染たっおいった。

    もうあの詊隓䌚堎のような空気はすっかり消えおいる。

    そしお、わたしはたた新たな色を芋぀けた。

    ゚ミリヌには、おそらく「キレッキレモヌド倉換オヌトセンサヌ」が搭茉されおいる。

    その切り替わりの速さは芋事なものだ。

    ほんわりずしおいるかず思えば、
    突然、別人のようにテキパキず仕事を片付け始める。

    わたしが「やらなきゃ」ず思った時には、
    すでに゚ミリヌは仕事を終えおいる。

    たたしおも、ワヌプである。

    そしお䜕より、圌女は姉埡肌の持ち䞻だった。
    わからないこずや困ったこずがあれば、みんなが゚ミリヌのもずぞ集たっおくる。
    それらの盞談は、軜々ず郚門の垣根を越えおもやっお来る。

    わたしは䜕床も思った。

    ああ、この人は倩然なのに、なぜか最埌にはみんなの拠り所になる人なんだな、ず。

    困った時には真っ先に声が掛かる。
    誀魔化さない。
    わからないこずは、そのたたにしない。
    気づけば、誰よりも勉匷しおいる。

    ゚ミリヌのパレットは、やはり単色ではない。
    わたしはもう、゚ミリヌのパレットにある色の数を数え切れなくなっおいた。
    けれど、どうやらそのパレットには、
    ただ芋぀けおいない色が残っおいるらしい。

    わたしの探偵ごっこはただただ続くようだ。


    琥珀色の才胜

    ゚ミリヌのパレットには、ただただ隠された色があった。

    それは、おそらく琥珀色である。

    コストコの箱入りモヒヌトや、コックをひねれば泚げる箱入りワむン。
    あの䟿利な箱型のお酒たちは、
    ゚ミリヌ家のキッチンカりンタヌに眮かれるず、
    気づいた時には、驚くほど軜くなっおいるらしい。

    瓶ビヌルは、ゞョッキずセットで泚文する。
    そしお、泚ぐのがずおも䞊手い。
    ゚ミリヌの隣に座るず、自分のグラスが空になるこずはない。
    気づけば、グラスはい぀も満たされおいる。

    たるで、わんこそば方匏のビヌルである。

    曎に圌女は、生ビヌルの味がサヌバヌによっお倉わるこずを知っおいる。
    わたしには正盎、その違いはよくわからない。
    しかし゚ミリヌは、その違いを語れる。
    しかも、日本酒もたっぷり飲めるし、これもたた語れる。

    驚くべきは、これだけ飲んでも二日酔い知らずだずいうこず。

      え

    ゚ミリヌは、かなりの酒豪だった。

    「氎分です。」この蚀葉がふいに蘇る。

    衝撃だらけだけれど、わたしが゚ミリヌの色を思い出す時、
    䞀番最初に浮かぶのは倩然色でも琥珀色ではない。

    あの日、匵り詰めた空気の䞭で、隣に立ち、人の孀独に気づいおくれた人の色だ。

    そしお、わたしはただ知らなかった。
    ゚ミリヌのパレットに、もうひず぀倧切な色が加わろうずしおいるこずを。


    ただ知らない新しい色

    優しさや明るさ、倩然な可愛らしさ。
    時々びっくりするほどキレッキレに動く頌もしさ。
    いろんな色が重なり合っお、圌女だけの玠敵な色を぀くっおいる。

    ゚ミリヌは、い぀だっおふたりの嚘さんぞの気遣いを倧切にしおいる。
    嚘さんたちは倧人に近づき、それぞれ手が離れおいく。
    目が届く堎所に居なくずも、心はずっず圌女たちから離れない。

    そんな゚ミリヌが、いた、目の前で新しい呜を育んでいる。
    もうすぐ゚ミリヌのパレットに、新しい色が加わろうずしおいる。
    再び、母になるずいう色だ。

    䞀歳しか違わない゚ミリヌのお腹が、日ごずに倧きくなっおいく。

    わたしたちの幎代になるず、新しい呜を授かるずいうこずが、
    どれほど尊く、そしお奇跡のようなこずなのかを、自然ず考えるようになる。

    倩然で、スポヌツ䞇胜で、酒豪で、姉埡肌。
    どれも確かに゚ミリヌの色だ。

    けれど、わたしにずっお゚ミリヌは、やはりあの日、匵り詰めた空気の䞭で隣に立ち、人の孀独に気づいおくれた人だ。

    いく぀もの色を持぀゚ミリヌのパレットには、いた、ただ誰も芋たこずのない新しい色が静かに加わろうずしおいる。

    その色が、どんな色なのかは、ただ誰にもわからない。

    いよいよ゚ミリヌが、月曜日から産䌑に入る。
    職堎のみんなの「いっおらっしゃい」ず、「元気に垰っおきおね」をたくさん抱えお。

    わたしの探偵ごっこは、どうやらただ終わりそうにない。

    きっず、産䌑から戻っおくる頃には、たた新しい色を増やしおいるのだろう。わたしの予想の斜め䞊をいく゚ピ゜ヌドを抱えお。

      だっお、゚ミリヌだから。


     
     
     
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