メインコンテンツへスキップ
見出し画像

五年前のトースト [ショートショート]

    食パンの袋を開けた瞬間、わずかに甘い香りが鼻をくすぐった。
    耳の部分は少し乾いていたけれど、中心はまだふわふわしている。
    私は包丁を使わず、手でちぎってトースターに入れた。

    なかなか焼きあがらない。
    リビングの棚に並ぶ写真立てのひとつに、ふと目が止まる。
    妹と私がベンチに座って、パンを食べて笑っている写真だった。
    旅行中に立ち寄った田舎のパン屋で、朝焼けの中買った。
    外はカリカリで、中は驚くほど柔らかかった。

    「パンが焼けました」と機械の声が告げた。
    現実に引き戻され、私は少し笑ってトーストを取り出す。
    バターを塗ると、すぐにじんわりと染み込んでいった。

    机の上には、古いデジカメが置かれていた。
    充電もされていないのに、なぜか触れたくなった。
    電源を入れると、液晶にいくつかの画像が浮かんだ。

    妹の笑顔、朝のパン屋、ベンチと紅葉した公園。
    撮影日は五年前の今日だった。
    私はその画面を見ながら、トーストをかじった。

    少し焦げていて、少し苦い。
    私はもう一枚、パンを焼くことにした。

     
     

    AK51

     
     
    普段はIT技術者をしています。

    あなたへのおすすめ