
箱の重さ [ショートショート]
押入れの奥に古びた段ボール箱があることを思い出したのは、ふとした拍子だった。
掃除をしていて、隅に落ちた髪の毛を拾おうとしゃがんだとき、視線の先にその箱が見えた。
取り出してみると、思ったよりも重たかった。ガムテープが少し剥がれていたので、開けてみた。中には、大学時代に使っていたノート、写真、古い手帳、それから壊れた目覚まし時計まで入っていた。
懐かしい、というよりも、忘れていたものたちだった。手帳の表紙には「2020年」とあって、ページをめくるたびに、自分の字が並んでいた。あのころ、私は毎日体重を記録していた。細かいグラム単位で、減った増えたと一喜一憂していた。
日記のようにしていたページには、「今日は何も食べずに済んだ」と書かれていた。その文を読みながら、私は箱の重さを測りたくなった。キッチンスケールに乗せると、ちょうど3.8キロあった。
3.8キロ分の私の記憶、焦り、不安、努力、それから後悔。その全部が、箱の中にきちんとしまわれていた。体重は、数字だけじゃなかった。感情や日々の景色まで、くっついていた。
私はその手帳を、一冊だけ抜き出して、他のものは箱に戻した。もう一度ガムテープを貼ると、箱は静かになった。今の私は、毎日体重を測ってはいないし、朝ごはんも食べるようになった。
手帳の最後のページには、「あと3キロ」と書いてあった。私はそのページを破り、くしゃくしゃにして捨てた。代わりに、空いたページにこう書いた。
「よくここまできた」