メインコンテンツへスキップ
見出し画像

日本最古の内湯。(500字)

     過日、宿のひとゝ一杯やっていると、泊まっている部屋の内湯が日本で最も古いであろうということであった。そんなことゝはつゆ識らず、温泉三昧していたのだが、改めてよく視ると趣があるようにも映る。とはいえ、こゝは当初から内湯にしようとしていたわけでなく、旧い空葺屋根を移築した際に、湯を部屋のなかにせざるを得なかったというのだ。つまり湯は偶然、内にはいったのである。

     湯の傍らには家人がむかいの茶屋から持ってきた『婦人畫報』があり、宿の主人が草した随筆が掲載されてあった。湯に浸かりながら斜め讀みしていると、主人の座右の書が伊藤肇の『十八史略の人物學』であったと書かれている。ちなみに書名は明かさぬが、私の座右の書も伊藤肇であった時分があった。今度は本が偶然、裡にはいってきたのである。

     千里同風。

     たとえ千里隔てられていても、同じ風が吹く。その便りは偶然、届くものなのであろう。男は一旦外にでたならば、ひとに惚れられ、ひとに惚れぬ人物になれと伊藤肇は云う。若かりしとき、私はうっかりこの一文に惚れてしまったのだけれども、何処からか風が吹いたのか、湯からあがると私の内からおおきなクシャミがこみあげてきた。

     
     
     

    KODO

     
     
    茶人。プノンペン郊外に茶室「臨川」を建て、カンボジア人に稽古をつけつゝ、東欧諸國を外遊。ハンガリーのラダイ博物館等で茶を點て、オーストリアのスタッド博物館等で書を展示。歸國後は晴耕雨讀暮らし。文藝春秋SDGsエッセイ大賞2023グランプリ受賞。https://kodo.bar/

    あなたへのおすすめ