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ホシノハナシ #7-2 手ず手をあわせお

   ☆
 
店の前に貌っおある䜏み蟌み求人募集のチラシを芋かけたのは、偶然だった。
駅から離れおいるずはいえ、郜䌚の真ん䞭に䜏めるのは魅力的だなず思っお、しばらくチラシを眺めおいた。働くにせよ、ずりあえず店の様子を知りたいず思った才暹は、しばらく迷っおドアを抌した。
「はい、いらっしゃい」
 先代マスタヌである恵藀が、ちらりず才暹を芋た。
 才暹は、店党䜓が芋枡せる角の小さなテヌブル垭に腰かけ、メニュヌからハンバヌグを泚文した。狭い店は、他に店員を必芁ずするほど繁盛しおいるようには芋えなかったが、それでも䜕組かいるお客様に、恵藀䞀人で忙しなく察応しおいた。
 たもなくやっおきたハンバヌグは䞞くお厚みがあり、母の䜜るハンバヌグより䞀回りも二回りも倧きかった。ナむフを入れるず、じゅわりず溢れ出る肉汁が食欲をそそり、口に入れた途端、甘みのある肉の味ず脂の旚味が広がった。䞀床食べ始めるず止たらない矎味しさに、店に入った目的も忘れお才暹は䞀気に平らげおいた。
「ご満足頂けたでしょうか」
 恵藀が食埌のコヌヒヌを運びながら、才暹に感想を求めた。気が付けば、他のお客さんはいなくなっおいた。
「はい、ずおも。肉の味がしっかりしおいお、肉汁でご飯も矎味しく頂きたした」
「うちは、぀なぎに秘密があるんですよ」
「ふんわりしおいたしたね」
 才暹が感想を蚀うず、恵藀は片眉を䞊げた。
「そうそう、それがこだわりなんだよ」
 どうやら、小さな店でも適圓にやっおいる蚳ではないようだった。
「で、どうかな。働けそうかな」
 恵藀の問いに、才暹は驚いた。無蚀で芋返すず、再び片眉を䞊げながら蚀葉を続けた。
「違うかな 衚の貌玙を芋おいたようだから。君みたいに若い男性だず私も助かるんだけどね」
「  料理はしたこず、ないんです」
「構わないよ。最初から教えようずは思っおいないさ。小さな店だけど、ランチタむムは手が回らなくお、幎のせいか掃陀も結構倧倉でね」
 答えない才暹に、恵藀は続けた。
「やっぱりさ、うちの味が矎味しいず思っおくれる人がいいんだよ。君の食べっぷりを芋おいるず息子を思い出すようでね。ああ、今は日本にいないんだけどね」
「息子  」
「䞍愉快に思ったらごめんよ。そうだよね、君にも父芪がいるんだろうしね」
 䞋を向いた才暹に、恵藀は慌おお蚀葉を繕った。
「いえ、父はいないんです。生たれた時から」
「あ  。それは䜙蚈なこずを蚀っおしたっお申し蚳ない。どうも私は䜕でもすぐ口に出しおしたうずころがあっお」
「構いたせん。特に䜕も  、父に関しおは䜕も思ったこずがないんで」
「そうか  。あ、君、ちょっず手を䞊げおみおくれるかな」
「え」
 才暹が戞惑うず、恵藀は片手を才暹の顔の前で広げおいた。慌おお同じように片手を䞊げる。
 するず、恵藀が才暹の手に、自分の手をそっず合わせおきた。
「お手おずお手おを合わせお、しあわせ」
「は」
「いや、悪い悪い。冗談だよ。君の手も倧きいね。このハンバヌグを䜜れるようになる手だよ」
 軜く觊れおいるだけの手から、じんわりず暖かいものが流れおくるようだった。さっき食べた肉汁のように、ふずした瞬間に思い出しおしたいそうな優しさだった。
「たぁ、こんな私だが、もし䞀緒に働けそうなら連絡をくれるかな。埅っおいるよ」
 倖した手でそのたた才暹の肩を軜く叩き、恵藀はカりンタヌに戻っおいった。
 それから数日埌、忘れられない手のぬくもりを信じお、恵藀の店に来たのだった。
 
   ☆
 
「それが、こちらで働かせお頂くこずになったきっかけです」
 才暹は話のひず区切りで、ガヌリックトヌストをちぎっお口に入れた。
「父さんっおば、くだらないギャグなんか蚀っちゃっお」
「誰かさんず䌌おいたすね、やっぱり」
 湖玉がマスタヌの呟きに茶々を入れながら、才暹の方を向いた。
「その頃、才暹さんは働いおいなかったんですか」
「ああ、カフェをやっおみたくお  。仕事を蟞めお、色々回っおいた所だったんです」
「それで、この店に蟿り着いたんですね」
 湖玉の蚀葉に、才暹は黙っお頷く。
「運呜。それはディスティニヌ」
 芝居がかった口調で䞡手を広げるマスタヌを芋お、恵藀の息子はこういう人間だったのかず少しず぀理解し始めおいた。
「それで今は䜕を」
「䞉幎ほどやっおみおカフェは難しいなず思ったのず、残しおきた母がやはり䞀緒に䜏んでほしいずいうので、家の近くの工堎に勀めおいたす」
「たた党く違うお仕事ですね」
「たぁ、幎霢も幎霢なので。䞉十も半ばになるず、あたり仕事は遞べたせん」
 湖玉の質問に答えながら、自分の歩んできた人生の䞀貫性の無さに虚しくなった。
「才暹さんは、私の母の仕事はご存じでしたか」
 湖玉が小さく銖を傟げおいる。そんな癖たで玉子にそっくりだった。
「星秘占術ずいう占いをやっおいらしたかず」
「そうです。実は私も星秘占術で鑑定をしおいるのです。よろしければ、才暹さんの生幎月日を教えお頂けたせんか」
「構いたせんが  。俺は特に聞きたいこずもないんですけど」
「いえ、私が調べたいこずがあるんです」
「」
 蚳が分からない才暹に、湖玉は、恵藀ず母の死の謎を星秘占術で解きたいず思っおいるこずを、順を远っお説明しおくれた。どうやら、関係者の宿呜ずやらを合わせお考えたいずいうこずらしい。関係性が高ければ、恵藀に圱響を䞎えおいる可胜性があるのだずいう。
「いいですよ。それで謎が解けるのであれば」
「ありがずうございたす。私の我儘に付き合っおくれお感謝したす」
 才暹は、湖玉に生幎月日を䌝えた。
 湖玉は、手銖から氎色のリボンをほどいお、髪に巻き぀けるようにしおいく。目元が隠れおいた前髪がなくなり、理知的な額が芋えた。
 準備は敎ったずでもいうように、おもむろにノヌトパ゜コンを取り出し、生幎月日を入力しおいく。時々考えおは、ノヌトに䜕か曞き蚘しおいる。最埌に、コヌスタヌの裏に挢字をいく぀か曞き出しお、才暹に向き盎った。
「――星は、こう蚀っおいたす」
 静かに話し出した湖玉に、才暹は戞惑った。
「俺、特に䜕か芋おもらいたい蚳じゃないですよ。湖玉さんが調べ物に必芁だから教えただけなので、説明はいいです」
「あ、ごめんなさい。぀い  」
 悲しそうに䞋を向いた湖玉を芋お、才暹は曎に戞惑った。
「で、でもせっかくだから、䜕か分かるこずがあれば教えおもらおうかな」
「才暹さん、湖玉さんっお拗ねやすいんで、気にしないでいいですよ」
 慌おお繕おうずした才暹だったが、マスタヌが手を暪に振りながら気にするなず合図しおくる。
「では、星が語るこずをお話ししたしょう」
 マスタヌを無芖しお、湖玉が顔を䞊げた。
「才暹さんは、物事を決めるのに迷いがないですね。恋愛も人生も即断即決は埗意ですが、長いスパンで物事を考えるのが苊手かもしれたせん。諊めがいいずもいえるでしょう」
「そうかもしれたせん。ここで働くこずもすぐに決めおしたったし」
 鑑定が始たるず、なんずなく䌚話をしおしたうものなのだな、ず才暹は自分のこずなのに、他人事のように思っおいた。
「そういう性栌の䞊に、『倩銳星』ずいう萜ち着かない星がずっず廻り続けおいるこずもあり、なかなか䞀぀所に定たらない人生になっおいたす。ああ、䜓を䜿うお仕事や倚忙で䜓力を消耗するのが良さそうです」
「ちょうど今の工堎は、かなり䜓を䜿っおいたすよ」
 湖玉は頷きながら、質問を重ねた。
「今、ご家族はお母様お䞀人ですか」
「そうです。母はもう幎ですけれど、若い頃はかなりバリバリず仕事をしおいたタむプでね。その反動か、最近は䜓調が悪くお病院通いです」
「ああ  、幎霢的なものかもしれたせんね」
 目を䌏せた湖玉を、マスタヌが䞍思議そうに芋おいるのが気になった。䜕か分かったこずでもあるのだろうか。
「蚀いにくかったら結構ですけど、先皋お父様は生たれた時からいないず話しおいたしたが、ご存呜ですか」
「もう亡くなりたしたが、割ず最近たで生きおいたみたいです。よく知らないんですけどね」
「䌚ったこずはないんですか」
 蚀いにくかったらいいず蚀いながら、結構突っ蟌んでくるなず才暹は苊笑し぀぀、差障りのない範囲で答えようず思った。
「あるずいえば、ありたす。ただ、父は自分に子䟛がいるこずを知らないものですから、ただの知人ずかそういうレベルです」
「どうしおお父様は、子䟛がいるこずを知らないのでしょう。才暹さんは告癜しなかったのですか あ、蚀いにくかったらいいんですけど」
 繰り返し、無理匷いをしないず蚀いながらも、湖玉の目は真剣そのもので、答えない蚳にはいかない迫力が挲っおいた。才暹は、「自分の出生の話になりたすけど」ず前眮きをしお、静かに話し始めた。
 
   ☆
 
母から聞いた話である。
 母は圓時、孊生運動に混じるような攻撃的な面が匷かったそうだ。正しいず信じたこずには培底的にこだわり、激動の䞭に身を眮くこずで瀟䌚に参加しおいる気になったずいう。
 そしお母は、その運動の䞭で父ず出䌚った。
激しい運動の䞭での恋は、あっずいう間に燃え䞊がり、ほどなく才暹を身ごもった。けれど、子䟛をお腹に抱えおの運動は困難だった。守るこずず戊うこずを共存できるほど、母は噚甚ではなかったのだろう。
葛藀の末、母は運動を蟞めるこずにした。授かった呜を取ったのだった。そしお、そのすべおを父に盞談するこずもなく、母は父に䞀方的に別れを告げた。
『もう卒業だし、こんなこずしおいる堎合じゃないず気付いたの』
『お前にずっお、孊生運動ずはそんなアルバむトみたいなものだったのか』
 父は、母をなじった。それたでは同志であり、だからこそ党おを分かち合う恋人でもあったのだ。母の蚀葉は、父にずっお裏切りずいう傷を残したに違いなかった。
 
『ごめんね、才暹。同志ずしお掻動しおいる圌を芋おいたら、子䟛のこずで掻動に迷いが出おしたうこずを恐れたの。だから圌は、今でもあなたの存圚を知らないわ』
 母が、父を愛するが為に身を匕いたず知っお、才暹はただ芋ぬ父に怒りの感情が沞き起こるのを止められなかった。
『父さんに知らせるべきだよ。どうしおそんなにあっさり別れるこずができたのか、僕には信じられない。母さんの本圓の思いを知らせるべきだよ』
『才暹、もうね、父さんは違う人ず結婚しお子䟛もいらっしゃるの』
 母が自由に孊生運動を続けさせたいず思う気持ちは、結果ずしお無駄になったらしい。母ずの別れから倱望感に包たれた父は孊生運動を蟞め、無事に就職もしたらしかった。もっずも母がそれを知ったのは、それから数幎経ち、父が違う家庭を持っおからのこずだった。
『そんな 母さんはそれでいいの そんなの負けじゃないか』
 才暹の怒りは、母に向かった。
『どこか負けなの 母さんは才暹ずいう宝を授かった。私だけの宝よ。䜕が勝ち負けずいうのか分からないけど、あなたがいお幞せよ。もう、それだけで勝ちだず思うわ』
 凛ずした母の顔を、才暹は今でも忘れられない。その顔を芋お、誰が敗者だずいうだろう。それほどたでに、自信ず愛に満ちた矎しさがあった。
『それに仕事も順調だしね。もし家庭の䞻婊に玍たっおいたら、今の生きがいはなかったず思うわ』
 負け惜しみなどではなく、本心から蚀っおいるだろうこずは母のさっぱりずした衚情から分かった。それでも才暹は、どこかでのうのうず暮らしおいる父ぞの思いが暗い色に染たっおいくのを止めるこずができなかった。
 
 才暹は倧孊卒業埌に就職し、平凡な人生を歩み始めおいたが、父ぞの憎しみが消えるこずはなく、むしろ膚らんでいく䞀方だった。自分の半分は父から受け継いだものであるはずなのに、本人はそれを知らないなんお、自分の人生が半分闇の䞭にあるような䞍安定感を拭いきれなかったのだ。
 䞀床は、結婚したい盞手も珟れお、自分の家族を持おばたた気持ちも倉わるのかもしれないず考えたが、収入を理由にプロポヌズは断られた。才暹は、それすらも父に原因を求めた。父がいないせいで十分に勉匷できなかったからだず、人生が䞊手くいかない本圓の原因は父なのだず思い蟌むようになった。
 そうしお、才暹は父を探し出すこずを決意した。母が絶察に口を割らないこずは想像できた。決しお倚いずはいえない絊料を少しず぀貯め、興信所を䜿っお父を探し始めた時には䞉十歳を超えようずしおいた。
名前ず倧孊名だけの情報だったが、父は意倖ずあっさり芋぀かった。

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ホシノハナシ #7-3 手ず手をあわせお ぞ続く――

        🌟

最埌たで読んでくださっお、ありがずうございたす。
わたし湖玉は、あなたの生たれた日の星も読みたす。

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よろしければ、フォロヌで埅っおいおください。

― 湖玉

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いいなず思ったら応揎しよう