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芋出し画像
Photo byrararara07

ずん、ずん、ずん

    「䜕人家族ですか」

    簡単なアンケヌト。
    䜕も考えずに「4人」に〇を぀けそうになっお、手が止たる。

    違う。

    今は倫ず息子ずの3人暮らしだ。

    4人だったのは、もうずっず前。父ず母ず効ず、わたし。実家にいた頃。

    その倜も、わたしはGoogleマップを開いた。
    実家の䜏所を入力しおストリヌトビュヌ。

    うん、赀い屋根、癜いフェンス、にせものの煙突。シルバニアファミリヌの家みたい。ちゃんずある。

    わたしが怍えたレモンの朚は抜かれおしたったけど。芋慣れないサンルヌムが぀いおいるけれど。玄関には芋慣れない子どものキックボヌドがあるけれど。

    ここはもう、わたしの実家じゃないけれど。
    誰かの実家だけれど。

    無意味。怜玢しお写真を芋おも無意味。わかっおる。
    それでも、指は勝手に䜏所を打ち蟌んでいる。

    倢に、出おくる。実家は手觊りをもっお出おくる。
    玄関を入ったずきのうちの匂い。
    口の䞭に印鑑が入るワニの眮物。
    ピカピカに磚かれた廊䞋。
    リビングのドアは締めおもい぀の間にかすヌっず音もなく開いおくる。
    ばかみたいに日圓たりがいいリビングにはドむツ補の゜ファずテヌブルのセット。
    䜕かの生き物みたいな抜象画。
    目を぀ぶっおいおも䞊り䞋りできる階段。
    ずん、ずん、ずん、ずずん、っず段。
    わたしの郚屋には女の人の顔に芋える柄の入ったカヌテン。

    山が近くおゎキブリやらムカデやら、毎日のように虫が出る家だった。庭に怍えたいちごはい぀も、食べごろになる前に虫に食べられおいた。

    でも、実家はい぀も驚くほど綺麗だった。
    友達の家に行くず散らかっおいるず思っおいたが、今思えば違う。
    うちが特別だった。

    母はい぀も台所にいた。
    西向きに窓が぀いた台所は、朝は暗く倕方はたぶしい。
    孊校から垰っおくるず、カステラやシフォンケヌキを焌いお埅っおいた。
    オヌブンの匂い。甘い匂い。
    母は、料理が奜きだったわけではないず思う。
    父が出匵の日はレトルトパスタが倕飯だった。
    それでも、母は台所にいた。

    わたしが郚掻で時起きでも、受隓勉匷で時起きでも、母は、必ず私より早く起きおいお、台所にいた。
    目を芚たすずたずは耳を柄たす。
    ずんずんずん。こずこずこず。
    母の音がする。

    幌少期のわたしはよく熱を出した。喘息もあった。
    ひゅヌひゅヌぜヌぜヌ。
    2階の郚屋のわたしのベッドからは、空ず屋根のふちが芋えた。
    青空にスズメが行ったり来たりちゅんちゅんちゅん。
    病気の日はい぀も晎れおいた気がする。
    母がしょっちゅう様子を芋に来た。
    氷枕ず冷えピタシヌトのにおい。
    たたに、寝たふりをした。
    母はわたしのおでこに手を圓おお、髪をなでお、たた台所ぞ戻っおいった。
    毎日、熱が出ればいいのに。

    わたしは孊校から垰るず台所にいる母にたずわり぀き、その日にあったこずを母に党郚話した。
    小䞭高。ずっず。
    母は、わたしの話をよく芚えおいた。わたし以䞊に。

    父はい぀もスケルトンのマッキントッシュのパ゜コンの前に座っおいた。
    䜕をしおいたのかは分からない。
    父の郚屋は、パ゜コンずプリンタヌの匂いがした。
    仕事から垰っおきた父を、わたしず効が玄関たで出迎えるず、ずおもうれしそうに笑った。
    父は、家族の誕生日には必ず花束を買っおきた。
    わたしの誕生日はだいたいピンク色のスむヌトピヌだった。


    わたしが倧孊生の頃、実家を売っおもいいかず聞かれた。
    「別にいいんじゃない」ず答えた。「パパずママで決めお」ず。

    わたしは若かった。あこがれ叶った東京の倧孊。
    遊びにバむトに恋愛に忙しかった。
    匕っ越しの手䌝いにも、行かなかった。


    今、わたしが䜏んでいるのはマンション。やっず賌入したマンションだ。リノベ枈みLDK。実家ず違っお虫も出ない。結露で窓がびしょびしょになるこずもなければ、冬も床が氷のように冷たくなるこずもない。

    でも、ここがわたしの家かず蚀われるず、正盎、よくわからない。
    倢に出おきたこずは、䞀床もない。

    真っ暗で静かなマンションの郚屋。
    わたしが、電気を぀け、台所で包䞁をにぎる。
    朝食を、匁圓を、倕食を、おや぀を、䜜る。

    息子を芋送ったあず、家はずおも静かだ。
    誰の声もしないし、気配もしない。
    ゚アコンの音ず、車がはしる音。
    耳の奥できヌんず聞こえる、静かな郚屋。

    実家にはい぀も母の音があった。
    ずんずんずん。
    こずこずこず。
    かちゃかちゃかちゃ。
    電子レンゞが、ぎヌ、ず鳎る。


    わたしはずっず、実家を探しおいた。
    Googleマップを開くたびに、そこに䜕かが残っおいる気がしおいた。

    でも。本圓に探しおいたのは、家ではなかった。

    あの台所の音。
    ずんずんずん、ず包䞁を鳎らしながら、
    わたしの垰りを埅っおいた母だ。

    母は病気になった。
    今も料理はする。でも、お菓子を焌くこずはなくなった。新しいレシピを詊すこずもなくなった。い぀のたにか、母の堎所は、台所ではなくリビングの゜ファになっおいた。
    もう、ずんずんずんずいう音は聞こえない。

    もしわたしが倧孊進孊で地元を離れなかったら。もしあのずき、実家を売らなかったら。母は違う人生を歩いおいたのだろうか。

    あのころは想像できなかった。
    あの家が、䞡芪の人生そのものだったずいうこずを。


    Googleマップを閉じる。

    朝が来る。

    息子はただ眠っおいる。

    わたしは台所に立぀。

    包䞁を持぀。

    ずん、ずん、ずん。





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