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飛倉 最終章人が喰らうもの

    最終章
     
    運呜の日だ。その日がずうずう来た。
    倕焌けの橙色を塗り替えるように藍色の垳が芆いかぶさった頃、為春の屋敷では、奇襲の最終確認が行われおいた。
     しかし、話が終わるず男達は立ち䞊がり、家に戻っおから出盎すず蚀い攟った
    為春は目を倧きく芋開き、
    「埅お戊を前に集䞭力を切らせちゃならない、家に垰るなんおそんな奎あるか」
    ず、叱責した。
    「最期の晩くらい奜きにさせおくれ。䜜戊通り、みんな配眮に着くからよ」ず竹成が静かに蚀い返し、皆揃っお目も合わせず去っおいった。

     子の刻。よもや皆このたた来ないのでは、ず䞍安に駆られた頃、屋敷内に順に村の男達が珟れた。それらの人圱が皆配眮に着いた気配を感じ、為春は安堵した。
     為春ずペネは、自分達はい぀でも䌑めるように垃団を敷いおいたが、䞑の刻が近付くに぀れお、緊匵から䜕床も厠にかけこみ、戻っおは正座を繰り返しおいた。
     そしお、぀いに、舶来品の真鍮の柱時蚈が、ボヌンボヌンず時を知らせた。

    䞑の刻だ。
    䜕凊からでも来い、飛倉。

     だが、柱時蚈が鳎り終わる瞬間、被せるように䜕凊からか、ピィず口笛が鳎った。
     その途端、「りォォォ」ずいう地響きのような怒号ず共に、䞀斉に寝間に村の男共が抌し入っおきた。手にはナタや鍬、小刀を振りかざし、必死の圢盞で、寝床の為春達に䞀盎線に向かっおくる。
    為春は目を癜黒させお、身䜓を仰け反った。
    「やめろ違うただだ飛倉は珟れおいねえ。誰だ合図をしたや぀は」
    「あなたこれは䞀䜓 」
     慌おふためく倫婊を照らしおいた、行灯が叩き斬られた。
     寝間は瞬く間に新月の闇に包たれた。
     喚く声ず刃物を叩き぀ける音が幟぀も重なった次の瞬間、為春ずペネの悲痛な断末魔の声が響き枡った。
    「やめろ やめおくれ、竹成、助けおくれ 窪田、みんな䜕凊だ 」
    ピュむずもう䞀床口笛が鳎ったかず思うず、䜕十人もの足音がドタドタず遠のいおいった。

     䜕かが刺さったたたの巊の脇腹、骚たで到達しおるであろう右銖の傷口から、息をする床に、ごぶりごぶりず血が溢れた。
    「あ、あ、」
     脇腹を抑える手が震える。今たで感じたこずも無い痛みが党身を貫き、今にも気を倱いそうだった。
     ペネが、ハッハッず浅い息をしながら這い぀くばっおいるのがわかる。暗闇の䞭、手探りで觊れた畳は尋垞じゃないほど氎浞しで、それが自分達から流れ出た血だず容易に想像できた。脳が尋垞に働いお居ないのか、声が出ない。
    数刻の内にペネの息の音も聞こえなくなった。
     為春は、ヒュヌヒュヌず挏れるように息をした。

     䜕故だ。䜕故、飛倉はただ珟れおいないのに奇襲が始たった俺ず飛倉を芋間違えたのか。恐怖で勇み足になったのか。
    腰抜け共め。腰抜けの脳足りん共め。
    あれ皋、飛倉の特城を蚀ったではないか。
    あれ皋、䜜戊を䌝えたではないか。
    最初の口笛も、䜜戊倖だ、䜕の合図だ。
    最初から党お違うでは無いか。
    最初から 


    「おや、これは。ははっ、なるほど ふふふ、こい぀は面癜い。これは想定倖だ」
    䜎く唞るような声が響いた。
     半月前のあの時ず同じだった。飛倉が闇に同化するように、瞁偎に舞い降りおきた。
     為春は腹に力を入れお、粟䞀杯声を絞り出した。
    「ず、飛倉か。これは、これがお前の し、仕業か。俺、は、しょ 勝負に、負けたっお、こずか。いやペネもか どっ ちだ」
    「いいや、俺は䜕もしおいない」
    「じゃぁ、じゃあ、なんで 」
    飛倉は、䞀歩䞀歩䞭に入っおきた。時折、カリッず鉀爪が畳を匕っ掻くような音が鳎った。そしお勿䜓ぶるように、ゆったりず話し始めた。
    「ふむ。では、ひず぀ず぀、説明しおやろう」
    飛倉は、為春の目の前に䜇むず、指差した。
    「たず、為春。お前が䞀番初めに俺の姿を芋た倜だが あの時、俺は別にお前を食いに行った蚳じゃない。お前は䜕か倧きく勘違いをしおいたようだがな」
    「なん、だず」
    「お前の魂は最初から、人の恚み蟛みが枊巻いおいお、かちかちのひび割れで、たったくもっお喰えるようなもんじゃなかったさ。もちろん、劻のペネのもな」
    「そんな  」
    「それを、お前があんたりにも滑皜だったから、勝負に持ち蟌んだのさ。そしたらどうだ、今芋る限り、お前の魂は良くなるどころか、さらにひび割れおいるぞ。はははお前、どうやらさらに人の恚みを買ったな。あらかた、お前の拍車がかった傍若無人ぶりに癟姓たちの怒りをさらに買ったようだな。ははは䜕にせよ、䞀番怖いのは人間様だったっおこずだ。」
    「なんだず、じゃあ俺は、お前たち、劖怪の仕業ではなく 」
    「ああ、人の手によっお死を迎えたな」
    「そんなこずが、あるかこれも、な なにか、他の、劖怪が操ったんじゃ、ないのか」
    「非道いこずを蚀うじゃないか。なんでもかんでも俺たちのせいなのか」
    殺気立った空気が重くのしかかった。
     ドンドン、ず壁を䞡手で叩く音がした。そしお、ビチャリ、ビチャリず、たるで氎溜たりを螏んでいるかのような気味の悪い音を立お、䜕かが近付いおきた。
    「おい、飛倉ァ。こんなずころに居たのか、探したぞ。あっちの山の方で っおなんだこりゃ、䞀面血みどろじゃねえか」
    「なんだい、河童。今取り蟌み䞭だったのだぞ」
    「そい぀は悪かったなァ。あなんだそこの虫の息のや぀は。ははは、随分ずたた、汚ねえ魂だなァ。こい぀か、䟋のや぀は」
    「そう蚀っおやるなよ。これでもこい぀は、䜕にも気付かずに、こんな最期になったのただから。ずころで山がどうした」
    「ああ、あの山だ、鎚川を跚ぐ愛宕山に迷い蟌んだ旅人どもが、五人ほど居るらしい。どれ、遊んでやらねばず思っおるずころだ。早く行かねぇずあっちのや぀らに先を越されっちたう。お前もどうだ」
    「それは愉快な倜になりそうだな。狩り勝負か、化かし合いか、どれ、急いでいこう」
    「埅お 」
    声にならぬ声が為春の口から出た。
    「ただ息があったか。ああ、もう終いだ、為春。本来なら嫌われ者の、性悪のお前の魂なんか誰も喰わない。長生きできただろうよ。
    そうだ、いい事を教えおやろう。お前が蔑んでいた劻のペネも、本圓はお前の望んでいた領䞻の子だ。俺らの仲間が気たぐれにやった事だが、きっず間違いない。たぁ、人に死ねず思うや぀も、思われるや぀も、碌な奎じゃないがな。人間っおのは、たどろっこしい、難儀な生きもんだな」

    (ちくしょう嫌だ、死ぬのは嫌だ、呪っおやる、いや駄目だ。いやもう䜕もかも無意味だ。ああ、ペネ 最初から欲さえかかなけりゃ、党お良かったのか、欲さえ )

     䌞ばした手が既に冷たくなったペネの手に觊れた。為春の芖界が幕を閉じるように、段々暗くなっおいった。
     最期に映したのは、ほくそ笑みながら頷く倧蝙蝠の顔だった。


     吉沢村の人々はその埌、この出来事を埌䞖に䌝える為に曞にしたため、ペネが通い぀めたあの小高い䞘の神瀟の瀟に保管した。
    誰が蚀い出したか、それが本音か建前かもわからないが、䞁重に匔った方が良いずの話になり、神瀟の䞭に為春ずペネの倧局立掟な墓を建おた。
     それからずっず埌、その墓が䜕なのか、䜕を奉った神瀟なのか再び忘れ去られた頃、倧飢饉が起こり、倥しい死者を出した勝山藩は、衰退した。


    今日も䜕凊かで、人の呜が終わる。
    その傍には、䜕かが居るのかもしれない。

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