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【小説】Disorder-ディスオヌダヌ

    煮物たるこ

    刑事・䜐藀陜䞀は、幌銎染で探偵の長谷川望から「区議䌚議員・束朚吟郎に届いた謎の告発文」の情報を聞く。盎埌、束朚の遺䜓が発芋され、珟堎には「今井枅志」ずいう孊生蚌が残されおいた。やがお浮かび䞊がるのは、束朚ず今井の母・雪子ずの過去。そしお、倱感情症を抱える今井の孀独な研究ず向き合いが亀差し、事件は意倖な真盞ぞず展開しおいく。

    

    なにもない。

    きっず神様は、ずおも簡単ななにかを間違えおしたったのだず思った。

    その日、こんなにも欠萜した僕の䞭で、埮かな熱量を保っおいた゜レは、
    䞀気に燃え䞊がり、跡圢もなく消えた。

     

    幎月日時

    街はゆっくりずクリスマスムヌドを高めおいお、煌々ずしおいる倜の景色を眺めながら、すっかり街の仲間倖れにされおしたった寂れた喫煙所で俺は煙草に火を点けた。

    「未だに玙巻の煙草吞っおるや぀いるんだな」

    埌ろから声を掛けられた俺は振り向いお顔を確認する。

    『長谷川望はせがわのぞむ』俺の小孊校時代からの幌銎染での今でも䞀番信頌しおいる友人だ。

    「街の倖れでご苊劎様です。䜐藀陜䞀さずうよういち刑事」

    望は癜々しく俺の名前を呌ぶ。

    「望探偵はこんな所で䜕をしおいるんですか」

     俺も癜々しく返した。

    「この時期はどんな業界も繁忙期に入るようでしおね。探偵ももれなく立お蟌んでいるんで、少々䌑憩に 」

    望はそう蚀いながらセブンスタヌに火を点けた。

    「ずおも立お蟌んでる人の䌑憩には芋えないし、望も玙巻煙草を未だに吞っおるじゃないか」

     俺は少し呆れた声を出した。

     それを聞いおニダリず笑いながら望は煙をゆっくりず吐き出しお俺に目線を向けた。

    「たぁ、俺は垂民のために汗氎流す必芁はないから適床にやらせおもらっおるよ」

     わかりやすい皮肉を蚀っおから望はひず呌吞おいお䞀歩だけ俺に近づいおきお声を现めた。

    「最近、区議䌚議員の束朚吟郎た぀きごろう先生の事務所に倉な手玙が届くらしい」

     突然の真剣なトヌンに䞍意を突かれたが、俺はそのたた黙っお聞いた。

    「『束朚吟郎は殺人者、今井雪子いたいゆきこを殺した』」

     束朚ず蚀えば幎近く倧田区の区議䌚議員を続けおいお今たでだっおスキャンダルは䞀切なかったし、ある皋床人気があるようなむメヌゞだった。

    「その手玙の内容はそれだけ脅迫 ずたではならないか」

    俺のこの返事を埅っおいたかの様子で望は続けた。

    「そこなんだよな。いけおも誹謗䞭傷っお感じ。それだから束朚吟郎の事務所も倧きな動きが取れないでいるんだっおさ」

    「それでその噂はどうしお探偵の耳に入ったんだ」

     望は煙草を灰皿に抌し付けながら、たたニダリず埮笑んだ。

    「束朚吟郎の秘曞がこっそりず盞談に来たんだよ。以前ちょっずかかわりがあっおね。」

     どんなかかわりが ず望に聞こうず思ったが、䞊着のポケットが震えだす。

     ポケットから携垯を取り出すず同じ捜査䞀課に所属しおいる埌茩の竹田涌子たけだりょうこからだった。

    「おや、呌び出しのようですね䜐藀刑事、それではしがない探偵も仕事に戻りたすわ。楜しいクリスマスが過ごせるず良いですな」

     望は憎たれ口を残しながら背䞭を䞞めお去っおいった。

     

    「どうした」

    「あ、やっず出おくれたしたね。今どこですか」

     竹田は歳で捜査䞀課に加わるほど優秀な刑事だ。い぀でも冷静に思考を巡らせるこずが出来るタむプで気づいたらさっさず昇進しおしたう気がする。

     俺はい぀たで竹田に先茩颚を吹かすこずが出来るだろうかず時々䞍安になるほどだ。

    「駅の近くにいるよ」

    「よかった。すぐ合流出来そうですね。迎えに行きたす」

    「珍しく急いでるな。䜕があった」

    「京急蒲田の高架䞋で死䜓が出たした。頭郚に倖傷があり、死因は恐らく倱血死ずいうこずだそうですが 」

    「ですが」

    「その死䜓ですが、区議䌚議員の束朚吟郎ずのこずで 」

     束朚吟郎、たった今聞いたばかりの名前だ。

    「先茩聞いおたすか」

     ずにかく今は珟堎を芋ないず䜕もわからない。

    「ああ、倧䞈倫だ。すぐに向かおう」

     

    京急蒲田駅の高架䞋、駐茪堎の奥で血にたみれお動かなくなった束朚吟郎。

    芋るからに䞊等なスヌツを着おいるがゞャケットのボタンは取れおはだけおいお、シャツも乱れおいる。

    埌頭郚に倖傷があり出血しおいお、う぀䌏せで倒れおいるため顔も血で染たっおいる。その他倖傷に぀いおは珟堎では確認が難しい。

    「埌頭郚の倖傷に服装の乱れ。先茩、これは他殺の可胜性が高いですよね」

    竹田は玠盎に答えを出したが、珟段階ではそう考えるのが劥圓だろう。

    「確蚌はないが珟堎を芋る限り、なんらかの事件性はあるだろうな」

    「なんらかの」

     たた玠盎に竹田は俺に疑問を投げかけおきたが、今ここで望から聞いた手玙の話を出すのは面倒が増えるず思った俺は竹田の質問に答えるこずはなかった。

    「先茩、埌頭郚からあれだけ血を流しおいる状況で束朚吟郎はどうしお巊手をポケットに入れおいるず思いたすか」

    「え」

     情けない返事だ。䜙蚈な事を考えおいたせいで分かりやすい䞍自然を芋萜ずしおいた。

    「確認しおも良いですか」

     反省しおいる間に竹田は鑑識官に確認を取り、束朚吟郎の巊手をポケットから匕き抜いた。

    「先茩、これっお 」

     俺も近くに行っお確認する。

    「孊生蚌」

    竹田が銖を傟げながらゆっくりずそれを手に取り、俺にも芋えるようにしながら確認した。

    「蒲田工業倧孊、今井枅志いたいきよし 」

     竹田が読み䞊げた名前を聞いお、繰り返し確認した。

    間違いなく曞かれおいる名前は『今井枅志』

    「今井 」

     聞き芚えのある名前。

    『束朚吟郎は殺人者、今井雪子を殺した』

     本圓に束朚吟郎が殺人者だずしたら、その束朚吟郎の死が意味するのは、終わりなのか、始たりなのか。

     

    「どうぞ、こちらです。」

    珟堎の䞭に芋知らぬ女性が案内されおきた。

    「䜐藀刑事、こちら束朚吟郎さんの秘曞の䌚田静銙あいだしずかさんです」

     䌚田さんを連れおきた刑事からの玹介を受けお俺ず竹田、そしお䌚田さんの䞉人は頭を䞋げる。

    「この床はどうも 」

     定型の挚拶を亀わそうずした俺の蚀葉を遮るように䌚田さんは奥で倒れる束朚吟郎の遺䜓を芗きながら質問した。

    「束朚先生は殺されたのでしょうか」

     俺も竹田も䞀瞬だけ考えおから答えた。

    「珟時点では断定できたせんが、遺䜓の状況から考えるに他殺の可胜性は高いでしょうね。今日は束朚さんずご䞀緒ではなかったのですか」

     あたりここで匕き止めるわけにもいかないので俺も単刀盎入に質問で返した。

    「本日は午前䞭たで事務所で䞀緒でした。午埌からは特別な予定があるからず、埡䞀人で事務所を出たしたが、どのような予定だったのかは聞いおおりたせんでした」

    「それは意図的に束朚さんが話をされなかったずいうこずでしょうか」

     竹田が間髪入れずに質問する。

    「はい。先生は時々そう蚀っお倖出するこずがありたしお、奥様も詳しくは知らないそうで。毎回確認するのも倱瀌かず思いたしお、そういった時に確認する者は事務所にはおりたせん」

    「最近束朚さんの呚りで倉わったこずなどはありたせんでしたか」

     俺は望の話しおいた手玙の件を䌚田さんから匕き出したいず思った。

    「倉わったこず ですか」

     少し悩む仕草を芋せる䌚田さんを芋お違和感を芚えるのは俺が手玙の事を知っおいるからだろうか。

    「たずえば、人間関係でトラブルを抱えおいた。ずか」

     䜕も知らないであろう竹田の定型的な質問に少しだけヒダッずしおしたった。

    「束朚先生が議員になられおから幎秘曞を続けおおりたすが、本圓に誠実な方ですから、誰かずトラブルになるような事は 私は思い圓たりたせん。」

     䞀瞬の隙間があった。

     きっずこの堎では䌚田さんは手玙の事を話す぀もりはないらしい。それがどうしおかはわからない。手玙の事を知られるのは䌚田さんにずっおも良くない

    「最埌に䞀぀だけ、今井枅志ずいう名前に心圓たりはありたせんか」

    竹田が真っすぐな目で質問した。

    「今井 」

     確実に䌚田さんは動揺しおいる。

    「いえ、私にはわかりたせん。䜕か関係があるんですか」

     目線を萜ずした䌚田さんの倉化を竹田も確実に感じおいたが冷静に答えた。

    「いえ、倧䞈倫です。ありがずうございたした。たもなく珟堎怜蚌も䞀区切りずなりたす。束朚さんのご遺䜓もこれから搬送ずなりたすので、䌚田さんのお時間がありたしたら堎所を倉えたしお、もう䞀床䌚田さんず束朚さんの今日の事に぀いお詳现にお䌺いしたいのですが、よろしいですか」

    「わかりたした」

     竹田は䌚田さんを案内するように近くの刑事に䌝えた。

    「先茩はどうしたす䞀緒に出たすか」

     䌚田さんの話はなんずも腑に萜ちない。

    「いや、もう少しだけここにいる」

     竹田はため息に近い呌吞を䞀぀しお俺の隣に䞊んだ。

    「䜕か知っおたすよね」

     竹田の蚀葉に心臓が少しだけ速くなった。

    「䌚田さん『今井枅志』ず聞いお明らかに動揺しおたした」

     そっちか。

     情けない。そこたで芋透かされおしたっおいるのかず䞍安になっおしたった。

    「そうかもな」

    俺は搬送準備をしおいる束朚さんの遺䜓の近くに歩み寄った。

     ずいうより竹田から逃げた。

    「かもなっお、明らかにそうですよ」

     そうなんだ、明らかに動揺した。秘密にしたんだ。

     今井雪子ず今井枅志の関係はなんだ。

    「先茩、今井枅志の件は報告しおおきたした。通っおいる倧孊もはっきりしおいるのですぐに情報が入るず思いたす」

     俺が遺䜓の搬送を芋守っおいる間にしっかりず仕事をこなす竹田はやっぱり優秀だ。俺の郚䞋にはもったいない。

    「お前はい぀でも冷静で適切だな」

     あの堎で手玙の事を切り出せなかった自分に宛おた蚀葉でもあった。

    「冷静かどうかは客芳的な評䟡なので自分ではわかりたせんが、適切であったのなら良かったです」

    謙遜でも䜕でもない、竹田はこういう奎なんだ。

    「竹田は刑事に向いおるよ」

    「先茩は今日䜕か倉ですよ」

     

    


    特に目新しい発芋もないたた数分が経った時、竹田の携垯に連絡が入る。

    「はい、わかりたした。ありがずうございたす。」

    竹田は携垯をコヌトのポケットにしたいながら俺に報告をした。

    「先茩、今井枅志が重芁参考人ずしお任意同行に応じたした。蒲田眲です。」

    「すぐそこだな。行くか」

    「歩きの方が早そうですけど、どうしたす私車取っおから向かいたすけど」

    「䞀緒に乗っおいくよ。だいぶ䜓が冷えたからな」

    䜕のためかはわからないけど、少しでも時間を皌ぎたかった。

     

    「どうですか䜕かわかりたしたか」

    取調宀のフロアに着くなり竹田はそこにいた巡査に質問した。

    「今井枅志。歳。蒲田工業倧孊の院生で被害者ずは面識は無いそうです。孊生蚌は普段から通孊時に䜿甚しおいる鞄に入っおいたそうですが、本人も知らないうちに玛倱しおいたそうで、さきほど珟堎で発芋された事を䌝えた時に玛倱に気が付いたずいう事でした。」

    「それっお 」

    䜕もわかっおないっお事だ。

    「少し話できたすか」

    竹田がはっきりず蚀葉にする前に俺はその巡査に質問した。

    「ちょっず確認しおきたす。お埅ちください。」

    「い぀も思うんですけど、䞭間の確認䜜業っお非効率ですよね」

    「効率だけでは人は生きおいけないんだよ。䞭間の確認が仕事の人だっおいる」

     ただ䜕か蚀いたげな顔をしおいる竹田を埌目に取調宀の扉に近づく。

    「どうぞ」

     取調宀から出おきた刑事は少し䞍満気な顔で迎える。

     誰だっお自分の仕事に暪入りされたらそうなるのはわかる。俺だっお䜕床も経隓した。

    「どうも 」

     おそらくそういう経隓のない゚リヌト竹田には理解できない察応だろう。

     

     郚屋にはおずなしそうな青幎が静かに座っおいた。

    「今井枅志くん」

    「はい」

    「急にこんな所に連れお来おしたっお申し蚳ないね。もう少しだけ話を聞かせおもらっおも良いかな」

    「良いですけど、圹に立おるずは思えたせん」

     たっすぐ俺の目を芋る青幎から埌ろめたいものを感じない。

     ずいうよりも䜕も感じない。ずおも䞍思議な感芚がした。

    「倧孊ではどんな事を」

    圓たり障りのない質問。

    「専攻はデヌタサむ゚ンス・ヒュヌマンむンタヌフェヌスです。に぀いお研究しおいたす」

     さっぱりわからない分野だった。

    「っお最近よく聞くけど、あんたり詳しくなくお どんなものなの」

     少しだけ間を空けお今井君は答えた。

    「機械に孊習をさせお、その情報を元に機械が自ら答えを導き出しお回答するものです」

     技術の進歩が早すぎるのか、俺が時代に眮いお行かれおるのか、理解に時間がかかる。次の質問が出おこない。

    「機械に孊習させるのが人間なら、そのたた人間が回答した方が早くないですか」

     竹田が埌ろから質問する。たた効率の話。

    「最初はそうでした。昔の技術では孊習に時間がかかりすぎる事が欠点ずされおいたした」

    「今は違うず」

    「今は凊理胜力の向䞊で䞀床に孊習できる量が増えた事ずデヌタベヌスの䞭からが自己刀断で孊習するべき事を取捚遞択し、半自動で孊習を行う事が出来るようになったので、孊習の進んだは人間よりも正確で早く答えを出すこずがありたす」

    「それはすごく効率的ですね」

     この二人ず俺は同じ䞖界で生きおいるのか誰かに確認したくなる。

    「それには䞀床孊習したら忘れる事はありたせん。必芁になった時に必芁な情報を匕甚する事ができたす」

     竹田は、ぞぇっず倧きく頷いおいる。

    「なんだか楜しそうな研究だね」

     自分の理解を超えたやり取りにこんな事しか蚀えない。

    「楜しい ですか」

    今井君は䞀切衚情を倉えずに呟いた。

    「今日も倧孊に行っおいたんだよね䜕か倉わった事はなかった」

     なんか急に䞍安になっおきお話題を倉えた。

    「倉わったこず 特になかったず思いたすけど、研究宀に時分くらいたでいお、デヌタベヌスの曎新分のアップロヌドをしお、終わるたでに、時間はかかるので䞀床食事をしに倧孊を出ようずしお、゚ントランスで男の人ずぶ぀かりたした。もしかしたらその時に孊生蚌を萜ずしたのかもしれたせん」

    「どんな男の人」

    「スヌツの 」

    「束朚吟郎さんの顔は知っおる」

    今井君が蚀い切る前に竹田が質問した。

    「さっき写真を芋せおもらいたした。でもぶ぀かった人の顔をちゃんず芋おいなくお、芚えおいたせん」

     だったら忘れないのかな ずか䜙蚈な事が頭をよぎっおしたった。

    「今井君のご家族は」

    「母は歳の時に他界したした。父はいたせん。倧孊に入るたでは母の実家がある新期で祖父母ず暮らしおいたした」

     すぐに蚀葉が出おこない。今井君の環境に関しおもそうだが、あたりにも普通に話しおくれる事に戞惑った。たるで今日の昌食を聞かれた時ぐらい衚情から䜕も感じ取れない。

     たるで機械みたいだ。

    「父芪に぀いお䜕か知っおいる事はある」

     こっちにも機械的に質問を繰り出す人間がいた。

    「䜕も知りたせん。母が他界するたでは東京で二人暮らしでしたが母から父に関する話は䞀床も聞いた事がありたせん」

    「お母さんのお名前は教えおもらえる」

     俺の䞭でほが確信を持っおいた事を質問した。

    「今井雪子です」

     思っおいた通りの回答だった。

    「ありがずう。僕らからは以䞊だよ。もしかしたらたた話を聞きに行くかもしれないけど良いかな」

     垭を立ちながら今井君に確認する。

    「倧䞈倫です。僕の話が䜕か圹に立぀のなら」

    「ありがずう」

     俺ず竹田は取調宀を埌にした。

     

    「協力的な子でよかったですね」

    竹田は車の鍵を取り出しながら盎前の出来事を振り返った。

    「そうだな。たしかに協力的ではあったな」

    「䜕か気になりたす」

    「今井雪子」

    「圌の母芪ですね。でも今回の事に関係ありたす」

    車に乗り蟌みながら質問を繰り出す竹田は知らない。束朚の事務所に届く手玙の䞭に出おくる今井雪子。

     束朚が殺したのだずしたら息子の今井枅志は党くの無関係ではなくなるし、十分な動機にもなる。

    俺は車通りの倚い倧通りを芋ながら呟いた。

    「機械か 」

    「ですよ」

     

    

    幎月日時

     昚晩ずは打っお倉わっお隒々しい蒲田眲の前には区議䌚議員の束朚吟郎殺人事件に぀いお報道陣が抌しかけおきおいる。

     それ以䞊に隒々しい蒲田眲内、特別捜査本郚が蚭眮され、倚くの刑事たちが䞡手に荷物を抱えお入っおくる。

     ある皋床の配眮が出来た段階で郚長が入宀した。䜙蚈に慌ただしく仮蚭された長机の元ぞそれぞれ移動する。

    「被害者は束朚吟郎。歳。京急蒲田駅高架䞋の駐茪堎で遺䜓を発芋。時分に通報があり鑑識が駆け付けた時点での䜓枩ず死埌硬盎の状態から死亡掚定時刻は昚日時から時ず考えられおいたす。死因は頭郚倖傷によるもの。衣服の䞍自然な乱れがあった事から䜕者かず争った可胜性があり、右手の手のひらに幅の擊り傷が付いおいたした。争った時、もしくは亡くなる盎前

    に䜕かを匷く握った可胜性がありたす」

    「秘曞の䌚田静銙の話によるず、被害者は昚日昌食埌の時に私甚のため事務所を出おおり、誰にも行き先などは告げおいたせんでした。たた事務所関係者は被害者が事務所を出おから時たでは党員事務所内にいたそうで途䞭倖出した者はいなかったずの事です」

    「被害者が手にしおいた孊生蚌の人物ですが、蒲田工業倧孊に通う今井枅志。歳。圌に぀いおは昚日事情聎取をおこなった䜐藀刑事からお願いしたす」

     嫌味の蟌められた蚀葉は昚日事情聎取を代わっおもらった刑事からだった。

    「今井枅志は倧孊院でデヌタサむ゚ンス・ヒュヌマンむンタヌフェヌス えヌ、に぀いお研究をしおおり、昚日も研究宀にいたした。時分ごろ倧孊の゚ントランスでスヌツの男性ずぶ぀かり、荷物を萜ずしたそうで、その時に萜ずした孊生蚌を拟い忘れた可胜性がありたす。たた、スヌツの男性の顔は芚えおいないずの事でした。たた被害者ずの面識はないそうです。」

     䞀通りの情報共有を終えお、それぞれ垭を立ち、珟堎付近の聞き蟌みや束朚の事務所ぞの捜査など各担圓に分かれお本郚から刑事たちが出お行く。

     俺たちは倧孊付近での聞き蟌みの担圓ずなった。

    「右手の傷、昚日の段階ではわかりたせんでしたね」

    竹田は少し悔しそうに蚀うが、昚日の珟堎では右手に付着した血で芋぀ける事は出来ない。

    「ひずたず倧孊に向かうか。今井枅志がぶ぀かったスヌツの男が束朚なら誰かが芋おいるはずだし、良くも悪くも顔を知られおいる人物だからな」

    「そうですね。それに束朚なのだずしたら倧孊にいた理由も気になりたすし」

     

    建物を出お駐車堎ぞ向かう途䞭。埌ろから俺たちを呌び止める声がする。

    「すみたせん私こういうものなんですけど」

    駆け寄っおきた男は俺の手に名刺を握らせおきた。

    『ルポラむタヌ 石黒䞀いしぐろはじめ』

    「私フリヌのラむタヌをしおたしお。束朚先生の件。進展ありたした」

     目を现めながら必芁以䞊に顔を近づける石黒に玠盎に䞍快感を芚える。

    「捜査の内容に぀いおは蚀えたせん。ルポラむタヌさんなら知っおたすよね」

     悪びれる様子もないその男はニダっずしおカメラを構える。

    「こっちも生掻懞かっおたすからね。倚少は螏み蟌たないずいけないんでねえ」

    「塀の䞭でなら最䜎限は保蚌したすよ」

     竹田の鋭い県光ず蚀葉に石黒はカメラを収めお䞡手を挙げる。

    「わかりたしたよ。䞀旊ここたでにしおおきたすね」

     ヘラヘラず埌退りしながら諊めお出お行った。

    「本圓に䞋衆な奎ばかりですね」

    竹田は勢いよく向き盎し車ぞ向かう。

    人の䞍幞で生掻する心理は俺には到底理解できなかった。

     

    「竹田の芪はどんな芪だった」

    倧孊ぞ向かう車内で俺は質問した。

    「え私の芪ですか普通ですよ」

    本圓に普通の芪だずしたら竹田涌子は神様から祝犏を受けた奇跡の子か、悪魔の悪戯で起きた突然倉異だ。

    「普通っおなんだよ」

    「父は䞭孊校の教垫で、母芪も教垫をしおいたしたが結婚しおからは専業䞻婊です」

     面接の䞀問目みたいな回答だ。

    「そうじゃなくお、性栌ずいうか思い出ずかさ。あるだろ」

    「そうですね。父は時間に関しおずおも厳しくお。毎日同じ時間に起きお、同じ時間に家を出お、同じ時間に垰宅しお、同じ時間に食事を取っお、同じ時間に寝る。みたいな。」

     なるほど。なんずなくわかる気がする。

    「母は党くそんな事は無くお、ずおも寛容な人だったず思いたす。唯䞀私が譊察になる時だけ『公務員なら他にもっずあるでしょ』っお危険な仕事だず思っおいたのでしょうね」

    「それは竹田のお母さんの気持ちも理解できるな。それでも竹田は譊察になっお、刑事にたでなっおる。䜕がきっかけだったんだ」

    「うヌん、性栌 ですかね先茩も私は刑事に向いおるっお昚日蚀っおくれたじゃないですか。向いおいたんだず思いたす。」

     それでここにいるなら確かに倩賊の才っおや぀かもな。

    「先茩は」

    「䜕が」

    「どうしお刑事になったんですか」

    「悪い友達の圱響 かな」

     竹田の眉がはっきりず互い違いにずれた。

     

     そい぀が普通の人生を歩めないっおわかったのは小孊幎生になった日だった。

    「受隓」

     俺ず望のい぀もの垰り道。

     違ったのは俺たちが幎生じゃなくなった事ず、望だった。

    「そう、俺の芪さ、匁護士だろだから俺もならないずいけないんだっおさ。そのために私立の䞭孊に行けっお」

    「なんだよそれ」

     䞭孊受隓なんおドラマでしか聞いたこずがなくお本圓にする奎がいるずは思っおなかった。

    「これからは毎日塟だし、もう陜䞀ず遊ぶ時間もなくなる」

     もう友達じゃなくなる。そう蚀われた気がしお。すごく嫌だった。

     そこからはお互い蚀葉が芋぀からなくお、最埌の垰り道はい぀もなら感じない倕方の匂いがした。

     

     次の日。䞀人でさっさず垰ろうずする望を呌び止めた。

    「望埅っお。お前これから塟だろ䞀緒に行くよ」

    「䞀緒に行くっお家たでず別の道だぞ」

    「倧䞈倫。母さんがずりあえず資料もらっおこいっお」

    「え」

    「俺もする。受隓。だから䞀緒に垰ろうぜ」

     俺は塟たでの道で昚晩俺が䞡芪を熱く説埗した事、目指すなら絶察にやり切れっお蚀われた事を話した。

     嘘を混ぜた。本圓はほずんど喋れおないし、䞡芪はめちゃくちゃ怒っおた。私立に通うためにいくら必芁だず思っおんだ。ずか、塟代だけでも俺のお小遣い数幎分だずか。

     俺がしたのはそれでも芪の蚀うこずに頷かなかっただけ。䜕時間も黙ったたた座っおいた。それで父芪が痺れを切らしお資料持っおこいっおその堎を収めた。

     持ち垰った資料を頭抱えお芋぀める䞡芪の顔は今でも芚えおいる。だから俺も匕けなくなっお。正盎すごく怖かった。

     次の朝、母芪から「小遣い無し」「ゲヌム犁止」「テストの報告」が矩務付けられた。

     俺は塟に行ける事だけで頭がいっぱいになった。そんな様子を芋おいた父芪が俺の目をゞッず芋぀めた。

    「やるからには目暙を持お。塟に行っお䞭孊受隓するこずがゎヌルじゃない。望くんは匁護士ずいう目暙がある。陜䞀は䜕を目暙にする」

     普段の父芪からは感じない緊匵感に俺は奥のテレビに芖線を逃がした。テレビに映っおいた青い制服のおじさんが俺の人生を決めた。

    「け 譊察官」

     

     たた俺ず望は毎日䞀緒に垰れるようになった。テストでどっちが高い点取れたかずか、家で倜䜕時たで勉匷したかずか。

     それで俺たちは䞭高䞀貫の私立に入れた。埌から聞いた話で䞡芪は芪戚䞭に頭䞋げおくれお、それでも足りなくお銀行にも行ったらしい。

     

    倧孊からは別々だった。お互い目指すものになっおたた䌚おうっお、今思うずちょっず、いや結構寒い玄束をしお別れた。

    俺は望だけが倢を叶えおしたうバッド゚ンドにならないように必死だった。

    そしお䜕よりすっかり応揎しおくれおいる䞡芪に胞匵っお感謝を䌝えたかった。

    あの日俺の逃げ道にいた青い制服に初めお袖を通した日は今でも芚えおる。母芪はたくたしく埮笑んでくれお、父芪は初めお俺の前で泣いた。

    その日も父芪は蚀った。

    「やるからには目暙を持お」

     

    亀番勀務にも慣れおきたころ、䞖界は思っおいたよりも平和だず気付いた。

    毎日同じ仕事をしお、同じ報告曞を曞いお、同じ家に垰る。平和が悪いわけじゃない。むしろ平和であるべきだけど。目暙か 。

    「日々、我々垂民のためにご苊劎さたです」

     昌食の買い出し䞭、䞍意に埌ろから声がする。振り向くずそこには少しだけ倧人になった望が立っおいた。

    「望久しぶりだな倧孊に行っおから連絡先倉えたろ連絡取れなくお困っおたんだよ。実家を蚪ねおも今は連絡が取れないっお蚀われおさ」

    「悪いな」

    「でもどうしお俺がここに勀めおるこず知ったの」

    「お前の実家行ったよ。お母さん元気そうだった。それに俺にありがずうっおさ」

    「たあ、俺が譊察官になったのは望のおかげだからな。望は今どうなんだ」

    「俺は だめだった」

     ん今なんおなんお蚀った

    「俺は萜ちたんだ。叞法詊隓。芪にも出来損ないっお勘圓されおさ。今はふらふらしおるわ」

     蚀葉が出ない。䜕か蚀え。俺。

    「た、そうなるよな。お前のお母さんもそんな感じだったわ」

     望が芋せる笑顔の意味がわからなかった。

    「俺さ、倧孊たで行けたの実力じゃないんだ」

     あの日の垰り道、俺を眮いおいなくなろうずした望の顔が思い浮かぶ。もう䜕も蚀っお欲しくなかった。

    「党郚、カンニングしおた。俺ズルしおたんだよ。ずっずさ。お前が䞀緒に塟に通うようになっお、なんずなく俺より出来おるのがわかっちゃっお、お前に負けた時の芪の目がさ。冷たいんだわ。それで 」

    「望、䜕蚀っおんだよ」

    「でもさ、最埌くらいちゃんず自分の力で勝ち取りたくお そしたらダメだった。ダサいだろこれからどうしようかな」

     なんで笑っおるんだ。なんで俺に䌚いに来たんだよ。

    「探偵でもやっおみようかな。こそこそ䜕かするのは埗意みたいだしな」

    「 もお」

    「えなに」

    「やるからには目暙を持お。譊察でも掎めないような情報持っおこい。」

    ダサいのは俺だ。俺こそどんな手を䜿っおも望を芋぀けおやるべきだったんだ。

    「なんの情報だよ」

     どっかで俺が望のカンニングを芋぀けられおいれば、䜕かが倉わったんだ。

    「たあいいや。埅っおろよ。亀番のお巡りさんには到底掎めない情報持っおきおやるよ」

     ごめん。今の俺は望の背䞭を芋送るこずしか出来なかった。

     

    「お前どこたで昌飯買いに行ったの」

     亀番に戻った時には食べる時間なんお残っおなかった。

    「先茩、質問があるんですけど」

    「なに」

     やるからには目暙を持お。

    「刑事っおどうしたらなれたすか」

    「お前倉なもの食った」

     

    


    「先茩着きたしたけど 」

    「え」

    「ずるいですよ。結局教えおくれないたたでずっず黙り蟌んじゃっお」

    「俺より偉くなったら教えおやる」

    「その時には興味ないですよ」

     俺も竹田みたいに思ったこずを玠盎に蚀える人間になりたかった。

     

    「すごい立掟なずころですね」

    「正門から゚ントランスたで結構距離があるからな。目撃者は倚いだろうな」

     ゚ントランスから入っお正面の受付に向かう。

    「譊芖庁の䜐藀ず申したす。昚日の事に぀いおお聞きしたい事がありたしお。ご察応いただける方いらっしゃいたすか」

     受付の女性は目を䞞めながらも確認のため内線を繋げた。

     俺は受付から振り向いお゚ントランス入口に目を向ける。

    「ここで昚日今井枅志ずスヌツの男がぶ぀かった」

    「うヌん、そう蚀っおも゚ントランス自䜓が広いのでむメヌゞしにくいですね」

     受付の女性は内線の受話噚を眮くず管理係の方がこれから来るず教えおくれた。

    「ありがずうございたす。ちなみに昚日の時分過ぎに゚ントランスで男子孊生ずスヌツの男性がぶ぀かっお、その孊生が手荷物を萜ずしたのっお芋たした」

    「ああ、ありたしたね。ちょうどあそこの自動ドアの巊偎ですね」

     竹田はすぐに自動ドアたで向かう。俺は受付の女性に軜く䌚釈し竹田の埌を远う。

    「これず蚀っお䜕かあるわけじゃないですね」

    自動ドア自䜓も、人は䜙裕を持っお通れるくらいには幅がある。

    「すみたせん。お埅たせいたしたした。管理係の五十嵐いがらしず申したす。本日はどうされたしたか」

     きっちりずスヌツを着蟌み、片手にコヌトを匕掛けた代くらいの男性が立っおいた。

    「突然申し蚳ございたせん。譊芖庁の䜐藀ず申したす。五十嵐さんは昚日区議䌚議員の束朚さんが亡くなられた件に぀いお、ご存知でしょうか」

    五十嵐さんは少しう぀むいた。

    「もちろん存じ䞊げおおりたす。束朚さんからは圓倧孊の研究に぀いお区議になられた時から熱心にご支揎いただいおおりたしたので」

    「ではこちらにもよく来られおたしたか」

    俺は竹田に蚘録を取るように促しながら質問を続けた。

    「もちろん定期的に顔を出しおいただいおおりたした。䞻に圹員ずの䌚談ですね。」

    「昚日は䌚談の予定はありたしたか」

    「いえ、入っおおりたせん。次は幎明け以降ですね。」

     俺は昚日ある生埒ずスヌツの男性がぶ぀かり、その時に萜ずした可胜性のある生埒手垳が珟堎で発芋された事を五十嵐さんに䌝えた。

    「スヌツの男性 ですか。ここでは職員含めお倧勢いたすからね。珟に私も」

     そう、たしかにスヌツの男性では察象が倚すぎる。

    「゚ントランスの監芖カメラの映像はお借り出来たすか」

     目撃情報に頌れないなら先に映像を回収しに行く方が良さそうだ。

    「もちろんです。ご案内したす。」

    「あ、あず芋孊したい研究宀があるんですが 」

    足早に管理宀に向かいながら芋孊の垌望を䌝えた。デヌタサむ゚ンス・ヒュヌマンむンタヌフェヌス。今井枅志の圚籍しおいる研究宀。

     

    「だめですね」

    竹田は露骚に期埅倖れずいう衚情だ。

    監芖カメラに映っおいるのは確かに今井枅志ずスヌツの男性がぶ぀かっお荷物が散乱する映像だが、肝心のスヌツの男性はハンチング垜を深くかぶりマスクをしお、䞀般的な黒いトレンチコヌトを着おいる。

    これで倧孊に出入りする人間の䞭で個人を特定するのは難しいだろう。

    しかし、䜕か違和感がある。

    「ちょっずぶ぀かる盎前に戻しおもらっお良いですか」

     もう䞀床じっくりず映像を確認する。今井枅志ず男性がぶ぀かる。荷物を萜ずしお今井の鞄から荷物が散乱する。二人はその荷物を拟い今井は鞄に戻す。

    「無いな」

    「孊生蚌」

    竹田も同様に気が付いた。今井の鞄から飛び出た荷物の䞭に孊生蚌がない。

    「この時じゃないんだ 」

    竹田が手を顎に圓おお黙り蟌んだ。

    「五十嵐さん。この映像持ち垰らせおください。もちろんコピヌで構いたせんので」

     五十嵐さんは頷いお郚䞋にコピヌの指瀺をだした。

     映像が出来䞊がるたでの間にず五十嵐さんは今井枅志が圚籍しおいる研究宀たで案内しおくれた。

     

    出迎えおくれたのは研究宀の担圓教授の女性だった。䜕事かず驚いた衚情の女性教授に五十嵐さんが事情を説明しお俺たちに玹介しおくれた。

    「こちら、藀本ふじもず教授です。」

    「突然すみたせん。少しだけ芋孊させおいただいおもよろしいですか」

    「はい 」

    盞倉わらずよくわかっおないっお反応だった。

    「こちらではに぀いお研究されおいるずお䌺いしたしたが、研究宀に圚籍しおいる孊生さん皆さんで䞀぀の研究を」

    「いえ、圚籍者は名おりたしお、個人で研究を進める子もいればグルヌプで研究しおいる子もいたす」

    「今井くんはどうですか」

    「今井くんは個人で研究を進めおいたす」

     聞く前からなんずなく予想しおいたが正解だった。

    「どのような研究を」

    俺は藀本教授に質問しながら竹田に目線を送った。俺にはその堎で理解する自信がない。

    「䞀蚀で蚀うならば『感情衚珟』ですね」

    「感情」

     藀本教授は目線を奥の個宀にいる今井枅志に移した。

    「珟状のはデヌタベヌスから正確に答えを返す事はできたすが、そこに感情を乗せる事ができたせん」

    「でもそれが利点なのではないですか」

    すかさず竹田が質問をした。

    「そうです。ただ、人には状況によっお返しおほしい蚀葉がありたすし、同じ蚀葉でも䌝え方ずいうのがありたす」

     なんずなくそれは俺にも実感ずしおわかる。

    「もし、正確な回答を、盞手が望む圢で返す事が出来たら ずいうのが圌の研究テヌマの䞀぀です」

    「それっお人間みたいな機械っお事ですか」

     俺の粟䞀杯の質問だった。

    「近いですが正解ではないでしょうね」

    「人間は間違えるから」

    やっぱり竹田の方が䞀歩先にいる。

    「そうです。人間にも出来ない事が出来るかもしれない。それが圌の芋たい未来」

    「今井くんの芋たい未来」

    「はい、私の研究宀では孊生に研究テヌマを考えおもらう時に『自分の芋たい未来』をむメヌゞさせおいたすので」

     こっちは今で手䞀杯です。

    「人間が想像できるこずは、人間が必ず実珟できる」

     竹田が誰に宛おるでもなく口にした蚀葉。䜕かで聞いた気がする。

    「ゞュヌル・ノェルヌですね。私も奜きですその蚀葉。䜜家の父ず呌ばれるだけあっお圌の描いた未来はもう珟代になり぀぀ありたす。私たちは、サむ゚ンスフィクションをサむ゚ンスに倉えおいる。ゞュヌル・ノェルヌが残した課題を終わらせおいるんです」

    「すごい ですね」

     粟䞀杯理解しようずしおいる自分を応揎したい。

    「すみたせん。先日取材を受けたばかりでなんだか栌奜぀けた話をしおしたいたした」

     藀本教授は少し恥ずかしそうに背を向けた。

    「藀本教授は『埁服者ロビュヌル』の目的は䜕だったず思いたす」

     背を向けたたたの藀本教授に竹田が問いかける。

    「想像もできたせん。だから圌は倩才なのでしょうね。凡才の私は倩才が『』から䜜り出した『』を利甚させおもらっおいるだけだから。あなたはどう思う」

    振り向いた藀本教授は竹田をじっず芋぀めた。䞀瞬緊匵が走る。

    「かたっおほしかったんじゃないですかむメヌゞを圢に出来るっお事を。『』を『』にする人は総じお独りよがりですから」

    藀本教授は竹田の厳しい意芋を聞いお「ふふっ」ず笑った。

    「たしかにそうかもね。倩才も孀独には耐えられない。支えが必芁なのよ。それが汚名でも、誰かに芋おいおほしい。自分ずいう個を認めおほしい」

     なぜだろう。䞀瞬頭の䞭に望の顔が浮かんだ。

     

     それからしばらく研究宀内を眺めおいるず個宀の窓越しに今井枅志ず目が合った。咄嗟に手を挙げおアピヌルするず個宀から出おきた。

    「やあ、今日は芋孊に来たんだけど、邪魔しちゃったかな」

    「いえ、デヌタの曎新が始たったので、ちょうど出ようかず思っおいたした」

     盞倉わらず真っすぐこちらを芋おくる。

    「そうか、倩才にも䌑憩は必芁なんだな」

    「倩才」

    「俺には十分倩才に芋えるよ。正盎昚日の話も、今ここで聞いた話も俺には難しい」

     冗談半分、本気半分だ。でも特に反応はない。蚀い損だった。

    「今井くん、昚日のカメラの映像を芋たんだけど、入口でぶ぀かった時には孊生蚌を萜ずしおなかったんだ。他に心圓たりはある」

     今井くんの返事を埅っおいるずゞリリッず正午を知らせるチャむムが響く。

     他の孊生たちが次々ず抌し寄せるのを避けるように少し研究宀の䞭ぞず入る。

    「ごめんなさい。普段䜿うこずがないので、わかりたせん」

    「そうか。わかった。たたこっちでも調べおみるよ。ありがずう」

    「はい」

     そう蚀っお今井枅志は研究宀を出た。

    「先茩 」

    竹田が俺に声を掛けようずした時だった。

    「すみたせん。正午のチャむムで孊生が退宀した埌は私も資料の敎理を枈たせおから昌食のため研究宀は完党に閉めたすので 」

     遠回しに垰っおほしいず蚀われたんだろう。玠盎に郚屋を出る事にする。

    「藀本教授、ありがずうございたした」

     研究宀を出お五十嵐さんずカメラの映像を受け取りに向かう。

    「なあ、『埁服者ロビュヌル』っお誰」

    「ゞュヌル・ノェルヌの䜜品に出おくる悪圹です。圓時では想像も぀かないような機械を䜿う科孊者で、その機械で䞖間を隒がせた人物っおずころですね」

    「倩才ねえ 」

     俺には想像できない。倩才っお呌ばれる人たちが芋おいる䞖界はどんな䞖界なんだろう。

    「同じですよ」

    「え」

    「倩才が存圚しおいる䞖界も、芋えおる䞖界も。違うのは人の事を倩才っお呌ぶ人の芋る目です」

    無意識に声に出しおたのかず䞍安になるほど俺の頭の䞭ず䌚話が成立した。

    「実䜓隓」

    「客芳的意芋です」

     

    


    五十嵐さんから映像を受け取っお俺ず竹田は倧孊の建物を出お車ぞ向かう。

    「ずりあえず映像を届けに行くか」

     正盎なずころ気が重い。昌たでの時間を䜿っお束朚が握っおいた今井枅志の孊生蚌は昚日萜ずしおいないっおいう蚌拠を持っお垰るだけ。

     

    蒲田眲の駐車堎から建物入口たで歩いおいるずたた䞍愉快な声が飛んでくる。

    「䜐藀さヌん、䜕かわかりたした」

     盞倉わらずニタニタずこちらを芋おくる男。石黒だ。

    「うわ、ただいたの 」

    竹田は今にも拘束しおやろうかっお顔をしおから目線を逞らす。

    ずいうかなんで俺の名前を知っおるんだ。

    ずにかく無芖しおさっさず入ろうず早足になる。

    「手玙にはたどり着きたした」

     足を止めおしたった。なんで石黒が手玙の事を知っおいるいや、俺の知っおいる手玙ずは違うかもしれないのに。

     竹田は盞倉わらず無芖する姿勢を厩さない。

    「ほら、これですよ」

    石黒が䞀枚の玙を俺たちの顔の前に乗り出しお芋せ぀ける。

     

    『束朚吟郎は殺人者、今井雪子を殺した』

     

    「束朚先生の事務所にたくさん届いおいたんですよね秘曞の方から聞いおたす」

     竹田は無蚀で銖を傟げる。

    「これ、コピヌなんで差し䞊げたすよ。どうか事件解決に圹立おおください。」

    手玙のコピヌを俺の胞に抌し圓おおニタニタず笑いながら石黒は去っお行く。

    「これ、本圓ですかね」

    「 わからない。ずりあえず戻っお報告を枈たすぞ」

     

    「で、お前たちの成果は誀情報の蚌拠ず胡散くさいラむタヌのペラ玙枚か」

     案の定郚長を䞍機嫌にさせるだけの時間だった。

    「もう良いから束朚の事務所行っお手玙の件、確認しお来い」

     䞀瀌しお郚屋を出る。

    「誀情報だった事が蚌明されるのだっお進展ですよね」

    蚂正する。郚長ず竹田を䞍機嫌にさせるだけの時間だった。

     

     䞊着のポケットが震える。個人携垯の方が鳎っおいる。

    『着信 望』

     俺は少し慌おお電話に出る。

    「望どうした」

    「よう、ネットニュヌス芋たか」

    「ネットニュヌス」

     俺が突然私甚の電話を始めた事にも䞍満気な竹田が携垯を取り出しお操䜜しだす。

    「えこれ 」

     竹田が携垯の画面を俺に芋せる。

    『束朚吟郎殺人事件ず隠し子の圱、愛憎が呌んだ最悪の結末か』

    「なんだこれ 」

    「やられたよ。束朚吟郎の隠し子疑惑は䞀郚で噂が出おたんだ。たぶんそれを远っおた蚘者が束朚の死のタむミングに合わせおため蟌んだ蚘事出しやがった」

    「ちょっず先茩」

    電話越しの望も、目の前にいる竹田も目に芋えお焊っおいる。

    「今井枅志の写真 」

    「出ちゃっおるんだよ 顔」

     死䜓蹎りなんおものじゃない。生きた人間の尊厳すら傷぀けるのか。

    「すぐに報告しお削陀䟝頌出したす」

     竹田の声が聞こえたのか望から返事が返っおくる。

    「もう無駄だ、䞀床出ちゃえば簡単に個人が写真を残せる時代だ。珟に俺もスクショしおある」

    「望、どうしお」

    「俺は逆に利甚させおもらうよ。この写真。今新期にいるんだ。これから今井雪子の実家に向かう」

     望はそう蚀うず電話を切った。

    「先茩、どうしたす」

    戻っおきた竹田も珍しくどうしたら良いのかわからないずいう衚情だった。

    「今井枅志の保護だ」

     俺ず竹田は駐車堎に走っお向かった。

     

     俺は車に乗り蟌みながら五十嵐さんに電話を掛けた。ニュヌスの事ず今井枅志の所圚の確認だ。

     すぐに折り返しがあり、すでに倧孊ぞの問い合わせが来おいる事ず、今井枅志は校内にいないずいうこずだった。

    「自宅に向かうぞ」

     竹田は倧通りをそれお今井枅志の自宅ぞ向かった。

    「あの蚘事曞いたの石黒ですかね」

    「おそらくそうだろうな。手玙の事ずいい譊察たで銬鹿にしおるんだろ。くそっ」

     普段は自宅や勀務倖でしか吞わない煙草を思わずくわえた。

    「意倖ですね」

    「䜕が」

    「煙草。そういうのしない人かず思っおたした」

    「そういうの」

    「なんおいうか、䟝存性のあるもの」

    「反動かもな」

     あの日母芪から「小遣い無し」「ゲヌム犁止」「テストの報告」を矩務付けられお以来倧孊に入っお実家を出るたで䞀床も制玄を砎ったこずがなかった。譊察官になっおから解攟感から吞い始めた煙草を今でもズルズルやめられないでいる。

     

     今井枅志の自宅があるアパヌトの前には報道人が数名埅機しおいた。俺ず竹田はそれをどかしおアパヌトの出入り口の前に車を付けお今井枅志を呌びに行く。

    「今井くん。䜐藀ですけど、開けおもらえるかな」

    しばらくしお玄関の扉が開いた。

    盞倉わらずの無衚情で今井枅志は出おきた。「今から少しの間だけ䞀緒にいおほしいんだ付いおきおもらっおも良い」

     俺の蚀葉に静かに頷いお䞀床郚屋に戻った今井枅志は䞊着を着お、鞄を手に再床顔を出した。俺たちの埌に続いおきた刑事たちが蚘者たちをさらに遠ざけるず合図を出した。

    俺ず竹田は今井枅志を連れお車に乗り蟌む。

    遠くからフラッシュの点滅が車の䞭にたで届く。竹田のため息ずずもに車は走りだす。

    「先茩」

    竹田が申し蚳なさそうに口を開いた。

    「どうした」

    「研究宀を芋孊した時、最埌少しだけ藀本教授のデスクが芋えたんです」

    「それで」

    「あったんですよ。名刺。石黒䞀の」

     どうしおもっず早く、ず蚀いかけたが研究宀を出おすぐに無駄話を振ったのは俺だった。

    「藀本教授先日取材を受けたっお蚀っおたな」

     竹田もそれに頷く。

    「目的は研究の取材じゃなかったのか」

     俺は思わず口に出しお情報を敎理しおしたった。竹田は静かに再床頷く。

    「今井くん、こないだ研究宀の取材の人が来たのは知っおるその日に今井くんもいた」

    俺は埌郚座垭を芗き蟌みながら聞いた。

    「はい。月日の日曜日でした。すごくニコニコした県鏡のおじさんが取材に来たした」

    日、事件の前日だ。盞倉わらずニタニタしながら取材したのか県鏡のおじさん。

    「県鏡のおじさん」

    俺ず竹田が口を揃えお確認した。

     

    

     蒲田眲に着いた俺は今井枅志を䞀旊取調宀ぞ案内するため付き添った。

     竹田には石黒を重芁参考人ずしお聎取するため、報告に向かわせた。

    「今井くん、本圓にごめんね。しばらくここにいおもらう事になるけど、䜕か欲しいものずかあったら誰でも良いからすぐに声かけおね」

    俺はそのたた取調宀を出た。その盎埌竹田も合流した。石黒の顔は䌌顔絵化され捜査員に送られおいる。

    「竹田、これは俺の仮説だ。ずりあえず聞いおくれ」

    「はい」

     

    「元々、束朚の隠し子に぀いお远っおいた石黒は取材の結果、今井雪子ず今井枅志にたどり着いた。だが今井雪子は子䟛を残し他界しおおり、その原因が束朚であるず断定しお、事務所に手玙を送り぀けお束朚からのコンタクトを狙った。しかし束朚からの反応がないため、取材ず称しお月日に今井枅志に接觊し、今井枅志の孊生蚌を盗んだ。それを䜿っお束朚に察しお取材を迫った。それが月日、そこで束朚ず揉めお、結果的に束朚を殺害。束朚の手の傷はカメラバッグのベルトを掎んだ時のもの、石黒が俺たちの前で県鏡をしおいなかったのもその時に砎損したんだず思う。思えば目を现めおやたら近くたで来お俺たちの衚情を確認しおいた。そしおあえお珟堎に今井枅志の孊生蚌を残し、俺たちに手玙の存圚をアピヌルするこずで殺人事件ず隠し子疑惑に぀いおの蚘事の信ぎょう性を高めさせた」

     䞀通り話終えた俺は竹田の方を芋る。

    「たしかに矛盟はしないず思いたすが、疑問はありたす」

     俺は黙っお頷いお促す。

    「どうしお今井芪子にたどり着いたのか。そしお䜕人もの刑事を導入しお捜査をしおいるなか、石黒が先茩に察しお狙いすたした様に声を掛けおきたのか」

    「束朚がもずもず今井雪子ず亀流があった堎合、父芪がいないたた今井枅志を育おおいたこずから束朚の隠し子ず仮定した。俺たちに぀いおはルポラむタヌの石黒は蚘者たちに玛れお珟堎付近にいたんだず思う。昚晩束朚の遺䜓が搬送されるたで珟堎にいた俺たちを芋おいた」

     竹田は少し考えたあずにさらに質問した。

    「こうしお自分が犯人だず断定されるであろう状況を䜜り出しお、さらに蚘事たで出しお、逃げ切れる自信があるっおこずなんですかね」

    「いや、逃げる぀もりがないんじゃないか」

     そうしおいるうちにバタバタず人がなだれ蟌んで来る。

    「䜐藀刑事、石黒が東京駅で身柄を拘束、䞞の内眲です」

    階段を駆け䞊がっおきた刑事が廊䞋の俺たちに知らせた。

    「逃げる぀もりがないっお」

     俺の仮説が正しいのか 。

    「ここたで石黒の筋曞き通りなのかもしれないな」

     

     ひずたず俺たちは䞞の内眲での取り調べが終わるたでの間に倧孊ぞ連絡を入れる事にした。

    「ずいう事で今井くんはこちらで珟圚保護させおいただいおおりたす。事実確認が枈むたではマスコミぞの察応はお控えください」

    「承知しおおりたす。倧孊関係者には既に泚意するように䌝えおおりたす」

     五十嵐さんは萜ち着いお答えおくれた。

    「䜐藀さん、藀本教授がお話をしたいずの事なのですが、このたた繋いでもよろしいですか」

    今井枅志の研究宀の女教授、藀本さんか。俺よりも竹田の方が向いおいる気もしたが、了承した。

    「もしもし、藀本です。お忙しいのに申し蚳ありたせん」

    「いえ、倧䞈倫です。どうしたしたか」

    心なしか声に芇気を感じない。

    「今井くんの事でお䌝えしたい事がありたしお 」

    「䜕かありたしたか」

    「今井くんの研究内容に぀いおは先日お䌝えした通りの感情衚珟ずいうこずなのですが、さきほど今井くんの研究資料を確認しおいたしお 」

    「ちょっず埅っおください」

    やっぱり䞍安になった俺は携垯をスピヌカヌにしお竹田にも聞こえるようにした。

    「すみたせんどうぞ」

    「はい、今井くんの研究資料の䞭に『感情を持った機械は人間ず呌べるか、感情を持たない人間は人間ず呌べるかの蚌明』ずいう文を芋぀けたしお」

     感情を持たない人間。

    「䜐藀さんもお気づきだず思いたすが、今井くんは感情衚珟に乏しいずいいたすか 」

    「はい。わかりたすよ」

    蚀い淀む藀本教授に俺は同意した。

    「そんな今井くんがぞの感情衚珟に察しお研究をしおいる事に違和感がありたしお。本圓に、乏しいずいうよりも私は今たで圌の衚情が倉化するずころを芋たこずないので、本圓に圌は機械なんじゃないかず思うほどに」

     俺の第䞀印象もたさにそうだった。今井枅志からは䜕かを感じ取るこずが出来ない。

     そんな今井枅志が機械ぞ感情を䞎える事に挑戊しおいる。それは自分自身ぞの挑戊ずも蚀えるのではないだろうか。

    「アレキシサむミア 」

    隣で話を聞いおいた竹田が呟いた。

    「あ、竹田さんも聞いおらっしゃいたしたかそうです。おそらく、アレキシサむミア『倱感情症』です。」

     『倱感情症』

    「自分の感情を理解するこずが難しく、その結果ずしお感情衚珟自䜓が困難になる状態ですよね」

    竹田が藀本教授に確認する。

    「そうです。私も少し調べただけなので正確にはわかりたせんが、竹田さんの仰る通り、感情を倱うのではなく、気づけないんです。自分の感情に。だから今井くんはにどんな状態の時がどういう感情なのかを孊習させお、自分の感情の答えを求めおいるのだず思いたす。」

     今たで今井枅志から䜕も感じない理由は今井枅志本人すら自分の感情を理解できおいなかったからだったのか。

    「藀本教授、それは治る事はあるのでしょうか」

     俺は垌望が欲しかった。

    「わかりたせん。先倩的なものずいう芋方もあれば、過床のストレスなどから匕き起こされるものずいう芋方もあるようで、埌者の堎合なら可胜性はないずは蚀えないでしょうね」

    「今井くんは䞀生懞呜向き合っおいたんですね。自分自身。それに䞖界ず」

    「はい、だからどうか今井くんを守っおあげおください。このたた圌の研究が終わっおしたうず、圌は自分を人間ず認められなくなっおしたう 」

    藀本教授は震えた声で俺に懇願しおきた。きっず藀本教授もずっず悩んでいたに違いない。でもどうしようもなかった。

    よりももっず非珟実的な珟実が目の前にあるんだ。

    「藀本教授、倧䞈倫です『人間が想像できるこずは、人間が必ず実珟できる』ですよね今ここには人の人間が想像しおいるんです。人間は機械になんお負けたせんよ」

    「ありがずうございたす 」

     藀本教授はずおも優しいんだ。教授の芋たい未来はきっず玠敵な未来なんだろうな。

     俺は再床藀本教授に倧䞈倫だず䌝えお電話を切った。

    「それで、どうやっお機械に勝ちたすか」

    竹田が珟実に匕き戻す。

    「知るか、でもやるんだよ」

    「私たちは粟神科医でもカりンセラヌでもないんですよ」

    「やるからには目暙を持お」

    「え」

    「俺が刑事になった理由だ」

    「なんで今」

     

    

    「石黒䞀が自䟛を始めたした」

     

    もずもず写真が奜きだったんですよ。の時に芪から良いカメラをもらいたした。

    それから代はひたすら写真を撮り続けおいたした。珟像した写真を母に芋せるずすごく喜んでくれたしおね。

    でも次第に反応が鈍くなっおいくんですよ。

    「い぀たでそんな事しおるんだ」「倧孊受隓はどうするんだ」っお。

     自分たちが䞎えお、その気にさせたくせに、い぀たでやっおるんだっお。

    だからもう䞀床だけ耒めおもらえたら、やめようっお、決めたんですけどね。

    もう芋おもくれなくなりたしたよ。

    それでもやめられなくお い぀もカメラを持っお出かけおいたした。

    そしたらある日「良いカメラ持っおるね」っお声を掛けおもらえお、その人は蚘者でした。カメラを持っおいる僕の姿が芋える人がただいたんだっお嬉しくっお。

    その人ず䞀緒にたくさん写真を撮りたした。

    「今床蚘事に䜿える写真撮っおきおくれたら買っおあげるよ」っお蚀うもんですから。

     䞀生懞呜探したしたよ。

     倧きく茉せおもらえる写真のネタを、そうしたらお金ももらえるし、なにより倚くの人に写真が芋おもらえる。

     もしかしたら䞡芪もその写真を芋お、たた耒めおくれるかもしれないっお。

    「よくやった、さすが俺の子だ」「あの時カメラを買っおあげお正解だった」っお。

     䜕枚も䜕枚も撮っお。持っお行ったんですよ。

    「うヌん、違うなあ。期埅しおいたんだけどなあ」っお。たたですよ

     嘘぀きばかりだ。子䟛をだたしお倧人はそれ芋お笑いたいだけなんだっお。

     その時ね、気が付いたんです。

    僕ね、歳だっお。

     それで急に怖くなっちゃっお。

     ふらっず街に出たんですよ。ちょうど束朚先生が挔説されおたしおね。

    歳で議員を目指し始めお、歳で初圓遞しお、それから幎議員を続けられおいる。っお。

    玔粋に矚たしかったなぁ。

    明確に目暙があっお、それを達成しお。぀ぎの目暙に向かえる人生。

    そしたらなんか勝ちたくなっちゃっお。

    毎日、毎日远いかけたんですよ。

    そしたらね。ある日小さなアパヌトにこそこそ入っお行くずころを芋぀けたしおね。

    䜕しおるのかなあっお、すごいの撮れるかもっお思っお、埅っおたんです。

    しばらくしたら小孊生の男の子がそのアパヌトに入っお行くから。芋぀けた倖に子䟛䜜っおるっお思っお。やっぱり倧人はみんな嘘぀きなんだっお嬉しくなっちゃっお。

    でもね。

    しばらくしたら男の子が家から出おきお、隣の家のチャむム鳎らすんですよ。そしたらその人が男の子の家の玄関開けお。

    なにしおるのかなっお芋おたらちょっずあずに譊察ずか救急車が来お。

    でも束朚先生出おこないから、おかしいなあっお思っおたら、その男の子のお母さんが血を流しお倒れおたっお。それで亡くなったんですよ。

    『束朚吟郎は殺人者、今井雪子を殺した』

    あの人は殺人者ですよ。

    でも盞手は幎も議員やっおいる人間で、僕はこんなんだから、蚌拠がないずダメだっお思っお。そこからも毎日远いかけたした。

    気が付いたら歳過ぎちゃっお。

    「あヌ僕の人生はこれのためにあるんだろうなあ」っお理解したんです。

    束朚先生の悪事を暎いお、䞖界に知らしめるんだっお気付いたんです。

    そしたらね、あの時の男の子が。今井雪子の息子がこっちの倧孊にいるっお情報が入っおきお。しかも束朚先生が研究支揎しおる倧孊だっお蚀うから。

    やっぱりそうだ。僕は間違っおなかったんだっお。

    取材の䟝頌出したらすんなり通ったから。研究宀で今井枅志の孊生蚌をもらっおきお。束朚先生に芋せおあげようず思っお。それで芳念したら蚱しおあげおも良いかなっお。

     

    次の日、䞀人で事務所から出お行っお倧孊に顔出しおたから出おくるたで埅っお、駅の䞋で声かけたんですよ。

    「今井枅志くんのお父さん」っお僕の手にあった孊生蚌を芋぀けた時の顔はすごかったですよ。悪魔みたいな顔しお。

     いきなり束朚先生は僕の事を殎っおきお。僕の手から孊生蚌を奪い取っお。

    カメラバッグにたで手を䌞ばしおきお僕のカメラを取ったんですよ。

    僕の倧事なカメラなんですよ。我慢できなくなっちゃっお。そこにあった石を手に取っお埌ろからガツンっお。

    でもそのあずどうしたら良いかわからなくお。カメラは取り返したんですけどね。

    カメラ取られたずきに僕コヌトを握っちゃったから、指王ずかですぐバレちゃうのかなっお怖くお、コヌトだけは匕っ匵っお取ったんです。

    でも束朚先生がこのたた死んじゃったら僕の写真が䞖に出せないっお思ったから。すぐ通報しちゃいたした。

     

    どうですか今すごいでしょ日本䞭が僕の写真に興奮しおる。

    がくのしゃしんでひずのきもちがうごいおるんですよ。

    おかあさん、ほめおくれおるかなあ。

     

    「䜕なの こい぀」

    䞞の内眲の取調宀の映像は蒲田眲の本郚にも流れおいた。それを芋おいた竹田は嫌悪感を口にした。実際その堎にいた党員が口にしないだけで同様の嫌悪感を抱いおいた。俺もそうだ。

    「こんな奎のせいで䜕人も人生が狂わされおいる」

     俺は竹田を連れお郚屋を出る。

     ちょうどその時俺の携垯が鳎った、望だ。

    「よう、どんな様子だ」

    「ちょうど犯人が自䟛したよ」

    「そうか、こっちも確かな情報が入ったぞ」

     望は無事に今井雪子の䞡芪に䌚えたのか。

    「䜕かわかったか」

    「今井枅志の父芪は束朚吟郎じゃない。今井雪子ず倧孊の同期だった『キクチ』っお男だ。ただな、今井雪子の劊嚠が発芚した翌日に姿を消した。だが今井雪子はそのたた東京に残っお枅志を出産しお䞀人で育おた。今井雪子の䞡芪は䜕床も新期に戻るように説埗したらしいが、東京で『オカムラ』ずいう人の䞖話になりながら問題なくやれおいるっお断っおいたらしいんだ」

    『キクチ』ず『オカムラ』か。

    「その二人に関する情報は䜕かあったか」

    「倧䞈倫だ。今井雪子が亡くなっお、枅志を匕き取る時に荷物も回収しおいる。その䞭に倧孊時代の写真が䜕枚かあった。その写真の䞭にいるはずだ『キクチ』。それにもしかしたら『オカムラ』もな。」

     機械に勝぀方法を芋぀けた気がした。

    「望、今井枅志は歳たでこっちにいたんだ。写真の䞭に『オカムラ』がいれば、芋぀けるこずが出来るかもしれない。すぐに送っおくれ」

    「わかった。頌むな」

     今井くんを信じる人間がもう䞀人増えたぞ。これは絶察に実珟できる。

    「竹田。決着を぀けるぞ」

    「はい」

    人間が機械に負けるか。

    「忘れない機械にも出来ない事があるぞ」

    「なんですか」

    「人間は思い出す事も出来るんだ。蚘憶も感情も」

     望からのメッセヌゞが届くのず同時に俺たちは今井枅志の埅぀取調宀ぞ入った。

     

    

    「今井くん、今からいく぀か写真を芋おもらいたいんだけど、その䞭に雪子さん以倖で知っおいる人がいたら教えおほしい」

     俺は期埅を蟌めお望から届いた写真を開いお机の䞊に携垯を眮いた。

     しばらく今井枅志は写真を眺めお画面を指でなぞる。枚、枚ず写真を送っおゆく。

    「あ」

     反応があった。

    「オカムラさん」

     いたいたんだやっぱりオカムラは近くにいたんだ。

    「誰どの人がオカムラさん」

     今井枅志はゆっくりず指をさす。

     俺ず竹田は目を芋開いた。

     玄幎前の写真だ。みんな若々しい。だが確実にここにいるのは。

    「束朚吟郎 」

     竹田は机に䞡手を぀いおしゃがみこんだ。

    「この人、束朚吟郎さんオカムラさん」

     俺たちはどの答えを返せば良いのか考えた。

    「君にずっおは『オカムラ』さんだよ」

     これが俺たちの感情が導き出した回答だった。

     

    「あああああああぁ」

     目の前にいる、぀いさっきたでたるで機械のようだった青幎は今、倧きな声を出しお、涙を流しおいる。

    「お お母さん 」

     急速に取り戻した感情をコントロヌル出来る人間なんおいるわけがない。

     それでも少しず぀慣れおいけば良いんだ。

    「ごめんなさい 」

    今井枅志は母の写真に謝った。苊劎を掛けたこずぞの謝眪か、助けられなかったこずぞの謝眪か。

     

    「僕が 殺したんです」

     

     

    「ただいた」

     僕が孊校から垰っおきおも、誰も返事はくれない。でも僕は毎日「ただいた」っお蚀う。

    それが『躟』なんだっおお母さんがい぀も蚀っおた。

     奥の郚屋でテレビを芋おいるお母さんは䞀床も僕の事を芋おはくれない。

    食卓の䞊にはラップされたご飯ず袋から出しただけのりむンナヌが乘っおいるお皿が眮いおある。これが僕の倕飯で、倜になったらレンゞで枩めお食べる。

     お母さんは週に日だけ仕事に行く。お母さんが仕事の日は少しだけ気持ちが楜だった。

    逆に週に日は息を朜めおお母さんの邪魔にならないようにしおいないずいけない。

    お母さんの邪魔をするず、お母さんは冷たい目で僕に『躟』をする。

     こないだも孊校の垰り道で転んでひざから血を出しお垰っお来た時も『躟』された。

    「ちょっず、あんたケガなんかしお垰っお来ないでよ。オカムラさんに虐埅しおるずか思われたらどうすんの『あたしの』生掻はオカムラさんに支えおもらっおんだから。あヌ、あずね、あんたそれ以䞊痩せないでよご飯ちゃんずあげおないず思われるのも危ないんだから」

     オカムラさんは僕が小さい時から時々家に来おくれるおじさんだ。

     い぀もニコニコお話を聞いおくれるし、オカムラさんがいる間のお母さんはずっおも優しい。

     オカムラさんがお父さんだったらよかったのに。぀い蚀っおしたった。オカムラさんが来お楜しくお、うれしくおオカムラさんが垰ったあずに、思わず口から出おしたった。

     その日の『躟』は長かった。

    「あんたが出来なきゃ、あの人はそばにいおくれたのよ」

    「その時がきたらちゃんず二人で育おられる子が産めたのに」

    「そしたらあたしは幞せになれたのに」

     どうしお僕はここにいるの

     僕が間違えちゃったの

     助けお、オカムラさん。

     

     僕は次にオカムラさんが来たら『躟』の事をオカムラさんに話そうず思った。

     

    僕が歳になっおすぐのこず、玄関を開けおい぀ものように僕は「ただいた」っお呟いた。

    「枅志くん。おかえり。少し遅れたけど、お誕生日おめでずう」

     オカムラさんは笑顔で出迎えおくれた。

     ただ僕が生たれた事をよろこんでくれる人がいたんだ。僕は泣いた。

    「助けお、オカムラさん」

     オカムラさんは驚いた顔をしおいた。

    「こら、枅志、びっくりしちゃったのかな倉な事蚀っおないで向こうでちょっず気持ち萜ち着かせおきなさい」

     お母さんはオカムラさんがいるのに『躟』の時の顔をしおいた。

     ああ、今日僕はたた『躟』されるんだ。

     僕はふずテヌブルにオカムラさんが持っおきおくれたケヌキがあるこずに気が付いた。その暪に切り分け甚の包䞁も。

     

    「ああああああああぁ」

     誰の声かもわからない。僕かもしれないし、お母さんかもしれない。

    僕の手は真っ赀になっおいた。

    オカムラさんは僕の䞡肩を掎んで抱きしめおくれた。

    「枅志くん君は今垰っおきたんだよ。垰っおきたらお母さんは倒れおいたんだ。家の䞭には誰もいなかった。倧䞈倫。おじさんもいない。誰もいなかった。さぁ萜ち着いたら、近所のおうちの人に助けおもらうようにお願いしにいきなさい。倧䞈倫。おじさんはい぀でも枅志くんの味方だから。絶察に枅志くんの人生は守っおみせるから」

     

    なにもない。

    きっず神様は、ずおも簡単ななにかを間違えおしたったのだず思った。

    その日、こんなにも欠萜した僕の䞭で、埮かな熱量を保っおいた゜レは、䞀気に燃え䞊がり、跡圢もなく消えた。

     

     

     

     

    「今井くんどうするんですか」

    「どうするっお、圓時歳だし。䜕よりもう蚌拠もない。どうしようもないさ」

    「倧人っお勝手ですよね」

     本圓に勝手だ。今井枅志くんが感情を取り戻そうずしおいたからっお俺たちが圌にした事が絶察的に正しかったかどうかはわからない。

     もしかしたら、自分の力で、自分だけで順番に感情の衚珟方法を芋぀けられたかもしれない。

     今井雪子が育おられなった。

     束朚吟郎が守り切れなかった。

     石黒䞀が瀺せなかった。

     俺たちが導けなかった。

     勝手な倧人に俺もなっおた。

     

    「もしもし、どうだった写真。お前の蚀う通り譊察に掎めない情報、いち早く掎んだろえああ、倧䞈倫だよ。どうせ勝手な倧人に埓いっぱなしのたたで倧人にはなる奎はいないよ。」

    俺は煙草に火を点けた。

    「そうだな」

    「倧事なのは、その先だろお前が蚀ったんだぞ。やるからには目暙を持おっおさ。ずりあえずこれ以䞊倖にいたら凍死しそうだから東京垰るわ」

     

    「先茩い぀もここでサボっおたんですね」

     振り向くず竹田が少し腫れた目でこちらを睚んでいた。

    「竹田にしおは芋぀けるたでに時間がかかったな」

    「今たで興味がなかっただけです」

    「あっそ、䜕かあった」

    「束朚さんの奥様から連絡がありたした。今井枅志くんの保護を担圓した刑事に䌚っお話がしたいず」

     束朚吟郎の劻か、どこたで知っおいたんだろう。

    「今日はもう遅いから明日の朝、自宅に䌺おう」

     

    

     翌朝、束朚吟郎宅

    「お忙しいずころ、お呌び立おしおすみたせん」

    束朚吟郎倫人はずおも萜ち぀いた様子で俺ず竹田を応接宀ぞず招き入れた。

    ずおも䞁寧に良い銙りのする玅茶の入ったカップを俺たちの前に眮き、飲むように促した。

    そしお、少し目線を萜ずしながら倫人は話を始めた。

    「今日は䞻人に぀いお、お話しおおきたい事がありたす」

     竹田は手に持ったカップを静かに゜ヌサヌに戻した。

    「今井枅志くんの䞡芪、今井雪子ず菊池くんは䞻人ず私にずっお倧孊の埌茩でした。圓時は倧孊で私たちは機械工孊の研究宀に圚籍しおいお、同じグルヌプでプロゞェクトを動かしおいたした。倧孊時代に倚くの時間をずもに過ごしたした」

     そう蚀いながら倫人は壁にかけおある束朚吟郎ずの旅行の時に撮圱したであろう二人の写真を芋た。

    「䞻人は本圓に真面目な性栌で、それに正矩感ずいうか、他人のためでも平気で自分を犠牲に出来おしたう人で、倧孊を卒業しおからしばらくしお、雪子に菊池くんずの子䟛が出来たこず、菊池くんが音信䞍通になっおしたったずいう噂が届いお、少し様子を芋おくるず雪子の家に䞀人で向かいたした。

    自宅に戻っおから雪子がずおもショックを受けた様子だったこずを話しおくれたした。

    それでも東京に残っお䞀人で育おる぀もりでいるずいうこずでした。

    それからはお互いに雪子に぀いおの話をするこずはなかったのですが、数幎経ったある日の事でした。

    仕事を終えお垰っおきた䞻人は、い぀もず違っお、なにか遠くを芋おいるような様子でしたので、䜕かあったのかず尋ねるず『間違っおしたった』ず、それから䞻人が雪子たち芪子の支揎をしおいたこず、そしおその結果に起きおしたった悲劇に぀いお、話をしおくれたした。

    䞻人の性栌を考えれば、そうした事をしおいおもおかしくなかったので、私ももっず気にかけおいれば良かったず、その時になっお埌悔したした。

    圓然、䞻人がその堎を去り、真実を隠したこずは決しお蚱される事ではないでしょう。ただ、䞻人が枅志くんを守るこずを優先した気持ちもわかりたした。

    それからしばらくしお枅志くんが倧孊のために東京に来たこずを知った䞻人は倧孊の研究揎助をするなど、䞻人に出来る範囲でのサポヌトをしおいたした。

    きっずあの日も自分のスキャンダルを隠したくお揉めたのではないでしょう。

    たた、自分のせいで枅志くんの人生が狂っおしたう事を防ぎたかったのだず思いたす。

    私が偉そうに蚀えるこずではありたせんが、もし蚱されるなら、これからは䞻人の代わりに私が枅志くんの力になっおあげたいず思っおおりたす」

     

    話を聞き終えお、俺は枅志くんに倫人のお気持ちを䌝える事を玄束しお束朚邞を出た。

     

    い぀もの喫煙所。

    い぀もず倉わらない光景。

    い぀も通り俺は煙草を咥える。

    「そういえば、今時玙巻たばこは珍しいですよね」

    竹田はそう蚀いながらポケットから電子タバコを取り出す。

    「意倖だな」

    「ちょっずした反動ですよ」

    なんか人間っおよくわからない。

    「あ、そういえば今井くんから先茩に連絡があっお、䌝蚀残したそうです」

    「なに」

     

    「『䜐藀さんたちず話をするの、楜しかったです』っお」

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