阿修羅双生録アシュ&シュラ異能探偵第5期 日常編第12話「阿闍梨の誕生日」
十二月のある朝。
周防国分寺では奇妙なことが起きていた。
境内が静かだった。
酒呑童子は昼寝していない。
アキラも騒いでいない。
座敷童子も走り回っていない。
ぬらりひょんですら真面目な顔をしている。
千手阿闍梨は首を傾げた。
「何じゃ。」
嫌な予感しかしない。
実はその日。
千手阿闍梨の誕生日だった。
だが本人は知らない。
いや、正確には覚えていない。
阿闍梨は自分の誕生日など気にしたことがなかった。
しかし、今年は違った。
アシュたちが秘密裏に大作戦を進めていたのである。
発案者はアシュ。
実行部隊はシュラ。
暴走担当は酒呑童子。
不安しかなかった。
本堂の裏では作戦会議が行われていた。
「ケーキは?」
「準備完了!」
「飾り付けは?」
「完璧!」
「神様たちは?」
「もう来てる。」
「妖怪たちは?」
「勝手に集まってる。」
もはやお祭りだった。
夕方。
アシュが阿闍梨を呼びに行く。
「阿闍梨。」
「何じゃ。」
「ちょっと本堂へ。」
「また面倒事か。」
「違う。」
「本当か?」
「たぶん。」
「たぶんか。」
阿闍梨は苦笑した。
そして本堂へ入る。
襖が開いた。
その瞬間。
パンッ!
クラッカーが鳴った。
「お誕生日おめでとうございます!!」
大歓声。
本堂いっぱいの人影。
たいしさん。
ぼんさん。
かるさん。
りゅうくん。
よるちゃん。
アキラ。
座敷童子。
酒呑童子。
ぬらりひょん。
さらに。
帝釈天。
梵天。
龍王。
夜叉。
迦楼羅。
神々まで勢揃いだった。
本堂には手作りの飾り付け。
大きなケーキ。
子どもたちの寄せ書き。
商店街の人々からの手紙。
阿闍梨は言葉を失った。
静かだった。
アシュが少し不安そうに言う。
「怒った?」
阿闍梨は首を横に振った。
「違う。」
声が少し震えていた。
「こんなことをされたのは初めてじゃ。」
みんなが笑う。
シュラが言った。
「いつもお世話になってるから。」
たいしさんも続く。
「俺たちの師匠ですから。」
酒呑童子が腕を組む。
「世話になった。」
ぬらりひょんも頷く。
「わしもじゃ。」
神々まで頭を下げた。
帝釈天が言う。
「人と神を繋いだ功績は大きい。」
梵天も微笑む。
「誇ってよい。」
阿闍梨は黙っていた。
しかし、目には涙が浮かんでいた。
長い人生だった。
苦しいこともあった。
失敗もした。
迷ったこともあった。
それでも。
目の前にはこんなにも多くの笑顔があった。
「ありがとう。」
それだけだった。
だが、その一言に全てが込められていた。
人は一人では生きられない。
支えられ。
支えて。
そうして人生は続いていく。
本堂には温かな拍手が響いた。
その夜。
周防国分寺には優しい灯りがともり続けた。
誰もが笑顔だった。
そして。
明日もまた。
この家族のような日々が続いていくのだった。

