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猫生はきたたで、重くお、矎しい――写真家ず、境界を倱くした二匹の怪異 07

    境界猫は、ただ少し笑いの残る少幎の顔を芋おいた。

    声を出しお笑ったあず、少幎はすぐにそれを誀魔化すように口元を抌さえた。笑っおしたった自分に、少し驚いおいるようにも芋える。

    その仕草に、境界猫はほんの少しだけ目を现めた。

    さっき路地の隅で芋かけた時より、衚情はやわらかい。けれど疲れが消えたわけではない。垰りたくない理由も、垰れば蚱しおしたうずいう苊しさも、ただ少幎の䞭に残っおいる。

    化尟猫が楜しそうに少幎を構っおいるからずいっお、それで党郚が解決したわけではない。

    それは、たぶん化尟猫も分かっおいる。

    分かっおいお、わざず笑っおいる。

    境界猫は小さく息を吐いた。

    「ただ」

    その声に、化尟猫ず少幎が同時にこちらを芋る。

    境界猫は少幎だけを芋た。倜の灯りの䞋で、黒ず癜の毛色が混じった猫耳がかすかに揺れる。その顔は盞倉わらず䞍機嫌そうで、少し怖い。けれど、声だけは劙に萜ち着いおいた。

    「無理しお付き合う必芁はない」

    少幎は、反射的に背筋を䌞ばした。

    化尟猫は少幎の肩に腕を回したたた、少しだけ眉を䞊げる。

    「えヌ」

    「お前には聞いおない」

    「冷たいなあ」

    「黙っおろ」

    境界猫は短くそう蚀っおから、もう䞀床少幎ぞ芖線を戻した。

    「垰りたいなら垰ればいい」

    「  」

    「垰りたくないなら、いおいい」

    少幎は黙った。

    境界猫の声は冷たく聞こえる。けれど、突き攟しおいるわけではないのだず、化尟猫には分かった。境界猫はい぀もそうだ。倧事なこずほど、䜙蚈な食りを萜ずしお蚀う。

    優しく聞こえる蚀葉を遞ぶより先に、盞手が道を間違えないように、境界線みたいにすっず線を匕く。

    それが化尟猫には腹立たしいこずもある。

    でも今は、少しだけ助かった。

    自分が蚀えば、たた誀魔化しになる。からかいになる。甘やかしになる。無意識に誘うような蚀葉になっおしたうかもしれない。

    少幎に本気で遞ばせるなら、境界猫が蚀う方がいい。

    境界猫は少幎を芋たたた、最埌に蚀った。

    「どっちでもいい。――でも、自分で決めろ」

    倜颚が吹いた。

    歓楜街の喧隒は、さっきよりも少し遠くなっおいる。笑い声も、車の音も、店から挏れる音楜も、ただ消えおはいない。けれど、倜がほんの少しだけ薄くなり始めおいる気がした。

    街灯の光が、少幎の暪顔に萜ちる。少幎はすぐには答えなかった。化尟猫の腕から少しだけ身を離し、自分の膝に芖線を萜ずす。

    考えおいる。

    本圓に、考えおいる。

    垰るこず。

    垰らないこず。

    垰ったら蚱しおしたうこず。

    垰らなければ、家の䞭にいる誰かが心配するかもしれないこず。

    このたた知らない二人ず倜を過ごすこず。

    たぶん、少幎の頭の䞭ではいく぀もの答えが行ったり来たりしおいる。

    化尟猫は䜕も蚀わなかった。

    蚀えば、きっず少幎はたた困る。

    だから、黙っお埅った。

    境界猫も同じように埅っおいる。

    䞉人の間に、短い沈黙が萜ちた。

    やがお少幎は、小さく息を吐いた。

    「じゃあ」

    化尟猫を芋る。

    境界猫を芋る。

    奇劙な二人だず思う。

    知らない人たちだ。猫の耳があっお、距離感がおかしくお、蚀っおいるこずも時々めちゃくちゃで、今倜出䌚ったばかりなのに、なぜか逃げなくおもいい気がしおしたう。

    䞍思議だった。

    危ない気がするのに、嫌な感じはしない。

    それが䞀番、奇劙だった。

    少幎はほんの少しだけ笑った。

    「もう少しだけ」

    その蚀葉を聞いた瞬間、化尟猫の顔がぱっず明るくなった。

    「よし」

    少幎の肩を掎む。

    「採甚」

    「䜕にだよ」

    「今倜の仲間」

    「勝手に決めるな」

    少幎が即座に抗議する。

    境界猫は思わず笑った。ほんの短い笑いだったけれど、確かに笑った。

    化尟猫はその音を聞いお、少しだけ満足そうに目を现める。

    怒りはただある。

    寂しさも、完党には消えおいない。

    けれど、今倜はただ終わらない。

    そう思えた。

    「じゃあ、今倜の仲間ずしおたず䜕する」

    化尟猫が楜しげに蚀う。

    少幎は譊戒心をあらわにした。

    「その聞き方、すごく嫌な予感がする」

    「倱瀌だなあ。楜しいこずしか考えおないよ」

    「それが怖いんだよ」

    「境界猫、䜕か案ある」

    急に振られお、境界猫は化尟猫を芋る。

    「垰る」

    「华䞋」

    「华䞋するな」

    「今倜の仲間䌚議だから」

    「勝手に䌚議を始めるな」

    少幎は二人を芋比べお、たた額に手を圓おた。

    「本圓に俺、今日疲れおるんだず思う」

    「倢じゃないっお蚀っただろ」

    境界猫が淡々ず返す。

    「だからなんであんたが答えるんだよ」

    「聞こえたから」

    「さっきもそれ蚀っおた」

    化尟猫は笑った。

    少幎の反応は、いちいち玠盎で面癜い。怖がっおいるのに逃げない。呆れおいるのに笑っおしたう。そのちぐはぐさが、劙に愛おしい。

    化尟猫は少幎の肩を軜く叩いた。

    「倧䞈倫。怖いこずはしないよ」

    「その蚀い方が䞀番信甚できない」

    「でも隣のお兄さんがいるから平気」

    「さっき番猫っお蚀っおた人」

    「そう。優秀な番猫」

    境界猫のこめかみがわずかに動いた。

    「俺を劙な圹職に就けるな」

    「䌌合っおるよ」

    「嬉しくない」

    少幎が吹き出す。

    その笑い声を聞いお、境界猫は少しだけ黙った。

    化尟猫も気づいたのだろう。すぐには茶化さず、少幎の顔を芋る。笑ったあず、少幎はほんの少しだけ目を䌏せた。笑っおしたったこずを埌悔しおいるわけではない。ただ、久しぶりに力が抜けたせいで、疲れが戻っおきたような顔だった。

    「眠い」

    化尟猫が聞く。

    少幎は銖を振った。

    「眠くはない」

    「嘘」

    「嘘じゃない」

    「顔が眠い」

    「顔で決めるな」

    「じゃあ疲れおる」

    「それはたあ」

    少幎は吊定しなかった。

    「でも垰りたくはない」

    境界猫が蚀った。

    少幎は少しだけ考えおから、頷いた。

    「今は、ただ」

    その答えは静かだった。

    化尟猫は少幎の隣に座り盎し、足を軜く䌞ばした。境界猫は少し離れた堎所に立っおいたが、化尟猫が芋䞊げるず、諊めたように近くの䜎い段差ぞ腰を䞋ろした。

    䞉人が䞊ぶず、倜の街の音が少し遠くなった。

    呌び蟌みの声。

    車の音。

    誰かの笑い声。

    どれもただ聞こえおいるのに、さっきより薄い。

    「倉な感じ」

    少幎がぜ぀りず蚀った。

    「䜕が」

    「知らない人ず、倜に座っおる」

    「知らない人じゃないよ。今倜の仲間」

    「だから勝手に決めるなっお」

    「でも、ちょっず萜ち着くでしょ」

    少幎はすぐには答えなかった。

    境界猫が暪目で芋る。

    化尟猫も埅぀。

    少幎は、しばらくしおから小さく蚀った。

    「  たあ」

    化尟猫は嬉しそうに笑った。

    「ほら」

    「ほらじゃない」

    「萜ち着くならいいじゃん」

    「良くはないだろ」

    「䞖間的にはね」

    「そこ自芚あるんだ」

    「あるよ」

    化尟猫は䜕でもないように蚀ったあず、ふず思い぀いたように少幎を芋た。

    「ねえ」

    「䜕」

    「最初の印象、どう思った」

    少幎は䞀瞬、嫌な予感がした。

    本胜的に。

    「あ」

    ず声が出る。

    遅かった。

    化尟猫は、完党に暙的を芋぀けた猫の顔をしおいる。

    「ねえ」

    にこにこ。

    「最初の印象、どう思った」

    少幎は芖線を逞らした。

    「別に」

    「嘘だ」

    即答だった。

    「嘘じゃない」

    「嘘だね」

    「なんで決め぀けるんだよ」

    化尟猫はさらに距離を詰める。

    「綺麗なお姉さんに声かけられお、嬉しいっお思った」

    少幎の顔が赀くなる。

    分かりやすすぎる。

    境界猫が暪で吹き出しそうになっおいる。少幎はそれに気づいお、さらに顔を赀くした。

    「思っおない」

    「思ったな」

    「思っおない」

    「思った」

    「思っおないっお」

    化尟猫は楜しそうだった。

    心の底から。

    少幎は芳念したように倩を仰いだ。

    「  ちょっずは思った」

    「ほら」

    化尟猫が勝ち誇る。

    「でも」

    少幎は慌おお続けた。

    「綺麗だからじゃなくお」

    「うん」

    「なんか」

    蚀葉を探す。

    「䞀人でいる感じがしたから」

    化尟猫の笑顔が、少しだけ止たった。

    少幎は気づかない。

    「綺麗だったのもあるけど」

    「うん」

    「なんか、攟っずけない感じ」

    「ぞえ」

    化尟猫は目を现めた。

    予想倖だった。

    もっず単玔な答えだず思っおいた。顔ずか、胞ずか、声ずか、そういう分かりやすい反応を匕き出しお遊ぶ぀もりだった。

    けれど少幎は、劙に真っ盎ぐなずころを芋おくる。

    化尟猫が黙っおいるず、今床は少幎が銖を傟げた。

    「逆にお姉さんは」

    「ん」

    「なんで俺に話しかけたの」

    化尟猫は少しだけ笑った。

    そしお、倜空を芋䞊げる。

    街の光に薄められた星が、かろうじお残っおいる。

    「君が」

    ぜ぀り。

    「私ず同じ目をしおたから」

     
     
    30代事務員Threads×noteで副業育成䞭。リアルな実隓蚘録を初心者目線で発信䞭。 趣味で小説も執筆したり。

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