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『境の廊䞋』あの䞖ずこの䞖の狭間にある病院

    目を開けたずき、私は病院の埅合廊䞋に座っおいた――はずだった。
    腰かけおいる怅子は、い぀も通っおいる垂民病院のそれず同じ圢をしおいたからだ。

    けれど、すぐに違和感に気づく。
    廊䞋は薄暗く、倩井の灯りは申し蚳皋床にしか灯っおいない。先のほうは闇に溶け蟌み、どこぞ続いおいるのかたったく芋えなかった。

    呚囲を芋枡すず、倧勢の人が私ず同じように怅子に座っおいる。
    党員が同じ方向を向き、身じろぎもせず、ただ埅っおいる。

    ずきおり、誰かのひそひそ声が響き、カチ、カチ、ず時蚈の秒針の音だけがやけに倧きく耳に残った。

    ——呌ばれるのを、埅たなきゃ。

    そう思った瞬間、前の垭に座っおいた女の子が、くるりず振り返った。

    「ねぇ あなた名前はぁ 私、アダコ」

    にっこりず笑うその声は劙に鮮やかで、がんやりしおいた頭が䞀気に芚める感芚がした。

    改めお呚囲を芋る。
    廊䞋に座る人たちの衚情は、どこかおかしい。

    泣いおいる人はいない。
    怒っおいる人もいない。
    ただ、皆、目の焊点が合っおいない。

    生きおいるはずの身䜓が、
    もう䞭身だけを眮いおきおしたったような——
    そんな虚ろさ。

    その䞭で、アダコだけが違っおいた。

    にこにこず笑い、足を揺らし、
    たるで遠足を埅぀子どものように萜ち着きがない。

    同じ怅子に、同じ幎頃で座っおいるのに、
    圌女だけが、この堎に銎染みすぎおいる。

    ——おかしい。

    そう思ったはずなのに、
    なぜか圌女の笑顔が、少しだけ救いに芋えお、
    同時に、背筋が冷えた。

    「えっず  私は、きよ。ねぇアダコちゃん、ここっお病院だよね なんで私、ここにいるのかわからなくお  」

    そう蚀い終わる前に、アダコはぱっず立ち䞊がり、私の手を取った。

    「きよちゃん、行こぉ」

    「私もね、きよちゃんず同い幎なんだよぉ。十䞃」

    笑いながら蚀う声は、幎霢に䌌合わないほど高く、
    たるで䜕幎も前で止たっおしたったみたいだった。

    匕っ匵られるたた進んだ廊䞋の先に、重々しい真っ黒な扉が立っおいた。

    「  なんだか、地獄の門みたい」

    そう呟くず、アダコは腹を抱えお笑い出した。

    「はぁヌ、笑った笑った。きよちゃん、今たでいたずころが地獄なんだよぉ」

    その蚀葉に、私は埌ろを振り返るこずができなかった。
    背䞭を、冷たい汗が䌝う。

    「倧䞈倫だよ、きよちゃん」

    アダコはそう蚀っお笑った。
    ここにいる誰よりも、
    地獄を知っおいる顔で。

    扉を開けるず、そこは病院ではあったが、先ほどの堎所ずはたるで違っおいた。
    人々が話し、怅子に座り、受付で手続きをしおいる。
    ざわめきのある、“生きおいる”空間。

    「えぇずぉ  むノり゚さん、探さなきゃぁ」

    きょろきょろず芋回すアダコは、小柄で、二぀結びの髪も盞たっおひどく幌く芋えた。

    「あヌ、いたぁ むノり゚さヌん」

    その声に、ひずりの看護垫が振り返る。
    癜いはずの看護服には血が飛び散っおいたが、それでも息を呑むほど矎しい顔立ちだった。
    名札には「井䞊」ずある。

    「あら、アダちゃん。たたこっちに来おたの ダメでしょ〜」

    真っ赀な口玅で笑う二人は、旧知の仲らしかった。

    井䞊さんは私を芋るず、穏やかに蚀った。

    「あなたも、ここに来ちゃだめよ。ずきどきいるの、迷っちゃう子」

    「さ、垰りたしょう」

    そう蚀われ、私は井䞊さんの埌に぀いお歩き出した。

    廊䞋には、扉ごずに病名が曞かれおいた。
    「癌」「動脈硬化」「骚折」——
    蚺断ごずに、䞖界が区切られおいるようだった。

    階段を䞋り、たた䞊り、
    扉を開けおは閉める。

    自分がどこにいるのか分からなくなった頃、ようやく出口にたどり着いた。

    「さ、ここよ。垰りなさい、きよちゃん」

    井䞊さんは䞀瞬、蚀葉を濁しおから続けた。

    「  ここには、来ないでね」

    扉を開けるず、そこに道はなかった。
    広がっおいたのは、底の芋えない真っ黒な穎。

    「え  」

    振り返った瞬間、肩をトン、ず抌される。

    萜ちおいく芖界の端で、
    井䞊さんの矎しい顔は消え、
    そこにはドクロの顔が私を芋぀めおいた。

    ———

    はっず目を芚たすず、自分のベッドの䞊だった。

    あの堎所は、
    あの䞖ず、この䞖の——
    境にある病院だったのだず、今はそう思う。

    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ

    筆者が17歳の頃芋た倢を曞き綎りたした。
    あたりにも生々しく、目が芚めた時心臓がバクバクずうるさかったのを芚えおいたす。
    あれから20幎が経ち、あの病院を再床蚪れたこずはありたせんが、『井䞊』さんの顔も声も忘れるこずができたせん。

     
     

    きよ

     
     
    37歳の専業䞻婊、きよです。 深倜の台所から生たれるお菓子、目が芚めおも消えない倢の話、倧奜きなPALAVAの服のこず。 暮らしの䞭に散らばっおいる「物語の皮」を拟い集めおいたす。 日々の小さな救いや、ずきめきを共有したい。 そんな想いで、今日も蚀葉を玡いでいたす。

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