青年は青を探す
海を眺めていた。
色の失せた世界で、青年はひとり立っていた。
雲も、空も、鳥も、船も、すべてが灰色だった。
いつからこうなったのか、青年には分からない。
ただひとつだけ覚えている。
昔は青が好きだった。
空の青、海の青、着る服はいつも、青を好んで選んでいた。
青い服が似合うと言われたことがあったから。
今は、色を選べない。
今朝も適当に、灰色のシャツを掴んで家を出た。
青を思い出せれば、他の色も戻ってくる。
青年は、そう信じていた。
そう信じることで、ここまで歩いてきた。
「ここに海はないよ」
女性の声が後ろから聞こえてきた。
振り返るが、誰もいない。
どこかで聞いたことがある懐かしい声。
懐かしさというものを、久しぶりに感じた。
少し離れたところに、親子の姿が見える。
灰色の魚が竿の先で揺れている。
男の子が魚を見てはしゃいでいる。
青年は、また海を眺めた。
ここにいれば、忘れた何かを思い出せるかもしれない。
しばらくすると、遠くから船の汽笛が聞こえた。
低く、長い音だった。
その音を聞いた瞬間、頬に涙が伝っていた。
「おい、危ないぞ」
今度は、老人の声がした。
もういない、祖父の声に似ていた。
耳は覚えていた。
船の汽笛、波がぶつかる音、誰かとの話し声。
この場所の音を、身体だけが覚えている。
青年は、ポケットに手を入れた。
指先に何かが触れた。
取り出してみると、古い写真だった。
色褪せた一枚の写真。
そこには青年が写っていた。
顔は見えない。
3年ほど前、誰かと海を見に来た時の写真。
胸の奥が、少し苦しい。
「勝手に撮られたんだったか」
声に出した瞬間、写真の海が少しだけ青く見えた。
青年は写真を握りしめた。
まだ、全部は思い出せない。
ここで誰と何を話したのか。
なぜ、この写真を持っているのか。
何ひとつ分からない。
それでも、すこし安堵した。
忘れてしまったものも、どこかにまだ残っている。
この場所を覚えていた、自分の足のように。
青年は写真をポケットにしまい、また海を見た。
海は相変わらず灰色だ。
青を見つけた気がしたのは、ほんの一瞬だった。
気づいたら、また涙が頬を伝っていた。
「なんでおじちゃん泣いてるの?」
また声が聞こえた。
隣には、男の子がいた。
先ほどまで釣りをしていた親子だ。
父親は大荷物をもってゆっくりと歩いている。
「ねえ、なんで泣いてるの?」
「海が青く見えた気がしてね」
「海よりもおじちゃんの服の方が青いよ?」
青年は、自分のシャツを見た。
ずっと探していた青は、すぐそこにあった。
ターコイズブルー。
しばらくすると、鮮やかな青も、灰色に見えた。
青年は、それでもいいと思った。
青を何処に置いてきたのだろう。
そう思っていた。
けれど、違った。
青は置いてきたのではない。
ずっと、自分の近くにあった。
「そうみたいだ、ありがとう」
青年は、涙を手で拭って笑った。
海から吹く風が、少しだけ涼しかった。
あとがきのようなもの
小説を初めて書いた
小説になっているのかはよく分からない
エッセイなら、実話という元が自分の中にある
それを見ながら書けばいい
小説はエッセイと違い、
自由がありすぎる
選択肢も多すぎる
たった1000文字書くのに、10時間かかった
花澤薫さん、とらのすけさん、
良い機会をいただき、ありがとうございます
いい経験となりました
こちらの個人文学賞に参加しています
花澤薫さん、よろしくお願いします
他の方の作品一覧 9月20日まで
小説を書いてみようと思わせる
とらのすけさんの作品
学んだこと
小説は、宇宙に浮かぶ惑星のような世界。
