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蘭䞞、再び 第九話完

    第九話 圱は去りぬ


    ◇

    蝉の声が闇を抌し返すように響いおいた。
    小山の陣、関ヶ原を目前に控えた倜。

    埳川家康は、蝋燭の炎が揺れる䞭、黙しお察座する男の顔を芋぀めおいた。黒田長政――いや、その声が語り終えたものは、森蘭䞞ずいう名の若き小姓であった。

    「  それが、すべおか」

    声を䜎く萜ずしお尋ねるず、長政はゆるやかに頷いた。
    その目には、語り終えた者にだけ蚱される静けさず、どこかで䜕かを捚お去った者の圱が挂っおいた。

    家康は、そっず手元の朚簡に目を萜ずした。
    䌊賀の密教の笊号が刻たれたその札は、その重みが、幟床目かの政倉を生き延びた己の胞を深く刺す。

    「信長様は、茶の湯で  」

    「私の語りが、真実であるずは申したすたい。ただ、語らねばならぬず思ったのです。  矎しきもののために」

    家康は、その蚀葉を噛みしめた。

    「矎しきもの、か」

    ふず、か぀お自らが芋た、倪陜のような男の姿が脳裏をよぎった。
    尟匵の若き鷹。炎を埓え、時代を裂いお進んだ男。
    その最期を、どのように描くのか。どのように䌝えるのか。
    語りずは、真実を䌝える道具であるず同時に、時代を導く火ずもなり埗る――

    ◇

    「語りずは、真実そのものではない。されど、真実に近づこうずする意思のかたちじゃ」

    か぀お誰かが語ったようなその蚀葉が、家康の胞裏に静かに響いおいた。

    長政の語りには、敎いすぎた節がある。だがそれゆえに、虚ではない䜕かが䌝わっおくる。
    たるで、自らの内にすでに圢を成しおいた思いを、他者の口を借りお再確認するような感芚――。

    それは、“語り”の力であり、“信”のかたちだった。

    「長政――信長公の最期を知っお、そなたはどう思った」

    家康の問いに、男はひず呌吞ののち、たっすぐ答えた。

    「䞻君でございたした。そしお  呜をかけお守りたかった、唯䞀の方です」

    それは迷いのない声だった。
    森蘭䞞ずしおの過去ず、黒田長政ずしおの珟圚――どちらの生も、その蚀葉を支えおいた。

    「そしお、おぬしは  そのこずを、なぜ語った」

    問いに察する答えは、すぐには返らなかった。
    灯の揺れが、ふたりのあいだの静寂を瞫う。

    やがお長政は、ゆっくりず頭を垂れた。

    「蚗すためでは、ございたせん。私は、ただ  語るべきだず思ったのです」

    語るこず自䜓が目的である。
    聞く者の遞別も、䌝播の意図も、そこにはない。
    ただ、語る。それだけのこずが、時に呜を越えお遺る。

    家康は、胞の奥で䜕かが解けるのを感じた。

    語られたこずが、すべお真実であるずは限らぬ。
    だが、語られたこずがなければ、人は真実にすら近づけぬ。

    「  そなたの語り、しかず受け取った」

    そう蚀った家康の声に、静かな敬意が宿っおいた。

    ◇

    倜が深たるに぀れ、虫の声もたばらになった。
    家康はひずり、囲炉裏の前に腰を䞋ろしたたた、う぀むいおいた。

    あの語りは、真実だったのか。
    それを確かめる術は、もはやどこにもない。

    だが――。

    「もし、それが真実であったなら  この倩䞋は、あたりにも眪深いものよな」

    ひずりごちる声が、火の音にかき消された。

    信長は、本圓に謀反で死んだのか。
    光秀は、裏切ったのか。
    秀吉は、正圓に埌を継いだのか。
    そしお――
    自分は、䜕を芋お、䜕を信じ、䜕を継ぐのか。

    家康は掌を開き、朚簡の感觊を確かめた。
    その節には、かすかな刻印がある。䌊賀の密教の笊号――それだけでは意味をなさぬ、ただの印。

    だが、それを手にしおいるずいうこずは。
    䜕かを受け取り、䜕かを残さねばならぬずいうこずだ。

    家康は、朚簡を懐に、目を閉じた。

    思い出すのは、若き日の信長の背。
    誰よりも先を行き、誰よりも孀独だった背䞭。
    そしお、誰よりも、矎しきものを芋おいた男の目。

    「  語りずは、真実に近づこうずする意志か」

    家康はゆっくりず立ち䞊がった。

    「ならば、わしは――この倩䞋に、その意志を遺しおみせよう」

    足元に火が揺れた。
    その先に、ただ芋ぬ未来の圱があった。

    完


    ※ここたでお読みいただき、誠にありがずうございたした。
    歎史の陰に埋もれた“語り”に耳を傟けおくださったあなたに、心より感謝申し䞊げたす。この物語が、ほんのひず぀でも、あなたの蚘憶に残れば幞いです。ご感想など、お気軜にお寄せいただけたしたら嬉しく思いたす。
    未読の方は、こちらの䜜品もぜひご芧ください。

    ※「あずがき」を曞かせおいただきたした。

     
     
     
    本業の傍ら通勀電車で小説家目指す猫。満員電車が私の曞斎。是非フォロヌお願いしたす。 䞀日䞀回、䞀぀䞀぀䞁寧に投皿臎したす ★だれかの゚ッセむ100話達成 ◎マガゞンぜひご芧ください 創䜜昔話、北南屋の゚ッセむなど シェア拡散、嬉しいです ※Xは、䜿っおたせん。BOT停者泚意。

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