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光秀を蚎぀ 第䞃話

    北南屋

    第䞃話 圱のゆらぎ

    前線堺の厩れ


     堺の空は、い぀もより少し霞んでいた。
     早朝の颚が静かに茶屋の栌子を揺らし、枯町の掻気がただ目芚めぬたた、私は茶を䞀口啜った。

     信長様の呜で、この地に滞圚しお数日になる。
     歊将の鎧よりも、商人の声が幅を利かせるこの町には、戊の臭いがなかった。
     私はこの穏やかな空気のなかで、次の時代に぀いお思いを巡らせおいた。

     その平穏は、突劂砎られた。

     「埡屋圢様――」

     障子が荒々しく開け攟たれ、䜿者が息を切らしお駆け蟌んできた。
     顔は土のように青く、目は泳いでいた。

     「信長公が  本胜寺にお  蚎たれたず――」

     時間が止たった。
     いや、心が䞀瞬で凍ったのだ。

     「本胜寺が、燃えおいたす  明智光秀公の謀反にございたす  」

     私は茶碗をそっず眮いた。
     わずかに揺れる茶の氎面を芋぀めながら、頭の䞭で蚀葉を反芻する。
     信長様が、燃える 蚎たれる ――明智が

    静寂の砎綻


     呚囲はすぐさた隒然ずなった。
     譊護の者たちは刀を抜き、家臣たちは自害の支床に動き始めおいた。
     誰もが、これが“終わり”であるかのように振る舞っおいた。

     だが私は、座したたた動かなかった。
     この報せは、あたりにも敎いすぎおいる。

     なぜ、堺にたでこれほど速やかに䌝わる
     なぜ、敵の名がはっきりしおいる
     なぜ、火なのだ

     そしお、なぜ――遺䜓が芋぀からぬ

     あたりにも、郜合がよすぎる。
     たるで、誰かに語っおほしいような“筋曞き”ではないか。

    家康、動かず


     「殿、お芚悟を」

     近䟍の䞀人が、短刀を差し出しおきた。
     自害を促すその手は震えおいた。

     私は、䜕も蚀わずにそれを撥ね退けた。

     「  ただ早い」

     声は冷たく響いた。

     「信長様が蚎たれた。それは事実かもしれぬ。だが、それだけでは足らぬ。
     誰が埗をした 誰が語った 誰が火を点けた」

     その問いに答えられる者は、いなかった。

    圱の決断


     私は静かに立ち䞊がった。
     壁の掛け軞が揺れおいた。信長様が莈っおくれた曞である。
     「倩呜を知る者は、動ぜず」

     私は、自らの倩呜を悟った。
     それは、死ぬこずではなかった。
     “語られた真実”を、そのたた呑み蟌むこずでもなかった。

     私は――生きお、確かめる。

     「すぐに支床をせよ。京を離れる。䌊賀を抜け、䞉河ぞ垰る」

     その呜什に、家臣たちは䞀瞬ためらった。
     だが、次第に党員の目が定たり、動き始めた。

    炎の蚘憶


     出立の準備をしながら、私は脳裏に“火”の光景を思い浮かべおいた。
     いや、私が芋たのではない。
     誰かが、そう語った火の圢――
     本胜寺に立ち䞊る煙、燃え尜きた寺の柱、焌け残らぬ遺䜓。

     それは、事実ではなく、事実ずしお語られた像だ。
     ならば、その像を描いた者こそが、この劇の䜜者であるはず。

     信長は死んだ。
     だが、その“死に様”には、ただ語られおいない䜕かがある。

    山ぞ向かう足音


     堺の町を離れ、私は山路ぞ向かった。
     颚は冷たく、背には炎の幻圱が残っおいた。

     私は、生き延びねばならない。
     信長の死を、“誰が語ったのか”を芋極めるために。

     沈黙は、やがお語りずなる。
     語られすぎた真実の隙間から、もう䞀぀の物語が、ゆっくりず立ち昇っおくるのを埅ちながら――。

    第䞃話 圱のゆらぎ

    䞭線山の蚘憶


     雚䞊がりの道は滑りやすく、草の根がぬかるみに埋もれおいた。
     山の奥、足を螏み入れたこずすらないような叀道を抜け、私は䞉河を目指しおいた。

     䌊賀は危険だった。
     地䟍、山賊、野䌏、誰が敵か味方かも分からない。
     それでも、私は行かねばならなかった。信長の死に、“語られぬ理由”を感じおいたからだ。

     そしお私は、道䞭で思い出す。
     か぀お私の前を歩き、あるいは䜇み、あるいは笑っおいた男たちのこずを。

    䞀 信長ずいう“火”


     初めお信長様ず察面したのは、十代の終わり。
     今川矩元を桶狭間で蚎った盎埌、私の評䟡はすっかり倉わっおいた。

     「小僧ず思っおいたが、なかなか面癜い男よ、埳川よ」

     そう蚀っお、圌は私の肩を叩いた。
     嚁圧感、軜口、そしお、あの目。
     すべおが“芇”だった。

     あの人には、決しお正矩などずいう蚀葉は䌌合わなかった。
     圌の思想に近いのは――焚き火だ。

     「焌いおしたえばよい。腐った朚を残すな。新しきものは灰の䞭から生たれる」

     火は、道具であり、象城だった。
     そしおそれは、圌自身の圚り方でもあった。

     その圌が、たさか火に焌かれお死んだずいう。
     それは、あたりにも皮肉で、あたりにも象城的で――あたりにも、出来すぎおいた。

    二 光秀ずいう“間”


     明智光秀ず初めお䌚ったのは、信長様の宎垭だった。
     圌は寡黙で、酒の堎でも声を荒げるこずはなかった。
     だが、目は笑っおいなかった。垞に、䜕かを枬っおいた。

     「家康様、矩ずは思慮ず忠誠の䞭間にございたすな」

     圌はそう蚀った。

     信長に仕えながらも、䌊賀の血を匕くその背景を、私は知っおいた。
     信長が䌊賀を焌いたずき、光秀は目を䌏せおいた。
     だが、呜什には埓った。それが、忠矩ずいうものだず、私もたた信じおいた。

     その光秀が、本胜寺で火を点けた
     その行動は、矩か、埩讐か、誰かの蚈略か。
     ――わからない。

     だが、確かに䞀぀だけ芚えおいる。

     「矩ずは、声にはせずずも、黙しお遞ぶものでございたす」

     圌はか぀お、そう蚀った。
     そしお、あの倜――圌は、黙しお“語られた”。

    䞉 秀吉ずいう“語り”


     矜柎秀吉。
     誰よりも饒舌で、誰よりも腰が䜎く、誰よりも“掎めぬ男”だった。

     信長様が死んだずいう報を受けおから、秀吉は䞀歩もたがわず“正しい道”を歩んでいる。
     光秀を蚎ち、信長の仇を取り、倩䞋の名を語り盎しおいる。

     早すぎる。
     䞊手すぎる。
     敎いすぎおいる。

     か぀お圌は蚀った。

     「家康様、“物語”ずいうのは語った者の勝ちです。
      真実などは、そのあずで、垳尻が合えばよい」

     私には、到底蚀えぬ蚀葉だった。
     だが、民はそれを信じる。
     敎った語りは、乱れた真実よりも、遥かに心地よいのだ。

     それが圌の歊噚だった。
     火の埌に残る“語りの煙”を、圌は自圚に操っおいた。

    四 官兵衛ずいう“県”


     黒田官兵衛。

     信長亡き埌の䞖においお、唯䞀、秀吉を静かに芋぀め続ける男。
     私はその名を、山䞭にいおも忘れるこずはなかった。

     「我らは語らぬ。蚘すだけです」

     官兵衛はそう蚀った。
     その蚀葉に、私は深く頷いたこずを芚えおいる。

     語る者は語る。
     だが、語らぬ者は、語られた埌を、芋抜く。
     火が点けられ、煙が広がった埌で、その“焚き付けた者の圱”を远いかける。

     私は、官兵衛がどこたで知っおいるのかを知りたい。
     圌ならば、火の痕から、蚀葉の跡から、䜕かを掎んでいるかもしれぬ。

    五 語られた炎、語られぬ圱


     私は今、炎から逃れおいる。
     信長の死が生んだ混乱から、物語が収束し぀぀ある䞖界から、ただ䞀人、離れようずしおいる。

     だがそれは敗北ではない。
     私が芋たいのは、語られた真実の“䞋”にある、語られなかった蚘憶だ。

     信長が死んだこずは、もはや誰も疑わない。
     だが、なぜ、あの倜、あの堎で、あのように、あのような“語り口”で――それは誰が定めたのか

     道はただ続いおいる。
     雚は止んだ。颚が也いおいる。
     私の前に、火の残り銙が挂っおいた。

    第䞃章 圱のゆらぎ

    埌線沈黙の噚


     䌊賀を抜け、ようやく人里の灯が遠くに芋え始めたころ、私は銬を䞋りた。
     䜓の疲劎は限界に近かったが、心の䞭には、ただ剣のような緊匵が残っおいた。

     䞉河は、もうすぐだ。
     だが、戻るずいうこずは、“語られる戊堎”ぞ戻るこずでもあった。

     私は、自分がどう圚るべきかを考えおいた。

    䞀 語られた者たち


     火に焌かれた織田信長。
     火を点けたず語られる明智光秀。
     火を蚎ち、語り盎した矜柎秀吉。
     火の圱を静かに蚘す黒田官兵衛。

     圌らはいずれも、語られた。
     勝手に語られた者もいれば、自ら語った者もいる。
     だが、いずれにせよ、“語られる”ずいうこずは、他者に身を明け枡すこずでもある。

     私は、語られたくはなかった。

    二 沈黙の戊術

     信長様が生きおいたころ、私は垞に“副将”であった。
     䞻の圱に培し、矢面に立たず、最埌に動く者。
     それは決しお卑怯ではない。
     むしろ、最埌に立っおいる者こそが、未来を遞ぶ資栌を持぀のだ。

     語る者が道を䜜り、語らぬ者がその䞋に道筋を読む。

     「倩䞋を語るは、勇。
      倩䞋を語らぬは、忍。」

     誰かがそう蚀っおいたか、それずも自らそう定めたのか――もはや定かではない。

     だが今、私は確かにそう感じおいた。

    䞉 “語らなかった”蚘録者


     官兵衛がもし、信長の死に別の解釈を持っおいるずすれば、私は圌を芋おおくべきだろう。
     秀吉が勝者ずしお物語を固めた今、それに抗い埗るものは“語られぬ蚘録”しかない。

     その蚘録が、埌の䞖に䜕かを遺すのかどうかは分からない。
     だが、いた語られた物語が、果たしお“真実”であるかどうか――
     それを、沈黙のうちに芋守る者が必芁だ。

     私はその圹を買っお出る。
     蚘さず、語らず、ただ残る。

     語らぬずいう遞択は、逃げではない。
     それは、時に最も匷い遞択なのだ。

    四 静かな着地


     倕暮れ、䞉河の囜境に立ち、私は銬の背で目を閉じた。

     信長のように燃えるこずは、できない。
     秀吉のように語るこずも、できない。
     光秀のように裏切るこずも、官兵衛のように読み解くこずも、私はできぬかもしれない。

     だが、私は残る。

     語られなかった蚘憶を、沈黙の䞭に保ち、
     誰よりも長く、䞖界の倉転を芋届ける。

     それこそが、私の圹目だ。

    五 圱は、語らず


     火のように明るくなく、
     氎のように穏やかでもない、
     ただ、光を遮り、物の圢を瀺す“圱”。

     私は圱であればよい。
     炎が照らすものを映し、真実の歪みを浮かび䞊がらせる存圚ずしお。

     信長が死に、光秀が死に、秀吉が語るこの時代に、
     誰かが、語らないたた、残らねばならぬ。

     私は、沈黙を遞ぶ。

     圱の䞭で。

     
     
     
    本業の傍ら通勀電車で小説家目指す猫。満員電車が私の曞斎。是非フォロヌお願いしたす。 䞀日䞀回、䞀぀䞀぀䞁寧に投皿臎したす ★だれかの゚ッセむ100話達成 ◎マガゞンぜひご芧ください 創䜜昔話、北南屋の゚ッセむなど シェア拡散、嬉しいです ※Xは、䜿っおたせん。BOT停者泚意。

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