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《連茉》「新しい颚は吹く」  #1 トワの倏

     玄関を䞊がるずトワは、螵を䜿っお玠早く靎を脱ぎ、䞀目散に廊䞋を颚呂堎ぞ進む。みしみしず廊䞋が鳎った。履き朰されたスニヌカヌはタむルの䞊で、゜ヌルが倩を向いた。  
     持ち䞻から芋攟され、所々に泥の付いた癜いキャンバス地のコンバヌスは螵はすり枛りっおいた。
     トワの垰りを予感しお玄関たで迎えに出たチャトラはトワの動向をじっず芋おいる。野良猫だったチャトラ。5幎前、この家に䜏み着いた雌の猫だ。茶トラの猫だから、チャトラ。かたっおほしいチャトラは口ず耳の間の偎頭郚からゎロンず身䜓を傟けお、床に暪になっお、トワに芁求した。チャトラはノドを鳎らしおトワを迎えようずした。通りすがら、トワはチャトラの頭をポンずやさしく叩いた。チャトラは理解を埗たようにニャンず短く鳎いた。玄関からたっすぐに颚呂堎に䌞びる廊䞋。その右には台所、巊には居間がある。廊䞋はトワの足の重みずずもにキュンず音を立おお、足の䞻を远った。

     広島電鉄宮島線の高須駅を降り倪田川の攟氎路に進み、5分ほど歩いた䜏宅街。晎倩の午埌、倕暮れの少し前に空からオレンゞがあちこちに降りおいた。その光が䜜った圱が、家々の軒先に共通の知らせを送り届けおいた。それは倕食の支床をするこずだったり、庭に氎を撒くこずだったり、広島の空に祈りを捧げるこずだったり。数分歩けばある川から届けられる氎の銙りだったり。
     平成30幎8月。未知なる幎号の未知なる時代で暮らす平成の最埌の幎の広島は、前月の倩灜により閉塞感があった。

     トワが通り過ぎた廊䞋にはシャツやズボン、仕事の制服が䞊び、脱衣所の前にたどり着く頃には党裞に近かった。パンティずブラゞャヌが掗濯機の蓋の䞊に無造䜜に眮かれた。トワの身䜓に曇りガラス越しの陜の光が柔らかくあたり、若々しい身䜓の発色が脱衣所に明るさを䞎えた。23歳のトワは、その若々しさを隠し持っおいた。

     朚枠の匕き戞がレヌルを這う音は居間たで届いた。トワは早足に氎色のタむルを歩き、シャワヌヘッドを手に取った。ノブを回すず勢いよく氎が连った。その冷たい砎片がトワの足の指の圓たり、ぎりっずした感芚が䌝わった。氎はタむルの目地を這う。氎分を含んだ陜が狭い颚呂堎に立ち蟌めおいる。その光が優しいベヌルを䞋ろしおいた。
     连る冷たい氎を党身に济びた。口を倧きく開き、シャワヌヘッドから出る氎を顔の前に向けた。勢いよく攟たれた氎はトワの顔面に圓たり、氎を䞀気に口腔に含んだ。その氎を䞊手に舌を䜿っお䞀回りさせるず、タむルに向けお、ぺっず吐き出した。銖から胞、腹から臀郚、脚ぞず氎を回した。トワの身䜓から滎り萜ちた氎滎がタむルの䞊で音を立おた。
     汎甚のシャンプヌを頭から振りかけた。玠早く頭を掻き毟るず、粗い泡がトワの頭を包んだ。シャワヌヘッドの氎はボブヘアヌの髪を䌝わり、癜い泡ずずもに床に滎り萜ちる。
     トワは雑に蛇口を捻り、氎を止めた。きゅっず音がしお、氎が止たった。足早に脱衣所に向かった。脹脛に皋よく筋肉が付く现く癜い足が぀いお行った。
     日照りの䞋での仕事の汗を流し萜ずしたトワは、脱衣所で玠早く䜓を拭いた。タオルの起毛がトワの身䜓に圓たり、氎分を吞い取る。肌に圓たる感觊は心地よい。
     䞋着を着けるずき、足の小指の爪先がパンティヌに匕っ掛かった。構わずトワは尻たでたくし䞊げた。きれいな曲線を描く尻にパンティヌは匵り付いた。それから腕を背䞭に回しお、ブラゞャヌのホックをはめた。その腕は现く、肘のずころで鋭利に曲がった。
     掗面台の䞊の鏡に映る自分の姿を䞀瞥した。
     䞞い茪郭の顔、倧きく䞞いの目に黒い瞳。158センチ、平均的な背の高さ。それず釣り合いが぀く䜓躯。きれいな曲線の腰のくびれ、膚よかな胞を芋お、
     たぁ、こんなもんか 
     ず独りごずを蚀った。
     トワは脱衣所にある小さな窓を開けお䞀気に颚を入れた。その颚がトワにあたり、身䜓の氎分を飛ばした。適圓に遞んだ服を着お、ボブの髪をバスタオルで掻き回すように也かしながら、廊䞋を歩いた。たた廊䞋が鳎ったのかず思ったら、トワの口笛だった。

     居間にいたのは効のサチだった。
     サチは本圓に䜓぀きがトワず䌌おいた。顔の茪郭も、目や錻も圢もたるで双子であるかのようであった。髪型もボブスタむル。服の趣味も高いものは奜たない。ナニクロやのものを買い求め、それで十分であった。だから、服は共有するものも倚かった。
     ただサチには生たれ぀き、巊の頬に諞島を真䞊から芋たような玫色の痣があった。

     サチは扇颚機にあたり、アむスキャンディヌを舐めおいた。タンクトップに短パン姿のトワを芋お、
    「おかえりヌ、トワ。アむス食べるん」
     ずサチは玠っ気なく聞いた。
    「ただ、ええ。埌で食うわ」
     ずトワは濡れた髪をただバスタオルで也かしながら答えた。
     少し距離を眮いお、自分にも扇颚機の颚があたるように座った。サチず同じように胡座をかいお座った。叀びたモヌタヌはうねりを䞊げ矜を回し、扇颚機の銖は、時おり、カクカクず音を立おながら呚り、ふたりに家の銙りずずもに颚を送った。

     サチずは、祖母が幞せを願っお぀けた名前だ。祖母の初江は広島に原子爆匟が萜ちたずき、広島平野、デルタの河口近くの江波ずいう街に暮らしおいた。7歳だった。
     トワたちの母、矎接子の母である初江は今は広島城の近くの老健斜蚭に入所しおいる。
     トワもサチも時間ができるず、その老健斜蚭ぞ初江に䌚いに行く。
     斜蚭の2階の角が初江がいる郚屋だ。玄関を䞊がり、手続きをしお、階段を登るず、小走りにその郚屋ぞ向かう。
    「ばあちゃん、来たでっ」
     トワは、初江が入居しおいる郚屋に入る前に、声を䞊げおしたう。
    「ばぁヌちゃヌん、䌚いたかったで」
     すぐにサチも声を出す。
      もうほずんど目が芋えない初江だが、ふたりの声が聞こえるず、ベッド暪の床頭台においおある県鏡をかける。トワもサチも初江に駆け寄っお抱き぀く。小さくなっおしたった初江は笑みが溢れる。
    「仲良くやっずるね、よかった、よかった」
     ずふたりの頭を撫でる。

     今ずなっおは、かけがえのない姉効。それでもか぀おはふたりの間に喧嘩が絶えなかったずきもあった。
     トワが8歳で、サチが3歳の頃だった。トワはサチの髪の毛を掎み、サチの頭を振り回したりもした。母芪や父芪の愛がサチに向けられおいるず思ったこずが原因だった。
     それでもサチはトワのこずが倧奜きだった。
     トワの苛立ちは父母が䞍圚のずきに、サチに向けられたりした。
     サチは無䞋に蹎られ、髪を毟られた。そのたび、サチは祖母に駆け蟌んだ。
     祖母は、
    「ケンカをするのは人間がするこずじゃないけん、戊わないように生きるのが人間じゃけん」
     ず蚀っお、サチの背䞭を撫で、トワを諭した。

     サチが怪我をした時があった。
     そのずき、父も母も祖母も䞍圚であった。 
     サチは食噚棚にしたっおあるお菓子が食べたかった。
     サチが倧奜きなクッキヌだった。
     背の䜎いサチが手を届かない所にあった。どうにかしお、それを手に入れ、口にしたかったサチは、怅子を持ち出した。それを食噚棚の前に眮き、怅子の䞊に登りクッキヌを手に入れようずした。
     トワは居間でテレビを芋おいた。
     ドンず倧きな音が響いた。
     台所から聞こえた。
     怅子の䞊の登ったサチがバランスを厩し、床に䜓が叩き぀けられたのだ。
     トワは䞀瞬、躊躇した。しかし、テレビをリモコンで切っお、台所に駆けた。
     扇颚機は颚の送り䞻を倱った。
     サチは腹を抱えおうずくたっおいた。唞り声を䞊げおいた。
     うヌっ、うヌっ、ず唞り声を䞊げお痛がるサチをみお、トワの本胜が駆け寄った。
    「サチ、サチサチ、サチ」
     䜕床もトワは呌びかけた。
     痛みのあたり、サチは呌びかけに応えるこずはできなかった。
     ゚ビのように背䞭を䞞めたサチをトワは懞呜に摩った。背䞭、脇腹、脚、痛いず思われる郚分の党おをやさしく撫でた。
     トワは近所のおばちゃんに助けを求め、サチを病院に運んだ。

     埅合宀には氎槜があり、小さな金魚が泳いでいる。氎槜は掃陀が行き届いおいなく、金魚たちは苊しそうに䜇んでいる。
     名前が呌ばれ、蚺察宀に入った。
     サチは蚺察台に寝かされ、トワずおばちゃんが心配そうに、その暪に立っおいた。
      医者は觊蚺をし、痛いかどうかをサチに確認した。レントゲンを撮った結果、幞いにも肋骚の打撲だった。
     看護垫にガヌれが圓おがわれた。もくもくず看護垫が凊眮をしおいる間、トワはじっずサチを芋぀めおいた。サチは俯き加枛であった。
    「トワ、ありがずう」
     サチは小声で蚀った。
     邂逅のずきは、自然ずやっおくるものだ。
     
     その倏のある日、トワたちはそれぞれ瞁偎でマンガを読んでいた。
     空は灰色を垯びるずすぐに雚が音を立おお萜ちおきた。倕立ずいうや぀だ。サチはトワの手をぐっず匕っ匵り庭に出た。庭は狭いが、季節の朚々、季節の花々が怍えられ、いく぀かの石も眮かれおいた。屋根に萜ちた雚が軒先から、幟筋もの氎流ずなっお地面に降りおいた。
     なぜそんなこずがしたかったのか、サチは軒先から零れ萜ちる雚氎を口を開いお萜ちおくるのを埅った。
    「サチ汚いから、やめずき」
     ずいう初江の声を無芖しおサチは雚氎を求めた。䜓を巊右に動かし、いく぀もの雚氎を拟った。
     それに぀られるようにトワも軒先に向かっお口を広げた。
     サチの気持ちの高ぶりは軒先の先の庭ぞず䜓を導いた。降りしきる雚を党身で济びた。それに觊発され、トワも続いた。姉効が飛び跳ねながら、はしゃぎあった。ふたりは䞀瞬でずぶ濡れになった。
     芋かねた初江は、匷いお二人を家の䞭に連れ戻した。祖母は䜓に匵り付いた衣服を䞁寧に脱がせ、真っ裞になった二人の䜓を拭いた。
     初江はただ黙っお二人の䜓を拭いた。
     雚は䞊がり、庭の土に氎溜りができ、そこには倪陜が写っおいた。
     買い物に出かけおいた矎接子はの自転車のブレヌキの音が聞こえた。最滑油が足りない神経に觊る音は矎接子が乗る自転車だずふたりにはすぐに分からせた。
     サチは、おかんだ、ず歓びの声を䞊げた。
     買い物袋を提げ、目の前に珟れた矎接子の額には汗が滲んでいる。食材や日甚品が零れ萜ちんばかり詰め蟌たれおいた。
    「サチ、トワ、ただいた。仲良くしおたおばあちゃんの蚀うこず、ちゃんず聞いた」
     ず矎接子は蚀うのだが、ふたりは嬉しくおたたらず、矎接子に瞋り付いた。
     そんなに遠くない、幌き日々の倏の思い出は同じように、トワずサチの脳裏に共存しおいる。

    ぀づく


    ご芧いただきありがずうございたす。
    1週間埌に #2 を投皿する予定です。
    よろしければ、続きをお読みください。

     
     
    tatsukiず申したす。趣味は音楜です。ラむブに行ったり、ギタヌやベヌスを匟いたりしおいたす。 曞き溜めおいた小説を少しず぀発衚しおいきたす。音楜に぀いおの描写を小説に曞き入れるこずが奜きです。 https://www.instagram.com/tatsuki.pics/

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