
玉手箱とタートルネック
現在の仕事から足を洗うことを考え始めていた男は、午前4時のカラオケ店で、会計時に玉手箱を受け取った。乙姫と呼ぶにはあまりにも巨漢(190cmは優に越しているであろう)で、無愛想な店員からの贈り物であった。
帰宅した男は、シャワーで濡れた髪をタオルで乾かしながら、LINEの通知を確認するくらいカジュアルに、受け取った玉手箱を開けた。次の瞬間、男は玉手箱の中に吸い込まれ、気がつくと目の前には無機質な灰色の作業場が広がっていた。捨て置かれた廃工場の様相だった。
すると突然男の前に、この作業場の管理人を名乗る人物が現れ、その自称管理人から或る映像が手渡された。元の世界へ戻りたければ、映像の中に写っているはずの人物を見つけ出すようにとの由。その映像は、再生時に映像の下部に表示されるバー(再生バー)の上で、スライダーが時間経過と共に右へ動いていくタイプで(大抵の映像はこの形式を採用している)、最初まで巻き戻して再生する際には、そのスライダーを1番左の位置まで引っ張る必要があった。
玉手箱を開けた男は、夜が明けて朝を迎えるまでにその人物を見つけるように命令されたため、仕方なく映像をチェックし始めるが、目当ての人物は中々見つからない。何度も巻き戻して再生していると、よく見るとその再生バーは「右を向いた包茎の男根」となっており、映像を巻き戻すためにスライダーを1番左の位置まで引っ張ることで、包茎の皮が剥かれる仕組みとなっていることに気がついた。一回巻き戻す度に、この世界(玉手箱の中の世界)の一本の男根がズル剥けになり、一人の男性が自信に満ち溢れる。
自信を得た男たちは、包茎治療に対する感謝の念を伝えるべく、作業場の周りに集まるが、突然授かった自信の扱い方を会得していないが故に、「自信がある=大きな声で元気に振る舞う」と早計に思い込み、作業場の周りで大騒ぎする。映像をチェックする男は、周りが騒がしいのでまだ夜の19時くらいであろうと考え、映像のチェックを続ける。自信を得た(ズル剥けの)男たちは映像を巻き戻す度に増え、律儀に作業場へ押し掛けるため、遂には作業場は完全に覆い隠され、作業場内へ差し込むはずの日光が遮られてしまう。
映像の確認を続ける男は、外の暗さを理由に、未だ朝を迎えていないと考えて作業を続けるも、実は何度も朝を迎えていた。それでも該当の人物は容易に見つからず、漸く見つけた頃には、玉手箱を開けた男は何十歳も年を取ってしまっていた。遂に外の世界へ出た男の陰茎には、何十年分かの朝勃ちが一気に押し寄せ、その大きさは190cmを優に越し、見た目の逞しさを買われ、治安の悪いエリアに位置するカラオケ店の夜勤担当として重宝された。