
恋愛小説 深海から月を見る③(終)
〈 前回までのあらすじ 〉
現実を深海の底から眺めているように感じながら生きる高校生・水原美世。
ある朝、通学電車で鹿との衝突事故に遭遇した彼女は、死の間際に自分を見つめた鹿の瞳と、事故の日から続く謎の視線に苦しめられるようになる。
そんな中、美世はクラスメイトの日野流夏と距離を縮めていく。流星群の夜、流夏から想いを告げられた美世は、忘れていた幼い頃の記憶を思い出す。かつて助けた子鹿と、その時出会った少年の存在を。
そして鹿の瞳に導かれるように、美世は再びあの日の踏切へと辿り着く
美世は鹿に勢いよく体当たりした。
電車の音が近づく。
あ。轢かれるんだ私。
電車は、線路内に呆然と立ち尽くしていた少女を撥ねた。
その一部始終を見ていた流夏は、すぐに持っていたスマホで救急車に発信をしていた。
彼の真っ黒に染まった目は虚ろとしていた。
美世が体当たりした鹿は、轢かれた少女を背にどこかへ消えた。
鹿の行方は誰も知らない。
______
カーテンの微かな隙間から、月明かりに照らされた病室。
ピーピーピーと規則的に鳴り響く心電計。
どこか落ち着いた表情で目をつぶっている少女。
彼女の折れた腕を大事そうに触れる少年。
「美世と、また、海に行きたい。美世、会いたいな」
震える声。彼の黒い目に宿る月明かり。
流夏は、あの日のことを鮮明に思い出していた。
去年の夏、二人で見に行った流星群。美世に初めて想いを伝えられたあの日。
美世の笑顔。俺しか知らない君の笑顔。
そんなことを考えていた時。
流夏は微かな、少女の動きを感知した。
美世の指間が開いた。
流夏ははっとして美世の目を見た。
流夏は美世の琥珀色の透き通った瞳を見た。
「あれ……?」
美世の掠れた声が聞こえた。
目を開けると、
月明かりが滲んで見えた。
その向こうに、
泣きそうな顔をした流夏がいた。
ああ。
この視線だったんだ。
「流夏。会いたかったよ。」
美世は流夏の手を握って言った。
「俺も。会いたかった。」
流夏の声は上擦っていた。
______
「美世ちゃん。退院おめでとうございます。お体に気をつけてね。また何かあったら教えてくださいね。」
看護師さんがにこっと美世に微笑んだ。
「いえ、こちらこそお世話になりました!」
美世は明るい声で言った。脇には流夏と珠那がいた。
流夏、珠那の二人は目を見合わせて笑っていた。
その日はよく晴れていた。
私はもう、月も太陽も見失うことがなかった。
(終)
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