
22歳、病気とは無縁だった私に起きた異変。「橋本病」が教えてくれた、自分らしい生き方
なんだか最近痩せた気がする。
最初はうれしい変化だった。ある日、座ってふいに太ももを見てみると、そこにはなんと“隙間”ができていたのだから。
標準体重とはいえど、街を歩くスラッとした女子たちと比べると、自分の体型は劣っているような気がして、昔からコンプレックスがあった。
そんな私に、太ももに隙間ができるなんて!
とはいえ、なぜ痩せたのか理由がわからない。少し前に処方された抗生物質の影響で胃の調子が悪く、自然と食べる量が減ったからかもしれない。最初はそのくらいに考えていた。
痩せたと同時に生理不順にもなった。
生理周期は安定しているほうなのに、1ヶ月以上経ってもこない。かと思えば、生理5日目の経血量が2週間続くこともあった。
そうしているうちに、体全体に倦怠感を感じるようになった。
鉛のように動かない。ベッドから離れたくない。起きてごはんを食べたかと思えば、また眠くなる。心もずっしり重くて正体不明の黒いモヤモヤが私を支配していた。
それでも私は、ことの重大さに気づいていなかった。最近、頑張りすぎていたせいかもしれない。自嘲気味に笑って、軽く受け流していた。
そんな謎の不調が続いていた、ある日。
あれ??
違和感を覚えたのは、久しぶりに会うフリーランス仲間と食事をしていたときのことだった。おすすめのパフェを注文し、口に運ぼうとスプーンをもった瞬間...
ガタガタガタガタッ
気のおけない相手を前に、緊張するはずはないのに、体がこわばっていく感覚がある。
自分でもよくわからない現象にパニックになりながらも、手の震えを相手に気づかれないように「落ち着け、落ち着け...」と心の中で呪文のように唱える。そのときは、久しぶりに会ったから緊張しているのかな、と自分に言い聞かせた。
けれど、体は驚くほど正直だった。それからしばらくして、知人が経営するカフェを訪れたときのこと。オーナーと雑談しながら、皿に盛られたチョコレートのテリーヌに手を伸ばそうとした瞬間、フォークを握る手が無意識のうちに震えていた。
「彩楓、手が震えてるよ?」
他人に手の震えを指摘されて、初めてその異常さに気づいた。これまで、うっすらと体調の変化を感じながらも、自分では認めたくなくて、元気な人間だと思っていたくて、気づいていないフリをしていたのだ。
私は、ここ最近の変化を勇気をもってオーナーに打ち明けてみた。
体重がいきなり5キロ以上落ちたこと。生理不順になったこと。以前も手が震えたこと。
すべてを話したら「明日病院行ってきな!」と強く勧められ、その場で病院を調べ、「明日病院に行くこと!約束!」と鬼気迫る表情で念を押された。
聞けば知り合いの周りにもバセドウ病になった人がおり、同じような症状を訴えていたらしい。初めて危機感を持った私は、翌日、素直に病院へ行った。
採血をして、後日結果を聞きにいく。
「抗サイログロブリン抗体が正常値の16倍、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体が正常値の35倍ですね」
え、そんなに!?
このふたつの成分は、甲状腺の抗体で自分の臓器を敵と勘違いして攻撃する可能性がある。
小さな不調はあったものの、日常生活がおくれないほどだったわけではない。だからこそ、基準値を大幅に超えた検査結果に、正直面をくらった。
まさか自分の体内でそんな反応が起きていたなんて。
想像もしていなかった事実に呆然としていると、医師から病名を告げられた。
「橋本病です」
バセドウ病と同じ甲状腺の疾患の「橋本病」という病名が伝えられた。
その瞬間、一気に不安が駆け巡った。
この病気と一生付き合っていくの?
子どもはできる?
なんで私が病気になるの?
そんな私の心を見透かしたのか、医師はひとつずつ丁寧に説明してくれた。
普段の生活に気をつけていれば、問題はない。妊娠に影響はないけれど、なにかあったら相談して欲しい。現状は甲状腺に異常はないから定期的に検査に来るように。
続けて、こうも言われた。
「30代以上の女性の10人に1人の確率でなる病気だから、そこまで不安にならないで」
なるほど、橋本病に罹患する女性はそんなに多いのか、確率を聞いて少しだけ冷静になる自分もいる。一方で、どうにも解せないことがある。
私はいま22歳。橋本病になりやすい層より、比較的若い方だ。
私は同世代より遅れを取ってしまったのか。目の前の体調よりも、直感的にそう感じた自分がいた。
周りはもうすぐ就職で、「これから社会に出るぞ!」と意気揚々としている。そんな中、私だけが自分の体調に振り回されながら、人生を慎重に渡り歩いていかなければならないのだろうか。
なんだこの不平等さは。
言葉にできないモヤモヤや喪失感に、飲み込まれそうになる。
けれど、悲観してばかりいても状況は変わらない。だから私は「橋本病」になったことを「自分らしく生きてもいいよ」という体からのサインなのだと思うことにした。
無理していやなことをしなくていいし、体調に合わせた働き方をしたっていい。もしかすると、これから普通の人よりもハンデを負うことになるかもしれないけれど、周りと比較しなくていいよと。
今、私は書く仕事をしている。「橋本病」を経験したからこそ、書けることがあると思っている。
自らの症状を公開することで、なんらかの不調を感じている人が病気に気づくきっかけになるかもしれない。同じように大変な思いをしている人に、寄り添うことができるかもしれない。
ここまで読んで「似たような症状を経験した」と思う人がいたら、まずは一度病院に行ってみてほしい。そして、今現在、橋本病で悩む方がいたら、こう伝えたい。
完治が難しいといわれるこの病気。体調に振り回されて、「なんで自分が」と思う日もあると思う。
それでも、ゆっくり付き合っていきましょう。
一緒に、自分らしく生きていきましょう、と。
この記事を書いたひと: 彩楓
宇都宮市在住のフリーランスライター。22歳から活動を始め、雑誌の取材記事やエッセイなどを執筆する。言語化や共感が得意。最近の悩みは、無意識のうちに手に持っているものを落としてしまうこと。
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