曇天のナユタ 第五話 草の章「柊」①
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・砕け散ったロウの破片がオレンジ色に輝いて
まるで流星のように飛び散るなか。
それを背後に「正義をなす」と発したナユタ。
ネハンはポカンと口を開けて……。
「どういう……こと?」
ナユタ「私は500年の時を超え、蘇りし忍の一族……
とある「危機」に対処するため
遥かな時を越えてまいりました」
「しかし……姫に危害が及ぶ可能性がある故
仔細は申し上げられませぬ」
ネハン「仔細は……って、はぁ!?
なにも教えてくれないってこと!?」
ナユタ「姫様、この度はうまく処理できましたが
今後はあまり目立つ行いは避けてくださいませ
もし消したいものがいた場合
私が処理いたします」
「姫様にはこの先、大きなお役目がございます
汚れ仕事は私に任せ
どうかご自愛くださいませ」
・といって、すぅ、と音もなく消えてしまうナユタ。
ネハン「え!?それだけ!?
ちょっと待ってよ! おーい!」
「ねぇったらーーー!」
■
・数日後。学校にて。ダン! と苛立たし気に着席するネハン
ネハン「ったく! なんなのほんとに!」
「あれっきりなんの音沙汰もなし!」
友人「ねぇ、あんた平気? 最近噂になってるよ?」
ネハン「……? 噂って?」
いじめっ子「おい、てめぇ! この間はわけわかんねー力でよくも!」
といって、ふとっちょの子のところににじり寄っていく。
ネハン「ちょっとあんた…ほんとこり……」
どかーーーん!!! とイジメっこの体が吹っ飛んでいき
窓から落ちていく。
ネハン「……」
友人「これだけじゃないでしょ?
あんたの近くだとこの間だって……」
・街中
通行人「お、おい! 返せ! 俺のデバイス! 見るだけって言っただろ!」
チンピラ「ぎゃはは!
騙されるほうが悪いんだよ」
ネハン「ちょっとあなたたち何して…」
ずがーーーん!!!(地面に突き刺さってるチンピラ)
・その他、パパパっと回想で
・ゴガーーーン! と壁にぶっ刺さっている荒くれ者
・ジギャーン!と天井に刺さる男
・バシャーン!と皮に鎮められる男たち
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ネハン「……」
友人「あんた、あだ名ついてるの知ってる?
ポルターガイストだって」
「もしかして、幽霊に取りつかれたって話……マジなの?」
ネハン「うーん……」
「幽霊っていうか
ゾンビだったんだよねぇ……」
友人「……? なにそれ」
イケメン「あ、ネハン
今度こそパーティに……」
・と、その瞬間、ネハンの網膜に、ぴこん、と通知。
すると喜色満面で立ち上がる。
ネハン「ごめん!
用事ができちゃった!」
友人「なに? またバイト?」
ネハン「心の洗濯、よ♪」
■
・下町の小さなジャンクショップ。そこに子供たちが群がっている。
見れば、ストリートキッズたちがおかしをもらってる
・渡しているのはジャンク屋の店主で、片腕が義手になっている。名前をヒイラギ。
ヒイラギ「落ち着いて食えよ
おい、床を汚すな」
ネハン「ヒイラギさん!」
ヒイラギ「おーネハン。さっき連絡したばっかりなのに早いな」
ネハン「まあね! バイク飛ばしてきたから!」
ヒイラギ「やれやれ、うちの店にそんなに急いでくるやつはネハンか借金取りくらいだよ」
ヒイラギ「なに言ってるんですか!
この店がお宝を入荷したとあらば、どんなガンターだって飛んできますよ!」
「20年代の制服あり!
ガジェットあり!」
「用途不明の袋もあり!」
ヒイラギ「サンドバックね……
いちお私物だし」
(奥に、ボクサー現役時代のヒイラギの興行ポスター。ネハンは気づいていない)
ネハン「ここはガンターにとっての
聖地なんですから♪」
ヒイラギ「ふふ…うれしいこと言ってくれるね
今日の掘り出しものは…そんなネハンに
最初に見せたかったんだ」
といってヒイラギは、店の奥から小さな箱を持ってくる。それを開けると……。
ネハン「ええーーー!?
ポカカのカードパックだーー!!」
ヒイラギ「すげーだろ。手に入れるの苦労したぜ」
ネハン「一時期すんごい値段にになったんだよね!?」
ヒイラギ「しかも…なんと未開封」
・ぶくぶくぶく!とあまりのことに泡をふくネハン
ヒイラギ「ネハーン!?」
ネハン「つ、つまりこれからは、あ、あの
ガンガリリエが出る可能性が…」
ヒイラギ「ある…!」
ネハン「す、すごい…
可能性の獣だ…」
ネハンはパックを受け取ると……
ぐっ!と力を籠める
ヒイラギ「おい!!
なに開けようとしてんだ!?」
ネハン「だって、やるっきゃないでしょ!」
ヒイラギ「ばっか! お前! なんにもわかってねぇな!」
ヒイラギはパックを奪い返し、そっと胸に抱く
「いいか?
これは夢のハコなんだよ」
「開けないことにこそ価値があるんだ」
「もしかしたらこのなかにガンガリリエが入っているかもしれない
その可能性だけを嗅いで、幸せお感じ、また蓋をして、なが~~く楽しむ」
「こういうアンティークはそうやって楽しむんだっての」
ネハン「えー
わたしは、開けた方がいいと思うけどな」
ヒイラギ「んでだよもったいねぇ」
ネハン「だって、リスクをおかさないと
本当に欲しいものは
手に入らないでしょ?」
驚いた顔のヒイラギ「…………」
ふ、と笑って
「……若いね~」
ネハン「まぁね~」
その瞬間、
ガターン!!
扉が蹴飛ばされ、顔中がセンサーで埋まったコドックがやってくる。
(コントラ業者の俗称。企業や有力者から荒事を請け負い、市民を締め上げる。合法的な書類を盾に非合法な暴力を振るう。ヤクザとコーポの中間にいる連中)
「ヒイラギ~困るよ~
借りたもんは返してくれないと~」
子供たちが怯えて、ネハンとヒイラギの後ろに隠れる。
ネハン「……だれ?」
コドック「金を借りてんだよこいつ
それも大金をなぁ?」
ネハン「……マジ?」
ヒイラギ「……大した額じゃねぇよ」
コドック「嘘つけ
家のないガキどものために
トレーラーハウスをあてがってやったらしいじゃねぇか
泣けるねぇ」
子供たちが心配そうにヒイラギを見上げる。
ヒイラギ「心配すんな。さっきも言ったろ、大した額じゃねぇ」
コドック「だがもう限界なんだろ?
もう意地はるのはやめてよぉ
おとなしくこの店売りに出せよ、なぁ?」
ヒイラギの額に汗。
ネハン「あんたら……何勝手なこ……
ずぼぼぼぼ!!」
と言いかけたネハンの口にめちゃくちゃ大量のお菓子がどこからか放り込まれる。
散らばった破片が文字になっており
「オサエテ
メダツ コウドウ ダメ」
ネハン「でぼ(も)!!」
ヒイラギ「心配すんなって
用は金さえありゃいいんだろ?」
ペラ、と取り出したのは「奈落座」と書かれたポスター。
ヒイラギ「あんたんとこのオーナーがやってる地下闘技場
出てくるやつは人間も機械も動物もなんでもあり
ファイトマネーも法外……だろ?」
コドック「へぇ
だがあんた戦えんのかい?」
ヒイラギ「知らねぇのか?
おれは、クロムボクシングのチャンピンだったんだぜ?」
*クロムボクシング 機甲を組み込んだボクサーによる地下ボクシング
子供「ええ!? そうだったの!
ヒイラギすごい!」
コドック「……ふぅん
あくまでここは売らねぇと」
ヒイラギ「当然だ」
「こいつらの菓子
誰が食わせんだよ」
子供たち・ネハン「ヒイラギーーー!!」
コドック「……マッチアップが決まったら知らせる」
といって去っていくコドックたち。
その背中を見送りながら
ネハン「だいじょぶなのヒイラギ
優勝したのって、いつの話?」
ヒイラギ「……」
黙っていたが、やがてニヤリと笑い
「心配すんなって
負けたところでこのあばら家がなくなるだけだ」
ネハン「……」
「ううん、負けさせない」
ヒイラギ「なに?」
ネハン「……ナユタ!」
と、叫ぶが返事はなく、店でずっと稼働しているアーケード筐体のBGMがむなしく響く。
ネハン「……ナユタ!」
ともう一度よぶと、まるでしぶしぶ、というように
スゥーーー……とナユタが姿を現す。
ナユタ「姫様。以前も申し上げましたが、姿を晒すのは……」
ヒイラギ・子供たち「誰!?」
ネハン「なんか500年前から
蘇った忍びなんだって」
ヒイラギ「なんだそれ!?」
子供たち「かっけぇ!」
ネハン「この子、すっごく強いの
姿を現さなくても
あなたを勝たせられると思う」
ヒイラギ「ほ、ほんとかよ?」
ネハン「信じて。
絶対、この店は奪わせないから」
という強い視線を送るネハンと、困った様子のナユタに、ヒイラギは
ヒイラギ「……ああ」
とうなづくほかなかった。
■
ネハンたちが帰ったあと、ヒイラギは地下室へ降りていく。
ぱちんぱちん、と電気をつけると雑多な在庫に混ざって、大事にしまわれている箱。
暗闇の中にケースに入っている機甲アーム
手に取ろうとして、ぶるぶるぶるぶる……
ヒイラギの、肉体のままの腕が震えている。
ヒイラギ「くそっ……」
〇
ナユタ「姫……
このように私の正体を公言されては困ります」
「私たちには崇高な使命があるのです」
ネハン「じゃあその崇高な使命ってなんなわけ?」
ナユタ「……」
ネハン「おしえてくれないじゃん」
ナユタ「……今はその時ではないのです」
「ともかく、
私は協力できません
我々は事が起きるまでは
目立つべきではありません」
といって、消えていくナユタ
ネハン「ちょっと! なに勝手に……
こらー! 消えるなー!」
「きこえてるんでしょ!
ねぇったら!」
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部屋にて
「ねぇったら!」
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風呂にて
「聞いてるんでしょ!」
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お布団に入りながら
「ばかあほまぬけーーー!」
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バー。
目の下にクマをつくったまま、牛乳をだすネハン
ネル「どうしたのだネハン
昨日は眠れなかったのか?」
ネハン「……一度も言い返してこなかった
忍耐づよい……さすが忍び」
ネル「……?」
■
・ジャンク屋
がらら、と戸を開けるネハン
ネハン「ごめん、助っ人の話なんだけどさ……」
と、机に集まって何かを見下ろしているヒイラギ
「なんてこった」
ネアン「……?
どうしたの」
机の上に置かれた機甲アーム
内部が露出しており、明かに……
ネハン「壊れてる」
ヒイラギ「……やられた。
少し目を離した隙に……」
ネハン「一体だれが……」
子供「決まってる……!」
コドック「おやおやおやおや
どうしたんだお前ら雁首揃えて」
「ああ?
なんだそりゃ!
はははは!
こりゃ傑作だ!」
「機甲がダメになってるじゃねぇか!」
ネハン「コドックども……!」
コドック「おいおい、これじゃ
奈落座なんて無理じゃねぇか?
ははは! やっぱこの店売るしかねぇな!」
ネハン「……こいつ!!」
ヒイラギ「やめとけ。
機甲があればともかく
戦って勝てる相手じゃねぇ」
コドック「そういうことだ」
ヒイラギ「……ちっ
仕方ねぇ」
「いまこの店の権利書(ライセンス)を」
だん! とく机に拳を叩きつけるネハン。
ネハン「ダメ」
ヒイラギ「ネハン……?」
ネハン「そんなのだめ
認められない」
ヒイラギ「認められないって
でも、どうしようも……」
ネハン「お金があればいいんでしょ?
奈落座で勝てばいいんでしょ?」
ネハン「だったら」
「私が出ればいいじゃない」
全員「…………」
がたたたーん!!!
ヒイラギ「!?
天井から何かが
転げ落ちた音が聞こえなかったか!?」
コドック「ふぅん……面白れぇじゃねぇか」
「いいだろう。出してやるよ」
「おっさんがただなぶり殺しにされるより
お前みたいな上玉がグチャグチャにされるほうが、盛り上がるだろうからな!」
といって、コドックは高笑いをしながら去っていく。
■
・バー
姿を現したナユタがネハンに詰め寄る。
ナユタ「なにを言い出しているのですか!」
「申し上げたはずです……!
目立ってはいけないと……!」
「私たちには使命があるのです
それまでは……」
ネハン「ナユタ、あなたは私と一緒に酸の雲を晴らそうって
いってくれたよね」
ナユタ「……ええ」
ネハン「でも、
私たちの頭上で太陽の光をさえぎってるのは
あの雲だけじゃない」
ナユタ「……」
ネハン「私たちの遥か上から
力で覆いかぶさってきて
お金も、自由も、奪って
私たちから希望を失わせる」
「あの子たちからも
あの人からも」
「奪って、地面に這いつくばらせて
なんにも悪くないのに
謝らせる」
「生れてきたことそれ自体が、罪みたいに」
ナユタ「……」
ネハン「ナユタも言ってたよね
あなたの時代と今の時代は大差ないって」
「じゃあ見たでしょう」
「理不尽な暴力が世界を支配する様を
それを見たからこそ
あの時、わたしを救ってくれたんでしょう」
ナユタ「……」
ネハン「ナユタ。今こそ返事させて」
「私とあなたで
この街を覆ってる雲も晴らそうよ」
ナユタ「…………」
ナユタは無言で、すぅ……と
姿を消す。
ネハン「ナユタ?」
ネハン「…………」
「はぁ……」
やはりダメか、とあきらめた様子で仕事に戻ろうとすると……。
ピュン、と氷がネハンの方に飛んでくる。
ネハンがはっとした瞬間、
ビュン!!
『ネハン』は鋭く拳を振って
その氷を弾き飛ばす。
ポカンとするネハン。
さらに複数の氷、酒棚から小瓶が飛んでくるが
それらを全てシュパパパッパン!
とジャブと蹴りではじき返す。
心底驚いた顔のネハン。
見れば、彼女の手首や、指に、
細い、ピアノ線のようなものが
絡まっている。
ネハンは何も見えない店の奥の
暗がりを見つめ、
口もとに笑みが浮かぶ。
ネハン「いいね」
ネハン「気に入った」