
そとあそび#30 地獄
さくらは、ヒカルと別れた。
笑顔で別れられたことに驚いたが、すんなり日常生活に戻った。
4月になり、さくらは47歳を迎えようとしていた。
去年の誕生日は、ヒカルと…
と思い返していた。
毎年のことのように、誕生日には一人で映画館に行っていた。
今年も映画を見ようと、出かけた。
去年と変わらず、花見客で賑わう駅を抜け、足早に映画館へ向かっていた。
いつもは使わないカバンを、その日は誕生日だからと使った。
スマートフォンを取り出そうと、カバンを探った時に、ヒカルと水族館で買ったキーホルダーがカバンの底から出てきた。
それを見た瞬間、蓋をしていた感情が一気に溢れてしまった。
別れたくなかった。
続いて欲しかった。
別れたくなかった。
なかなか会えなくても関係を続けようと言って欲しかった。
最後の日は、思い切り抱きしめて欲しかった。
キスもしたかった。
ふたりで、ずっと一緒にいたかった。
…別れたくなかった。
歩行者がチラチラさくらのことを見ていた。
それもそうだ。
道端で、号泣しながら歩いているさくらを、街ゆく人が気にしないわけがない。
けど、さくらの涙は止まらなかった。
泣きながら映画館へ行き、本来見るはずだった映画を辞め、
感動の大作!!全米が泣いた!!
と、評判の、大して見たくもない映画を見た。
…泣いた跡は、映画のせいにできるから。
去年の様に、映画の内容はちっとも頭に入ってこなかった。
しばらく涙を流したら、さくらはヒカルにLINEをした。
「ヒカル君、私、本当は別れたくなかった。
けど、好きだから別れた。
本当にありがとう。大好きだったよ。
けど、もう本当に終わりにするね。」
短いLINEを送り、ヒカルをブロックした。
終わった。
さくらの「そとあそび」は、終わって帰路についた。
『はじめまして。ヒカリです。
時間が合う時にまずはお茶したりご飯食べたりできる人と出会いたいです。』
さくらは、ヒカルと出会った既婚者マッチングアプリとは別の、似たようなマッチングアプリで「ヒカリ」と名乗り、また誰かを探し始めた。
誰かが言っていた。
婚外恋愛は、一度うまくいったらまた、同じ蜜を吸いたくなる。と。
まさに、また甘い蜜が欲しくなった。
家族に罪悪感がないわけではない。
けど、抜け出せない。
さながらさくらは地獄に落ちたような感覚だった。
けど、どうせ抜け出せない地獄なら、地獄の中で楽しめばいいじゃない。
したたかになった。
手練手管を覚えた。
さくらは、そとあそびを辞め、地獄の中で遊び始めた。