
連載小説|「優しい地獄」 #14 |遅れて伸ばす手
金曜21:00連載
望月は、その夜、眠れなかった。
理由ははっきりしない。
ただ、
凛の「そうだね」が、
頭の中で何度も再生される。
軽い。
軽すぎる。
それは怒りではなかった。
責めでもなかった。
でも、
温度がなかった。
望月は、スマートフォンを開く。
指が止まる。
何を送ればいいのか、
わからない。
それでも、打つ。
「ちゃんと会って話そう」
送信。
既読は、すぐにつく。
返信は、来ない。
五分。
十分。
三十分。
望月は、はじめて焦る。
今までは、
凛が追ってきた。
隙間を埋めてきた。
空気を整えてきた。
今は、静かだ。
凛の返信が届く。
「何を話すの?」
その一文に、
望月は言葉を失う。
何を、だろう。
何かがおかしいと感じている。
でも、
何が壊れたのか、
説明できない。
凛は、
怒っていない。
泣いてもいない。
ただ、
もう、
伸ばした手を握り返さない。
優しい地獄は、
手を振り払わない。
ただ、
指先を、
少しずつ、
離す。
望月は、ようやく理解しはじめる。
遅い。
それでも、
まだ間に合うと思っている。
それが、
いちばん残酷だった。
次回「#15 間に合わない」でお会いできたら嬉しいです。
— 桐谷しおり