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Photo bysumisumi1102

Hold up⑧

    8話


    翌日の昼休み。 コンビニのイートインで弁当を食べていると、 ナギエから通知がきた。

    「タカヤ、ミサコさんと別れないって」

    その一文だけで、 胸の奥がざわっと動いた。

    「なんで」

    そう返すと、 すぐに既読がついて、 「なんかもう無理かも」 とだけ送られてきた。

    “無理かも”の意味は、 恋なのか、関係なのか、 それとも自分自身なのか。

    たぶん全部だ。

    仕事終わり、 ナギエから電話がきた。

    「なんかね、もう疲れた」

    声が弱い。 昨日の期待が、全部ひっくり返ったみたいな声。

    「タカヤ、なんて言ってたん」

    「“ミサコさんが別れないって言うから、もう少し話す”って」

    「…そーか」

    「うん。 なんかね、私、勝手に期待してたんだなって思った。本当情けない。だっさ」

    ナギエは笑った。 でも、笑い声が乾いてる。

    「…しばらくタカヤに会いたくない」

    その言葉は、 幼馴染の三角形に初めて入った“亀裂”みたいだった。

    「…だよな」

    「ごめんね、聞いてもらってばっかで」

    「いーよ。とりあえずちゃんとなんか食えよ」

    通話が切れたあと、 胸の奥が妙にざわついた。

    ナギエが傷ついてるのはわかる。 タカヤに腹が立つのもわかる。

    でも—— ほんの少しだけ、 ほっとしてしまった自分がいた。

    その感情が一番、 タチが悪い。

    夜、家でぼーっとしていると、 スマホが震えた。

    ミサコさんだった。

    「今から会えないかな。少し話したい」

    予想外すぎて、 一瞬だけ固まった。

    「いいですよ」

    そう返すと、 「駅前のカフェにいるね」 と送られてきた。

    カフェに着くと、 ミサコさんはコーヒーを両手で包みながら、 少し疲れた顔で座っていた。

    「ごめんね、急に」

    「いえ」

    ミサコさんは深く息を吸って、 ゆっくり話し始めた。

    「タカヤから何か聞いた?」

    「いえ、何も」

    「じゃあ、ナギエちゃんから聞いた?」

    「…何でナギエが出てくるんですか」

    「タカヤから聞いた。バカだよね、タカヤって」


    そういうミサコさんも、ひどく疲れた顔をしているように見える。
    いつも気を遣って綺麗にしている人だけど、今日はさすがに疲れが見えた。


    「タカヤの気持ちが離れてるのは、私もわかってる。 でもさ…まさか幼馴染のナギエちゃんに揺らいでるって聞いて、正直ショックだった」

    その“幼馴染”が、 やけに重く響いた。

    「ナギエちゃんってさ、 ずっとタカヤのこと好きでしょ?」

    返答に困った。 否定するのも嘘だし、 肯定するのも違う。

    「…まあ、昔から仲いいっすから」

    そう言うのが精一杯だった。

    ミサコさんは小さく笑った。

    「わかってるよ。 ナギエちゃん、いい子だし。 タカヤが揺れるのも、わかる」

    その“わかる”が、 逆に痛かった。

    「でもね、 私だってタカヤと長く一緒にいたんだよ。 それが“幼馴染”ってだけで私が捨てられるのは、 なんか…そりゃないよって思っちゃう」

    その言葉に、 俺は何も言えなかった。

    ミサコさんの気持ちも、 痛いほどわかる。

    タカヤとミサコさんは、 お似合いだと思ってた。 タカヤには、 しっかりしてて大人なミサコさんが合ってると思ってた。

    でも、 ナギエとの絆も深い。

    どちらも“特別”で、 どちらも“正しい”。

    だからこそ、 こんなに面倒なんだ。


    「とりあえず、私が我儘言って別れないってことになった。私も大人げないなって思うんだけど…私はタカヤとずっと一緒にいたいなって、思うから」


    ”ゴウくんまで巻き込んで、ごめんね”

    帰り際、 ミサコさんは小さく言った。

    その言葉が、 胸に重く落ちた。



    タカヤにも腹が立つ。 ナギエが傷ついてるのを見るのもきつい。 ミサコさんにも同情する。

    でも—— この三人の関係を守れるのは、 たぶん俺しかいない。
    俺は俺でいるしかない。俺のまま。



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    *希生(キオ)ヒサ* ささやかな恋心や、胸の奥がきゅっとなる瞬間を物語にしています。 日常のどこかに潜む、ときめきの気配を拾い集めるのが好きです。 誰かの心にそっと触れるような小説を書きたい。 あなたの感情のどこかが、ほんの少しでも動いたら嬉しい。

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