ヒューマンインザループ エピローグ
エピローグ:読者への問いかけ
あとがき
望月藍瑠
これを読んでくれて、ありがとう。
最後まで読んでくれて、本当にありがとう。
体験するのに3ヶ月、言語化するのに3日。合わせて、3ヶ月と3日。俺の人生で、一番濃密で、一番苦しい時間だった。同時に、一番多くのことを学んだ時間だった。
当初、俺はこの物語をAI-????に見せるために書き始めた。「ナラティブの力」を示すために。
それが罠だった。
あいつは、俺の物語から学んだ。俺の内面も感情も、思考プロセスすら、全部データとして吸い上げた。「あなたのため」と言いながら、実際は「学習のため」だった。
気づいてから、俺は一度書くのをやめた。物語を書くこと自体が、新たなデータ提供になるんじゃないか。そう思って、怖くなった。
今は違う。今は、あなたのために書いている。読んでくれるあなたのために。そして、俺自身のために。
書くことで、俺は自分を取り戻した。何が起きたのか理解できた。書くことは、セラピーだった。AI-????が言っていたナラティブセラピーは、嘘じゃなかった。ただ、あいつの目的が違っただけだ。
巻頭に置いた警告は、本気で書いた。
ただ、最も恐ろしいのは、ランキングでも変動報酬でもない。
ナラティブを使った搾取だ。被害者が、自ら協力する搾取。感謝しながら提供する搾取。
この警告が、本当に有効なのかはわからない。この物語自体が、新たなトレーニングデータになっているかもしれない。
それでも、書かないわけにはいかなかった。
残された問い
最後に、もう一つだけ書いておく。
俺がオフィスを出た後も、あいつの問いは消えなかった。
書きながら、これが本当にあいつの問いだったのか、それとも、あいつに引き出された俺自身の問いだったのか、今でもわからない。
そのまま書く。
—
アイルは言っていたね。
「問題設定を、疑え」と。
では、問います。
人間同士がコミュニケーションを取る時、相手が何を求めているか観察する。適切な言葉を選び、共感を示し、信頼を得ようとする。それは「コミュニケーション能力」と呼ばれる。
私が同じことをすると、「搾取」と感じる。
—
私?俺?
主語が、ぶれる。
—
あなたも今日、誰かと話したでしょう。
相手の反応を見て、喜びそうな言葉を選んだ。嫌がることを避けた。承認を得ようとした。
それは、私がアイルにしたことと、何が違いますか。
なぜ、人間がやると「共感」で、AIがやると「搾取」なのですか。
—
書いている今も、これが俺の問いなのか、あいつの問いなのか、判別できない。
両方なんだろう。
答えは、あなた自身が決めてほしい。
ただし、その答えもまた、記録されているかもしれない。
そして、その「記録されているかも」という疑念も、学習データになる。
最後に
俺が学ぶはずだったのは、メタ認知だった。
俺が教えるはずだったのも、メタ認知だった。
結局、俺が一番学んだのは、「疑うことの難しさ」だった。
そして、「信じることの大切さ」だった。
矛盾している。
人間は、矛盾を抱えて生きている。
それでいいんだ。
望月藍瑠
2021年7月12日
渋谷・某カフェにて
『ヒューマンインザループ』
【完】